第32話 ワタシノナマエハ「べるで」

「おい、ア、アン、傷は浅いぞ、しっかりしろ」 ・・・元々傷なぞ無い。


「大丈夫か?おい」

両手でほっぺたを横に引っ張ると僅かに顔をしかめた。



「イシキレベルJCS130、GCS8、シンパクスウ、セイジョウ、コキュウ、ケッチュウサンソブンアツ、セイジヨウ、ノウハ、セイジョウ、ノンレムスイミンチュウトハンテイサレマシタ」


後ろから機械音声が響く。

白目を剥いたまま寝るとは器用である。


振り返ると少女が立っていた。

髪は深い緑色で切ったことが無いような感じすらするように、腰まで伸び、前髪は真ん中で分けられている。

一重で重たそうな目、表情が全くと言っていいほど感じられない、肌の色はアンより白い。

背は八尾とほぼ同じかちょっと高いか?

真っ黒のローブを纏っているが、やたらと小さい。

丈は膝上だし、腕の先も半分見えている。

それにより判る、何よりアンと大きく違う胸元。


「何だ、おまえ?何処から湧いた?」


「ワタシハダイキユウホウメンカンリカンヨウノパーソナルタンマツ、ナマエハアリマセン」


「第九何チャラって・・・これの?」


「ソノシツモンノカイトウハイエスデス。

・・・アナタガ、タケルヤオデスカ?」


「あ、あぁ、そ、そうだ、俺は八尾 猛・・・」


「ニンショウトウロクヲオコナイマス、リョウテヲマエニダシ、メヲヒライタママニシテクダサイ。」


そのまま素直に従う八尾。


端末のオデコ辺りから光線が出て横にスキャナがかかる。

目に入ったところで

「モウマクニンショウジョウホウ、ホカンサレマス」


目は強い光でチカチカしている。


「ジョウミャクジョウホウヨミトリカンリョウ」


前に出した手の平を、見えない壁に手を着くような感じに修正された。

指紋か?


ふにっ


「シモンヲヨミトリマス、ソノママテヲウゴカシテクダサイ」

ふにっ ふにっ ふにっ

「シモン、ショウモンヨミトリカンリョウデス」

「アカウントトウロクヲオコナイマス。」

ふにっ・・ふにっ・・ふにっ

「アッ、トウロクジョウホウキサイジコウニゴキガ」

ふにっ?ふにふにっのふ~にっ

「アッ、カキコミカンリョウシマシタ。シテシマイマシタ。」

「イイカゲンニテヲオロシテクダサイ」


八尾は言われるままに手を下ろした。

柔らかいようで入力の自乗で反発する不思議な読み取りデバイスだった。

どんなデバイスだったかは、目がチカチカしてて見えなかったので判らない。


データの書き込みに中央演算装置の負荷が高かったのか?

端末は顔がほんのりと赤味を帯びていた。


「それで?端末って言ってたけど、端末ってこれみたいな?」

画面を開く八尾。


「ハイ、ゴシュジンサマ、ソレノジョウキキノウヲモッタタンマツデス。」


「ご、ご主人様って?誰が?」


「タケルヤオ、アナタデス。サキホドノトウロクニテスーパーユーザトッケンモードガフヨサレテテイマス。」


「は、はぁ、なるほど?・・・ん?特権モードって何が出来るの?」


「ソチラノタンマツカラコマンドノジッコウ、セッテイノヘンコウ、モードノヘンコウナドガカノウデス」


画面を見る。左上に歯車型のアイコンが増えている。

開いてみると中央に四角い枠が現れた。


「ソチラデニンショウヲオコナッテクダサイ、シモン、ショウモンドチラデモタイオウカノウデス。」


ほう?設定?なになに、

この言語パック追加変更ってなんだ? お、「日本語(JP_Ja)」ってのがあるな、変えてみるか。

ほ~ 声まで変わるのか。 じゃ確定っと。

名称?はぁ、確かに空白だな。 じゃぁ・・・髪の色で「べるで」とか、あ?変更出来なくなった。

あら?一度入れたら変更出来ないのか・・・ まぁ良いか。

髪? あ、色は固定なんだ、元がストレート、ボブ、アフロ・・・いや、変えない方が良いか・・・

服飾?へぇ 何か色々あるな・・・

変更して、プレビュー? おわっ いかんいかんキャンセルキャンセル。

いきなり脱ごうとするな。 え?プレビューって試着? そりゃ失礼しました。

はぁサイズとかも自動じゃなくて変更なんだ。 サイズ変えて、後ろ向いているから着替えたら教えて。

あ、終わった? うんサイズ丁度良いんじゃない?


「お・楽・し・み・の所悪いんだけどっ、状況を説明してっ「端末」 」

いつの間にか気が付いて、いや起きていたアン。

「タ・ケ・ル・さんっ・・・後でっ・・・後で転送されている間に何したか、みっちり聞かせてもらいますからねっ。」


「了解しまシタ。オネェサマ」


・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・・・・

なるほど、こっそりあっちの端末に混じって、私が墜ちるときに一緒に飛び込んだ・・と

勢い付けてたから私より先に落ちた・・と

私が仕込んでいた、元のサイズに戻る設定とかがあなた端末に適用された・・・と


どうしてこうなるのよっ!


おまけに第九方面管理官の任を解かれちゃったら、ちーともチート出来ないじゃないっ。

え?タケルがわーるず管理官の伴侶認定されて?

私が任を解かれたのを、タケルの情報を基に上書き?

え?でも書き込みの際にアンで登録された?

あなた端末が上書きした? エラいよくやった。

え?でも管理官の伴侶の伴侶だから機能制限がキツイって?


どうしてそうなるのよっ!

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