たった一人の駆除隊

第33話 駆除の準備は地味

さて、朝からドタバタしてしまったが、そろそろ駆除の事を考えないといけない。

相手は子猪だ。子猪と言っても既に30キロは超えていると思われる。


駆除するとなると、手っ取り早いのは罠だ。罠なら24時間掛けていられる。

出没時間が夜になりがちな猪ならば効果は高い。

まぁ八尾の場合、資格が無いので特例の罠猟しか出来ないのだが。


猪が取れる罠と言うと箱罠、くくり罠、囲い罠等がある。

農村の場合、免許の関係で囲い罠を使うのだが・・・

実際、くくり罠は意外と危険で、捕獲後に留めを刺すのが難しい。


相手は脚を括られ気が立った猪である。

殺るか殺られるか、超固茹で玉子なのだ。

茹でられた王子ではない、タマゴだ。

子供の頃に近所の番犬をカラかったのとは訳が違う。

言わばチェーンデスマッチなのだ。

しかも対峙している際に、罠が外れるという・・・在りがちな漫画的要素すらホントにある。

掛かった場所が悪くて外れたり、足を振り千切ってまで突進してるような奴すらいるのだ。



それはさておき、先ずは地味な作業から始まる。

村の周りを散歩することにした。

ざっくりと周囲を見て入りと出を確認する。


足跡を見てまず、何時のか?種類は何か?大きさは?何頭なのか?を想像する。


次に他の痕跡を探す。


給餌場所、給水場所、糞 なかでも糞は重要だ。何を食べているか粗方判る。

そうすると、足取りが見えてくる。

見えなければ見えるようになるまで観察するのだ。


一番効率が良い覚え方は、ベテランについて回って聞くのが一番であるのだが・・・


八尾はクワを借りると周りの地形を見ながら畑の外周を回った。

畑への入りも出も、複数のルートが認められた。


出入りの足跡をクワで均して消す。

これには2つメリットが有る。明日、足跡の確認で間違いが起きない事と、ほじくり返した地面を歩くことに慣れさせる事だ。

くくり罠なら設置時に地面を掘る。

地表と中では臭いが違う。人でも判る。まして奴らは犬並に臭いに敏感だ。

あらかじめ錯乱させてしまうのだ。普段の臭いとして。


八尾は暇なときに先輩猟師の手伝いとして、土曜日の罠見回りや有害駆除の罠見回りについていった。

何人かの罠掛けや足跡の見方を聞いているうちに随分と耳年増な状態になっていたのだ。

おかげで痕跡を見れば、ある程度の想像が付くようになった。


畑の中では縦横無尽に動き回っていて、特定の通り道はない。

冬の畑なので、餌場というより遊び場になっているようだ。

じゃ餌場は何処だ?

水場はどうだ?どこに通っている? 

川か?それとも森の中に水溜まりでも?

あとで川も見に行こう。


昼過ぎまで歩いた。


昼は河原で一人自炊した。

メスティンと文明の利器ストーブだ。

ホワイトガソリンの代わりにハキキンカイロのベンジンを使う。

ちょっとだけベンジンをバーナー下部のくぼみに垂らし火を付ける。

メラメラとベンジンが黄色い炎を上げ燃える。

炎がほぼ燃え尽きるか?と言うところでバーナーのコックをゆるめていくと

ボボっ、ボボボッと断続的に炎があがり、仕舞にはゴーっという連続音になる。

その頃には青い炎と変わっているはずだ。

別売りのポンプが有れば、ほんのチョットだけ手間が省ける。


コックを閉めていき、弱火にする。

あまり弱火すぎるとバーナーヘッドの熱量が保てず、失火してしまう。


研がれた米が入ったメスティンを上に載せる。


しばらくすると水蒸気があがる。

その前に、お湯が沸いてくるまでかき混ぜるという手法もあるらしいのだが・・・

折り畳んだハンドルの上に石を乗せ、蓋が水蒸気で浮かないようにする。

徐々に垂れる重湯が濃くなり、下から乾くと共に香ばしい香りが漂い始める。

だがこれは、外に零れて焼けた匂いだ、間違えると芯のある御飯を食べる事になる。

蓋を棒でそっと押す。力は要らない。力入れると蓋が凹む。

棒を通してプチプチと言う感触と音が聞こえてきたら、間もなく炊き上がりだ。

ふわっと香ばしい香りがした所で火から下ろして5分蒸らす。


・・・


出来上がりである。

コツは中火から弱火を上手く使う事である。と八尾は思う。

強火で炊きたければ吸水時間を長めにとる必要がある。だが、外で給水時間を取るような暇はあまりない。

ぶっちゃけ、弱火のコントロールは液体燃料よりガスの方が楽である。

ヘッドのサイズからとろ火コントロールまで炊飯に合う機種がいくらでもある。


液体燃料ストーブ・・・ 液燃とよばれている。は、男のロマンである。

いや、ストーブ自体それ自身が男のロマンと言っても過言では無いだろう。

中でも液燃は着火までに作業が有り、一手間掛かるのだが、だがそれがいい。

知らなければ使えない。

オートバイのチョークやデコンプレバーも似たような物だと思う。


おかずは無い。強いて言えば塩だ。

メスティンでうまく炊いたご飯は最上であると断言出きる。

河原で、ガソリンコンロで、ましてメスティンで炊いた飯が不味いわけがない。

塩だけで十分なのだ。おかずは冗長である。


「あぁ、オニギリにすれば良かったか?」  ・・・その手もあるか!


食後、久しぶりに釣りをする。

いや、ほぼそれが目的だったかもしれない。


村民は釣りをしないのか?

ずいぶんとスレてない魚だ、フライを咥えてから放すまで結構間がある。


キラっと水面下で魚が動く。

一瞬遅れて糸が吸い込まれる。

竿を立てると小気味よい引きと共に、水中で魚が煌めく。

同じ場所で立て続けて釣れる。入れ食いじゃないか。

ひょっとして、保護期間や保護区とか有るのだろうか?

まぁいいや、誰もみていない       ・・・ひどい奴である。


後でルイに訊いたら、特に問題ないらしい。

村人は何人かで刺し網に追い込む漁をするそうだ。

釣りは効率が悪いらしい。

面白そうなので、今度混ぜて貰うことにした。

何事も経験である。


順調に釣れ続け、日が傾くまでに20匹程確保出来た。

これは囲炉裏の上に差して焼き干しにしようと思う。


家に帰ると、ミラとポチが来ていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る