第22話 ある少女の死と・・・
少女はボーっと屋根を見ていた。
村の家には天井などと言う洒落た物は無い。
囲炉裏と茅葺き屋根の家なのだ。現代ではある意味オシャレな訳だが。
1LDK・・・寝室、囲炉裏の間、台所、そして土間。
ありふれた村の家でたった一人、横になり天井を見ていた。
もう寒さも空腹感も感じない、ただボーっと天井を見ていた。
父は昨年の秋、畑で猪に突かれて死んだ。
父を殺した猪は町のハンターが退治した。
しかし群れの子猪が残っていた。
もう依頼を出す金は村には無い。
畑は荒らされ続けた。
秋の収穫は壊滅した。
落穂を拾い、掘り棄てられた、僅かな、小さな芋を、必死でかき集めた。
それでも冬を越せるであろう食料には程遠かった。
母も年の暮れに、父の後を追うように、死んだ。
心労が重なったのであろう、朝起きると横で冷たくなっていた。
少女は必死に生きようとしていた。生きるつもりだった。
春に蒔く種籾は食べずに守った。どんなに空腹でも種籾だけは守ったのだ。
他の村人も状況は同じだった。どこも飢えていた。
助けを出せる余裕はなかった。どこも必死だった。
体力の無い者から脱落していくのであった。
「おど、おっか・・・」
力なく声を上げると、少女は目を閉じた。
壁の隙間から陽の光が筋となり少女を照らしていた。
光の筋がキラキラと少女を包む。
吸い上げられるように光が消えていった。
それからしばらくして、残像のように光が降り注ぎ始めた。
光の粒が少女を包む、そして吸い込まれていく・・・
少女は目を開けた。
「ここは・・・どこ?」
22.5 トコロ転生
「君は・・・第九方面管理官について何か・・・知ってるかね?」
「創造者」は、「わあるず中央記憶素子検索システム」に問い合わせた。
「創造者」・・・この世界の創造者、というか幾つもの世界の創造者。
思念体であり、創造者の一部であり、全部である。本来実体は無い。
しかし・・・時々仮想空間上で具象化して仕事をしている。
190センチ位の高身長、ひょろっとした風体だが肩幅が広い。髪は銀色で長い。
男性っぽい感じである。
設定自体は彼?の趣味であり実益である。
時々、世界の分岐先の一つに現れ、補正を行ったりするのだが、権威の具象化と言うことで
色々とこの姿が役に立つということである。あるいは単なる趣味だけかもしれないが。
部屋の装飾には興味は無いのか、明るいが全面真っ白で何処が壁だかわからない。
ひょっとしたら単なる空間と言うことなのだろうか?それともこれも趣味なのか?
「シッテルヨ」「シッテルヨ」
「マタ、カンショウサセタネ」「カンショウシタネ」
ちょっと甲高い機械音声のような声で喋る。10歳前後の女の子のように見えるが端末である。
今時、現世の機械でももう少しましだ。
白い厚手のワンピースを着ている。双子のように似ている。端末だが・・・
白い部屋に白い服、迷彩である。辛うじて輪郭に影が付くのでワンピースと判断できる。
まるでCG映画の撮影に青い服を着てしまったような感じである。
「ほう」
眼鏡の縁を指で押して位置を正した。・・・仮想空間上だが。
「創造者」は興味を持ったようだ、いや、何か懸念事項の確認だったかもしれない。
「ダイキューホーメンハマタカンショウシタネ」
「ダイキューホーメンハライトコンフリクトオコシテカンショウシタネ」
「「データヲテンソウスルネ」」
「・・・またやったのか 第九方面管理官をこちらに呼んでくれ。直ぐに・・・だ」
送られてきたデータを認識しながら、眉間を指でグリグリしながら言った。 ・・・仮想空間上だが。
「リョーカイデスダイキューホーメンカンリカンヲヨビダシマス」
「リョーカイデスヨビダシチュウデス」
「何か用かしらっ?」
5分とかからずに来た。時間概念があるのか解らないが・・・
「用が有るから呼んだのだ。先日の事故の詳細を確認したい。報告書は出したかね?」
「報告書・・・とは?一体っ?先日の事故は記録の通りでございますがっ」
「私がその単語を言った意味を考えたまえ」
「・・・」
「衝突した片方のゾーンには全く影響が出ず、もう片方も質量、空間、速度とベクトル、
位相についても実に的確に合致したおかげで、時間経過後もなんら影響が出ていない。
これは非常に興味深いデータであるな。」
バレバレである。
「ぐぅ・・・偶然の奇跡ですわねっ。」
声が裏返る
「偶然の奇跡・・・ね・・・君は・・・面白い表現を知っているな・・・ むぅ、ゴホン」
仮想体なのに咳をする。
「これは非常に面白い検体となりそうであるな。このゾーンについては今後の分岐を発生させずに経過を観察することにしよう。
ついては君は現場から報告を上げてもらいたいと思う。頑張ってくれたまえ。」
「「コマンドウケツケマシタ ジッコウシマス」」
足元に穴が開いた。 ・・・仮想空間上だが。
「きゃぁぁぁぁ~」 第九方面管理官は叫び声と共に墜ちて行った。
「ふむ、受け入れ先は・・・丁度あそこで良いか・・・
ふむ・・・あと、君、あの親子、別ゾーンで良しなにしてやっておいてくれ。」
「「リョウカイシマシタ ジッコウシマス」」
一部であり全部である。同じ穴の狢である。結構気まぐれに干渉をしているのであった。
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