第21話 ガラで出汁とればもっと旨いキジ粥
キジを捌く。
こいつも、羽を使うのでさらっと皮を剥く。
皮と肉の間に指を差し込み、時々すじをナイフの刃先でちょいちょいっと切る。
手羽先と足は皮の方に残す。
頭も皮に残したので、着ぐるみの抜け殻のようだ
そして、胸肉、ささみ、モモ、手羽を外していく。
カモに比べるとモモが逞しい。
片側の胸肉とモモを遠火で炙る。
残りを細かく切ってから鍋に入れた。マジックライスも投入。
フツフツと湯気が上がり、辺りにいい匂いが漂う。
鶏粥の完成だ。 ・・・キジだけど
「ほら、お食べ。熱いから気を付けてな」
おずおずと差し出されたコッヘルを両手で受けようとした所で八尾は手を止める
驚いたように少女の手が引っ込む。
「ああ、ごめん。熱いからな、気をつけて。 ここを持つんだ」
ハンドルを指差しして教えた。
少女は、おずおずとハンドルを持つ。
コッヘルの中をじっと凝視する。
「にっちゃ、これコメこでねぇだか!?
オラにくれるんか? 食うてもええだか?ホントにええだか?」
まるで機関銃である。
「おぉ食え食え。いっぱい有るからな。遠慮しないでいいぞ」
少女はまだ中を見つめていた。 ・・・流石に粥は手掴み出来ないのである。
「おっと ごめん、サジだよな」
考え事をするときに削っていた木製のスプーンをさりげなく取り出す。
少女は夢中で食べた。よほどお腹が減って居たのだろう。
フウフウと冷ますのももどかしいようだ。
よく見ると、整った顔だが頬がコケている。手も骨が目立つ位に痩せている。
飢饉でもあったのだろうか?それにしては森の動物は痩せていない。
気候はさほど厳しくなかったと思える。
どうしたんだろうか?
少女はハフハフとキジを噛む。肉の中はまだまだ熱いのだ。
それを見て、八尾も食べだす。
キジは国鳥である。だが狩猟対象でもある。狩られてしまうのである。国鳥なのに・・・。
オスはケンケンと鳴き、縄張りを主張する。
3月、4月頃になり、トビや鷹が居ないときは畑の真ん中でよく鳴いている。
雄は派手な色をしているが、デジタル
デジカモなのだ。キジだが・・・
ちなみに一夫多妻制で、一羽のオスに数羽のメスが付いている。国鳥なのに。
このため、狩猟対象なのはオスだけで、メスは保護され狩猟対象外である。 国鳥である。
味は鶏を濃く、深くした野趣溢れる・・・何だか解るような解らないような
まぁ喰ってみるしかない。
同じ種でも、「これは旨い!」から「なんじゃこれ?」まで差が有るのだ。
細かく切ったので出汁ガラになってると思いきや、噛み締めるとジワジワと旨味がこぼれる。
一口飲み込むと鼻の奥に、微かに、ほんのりと、土埃のような風味が・・・有るような無いような
穀物系の餌を食っているのはこの風味がない。
実に力強く野生を感じる。味の芯が力強い。
キジは十分戦力である。・・・食材としてだが。
少女の器が空になったので、横からお代わりを入れていく。
少しずつ冷めて入るのでペースが上がって来た。
ポチもお代わりを要求してくるが、キジは売り切れである。
追加で鹿肉も焼く。少女の器にも入れていく。
よう喰うな、こいつら。
あらかた平らげた一人と一匹をみて驚き半分、呆れ半分な八尾であった。
「ごちそうさま。んめかった~、お腹いっぺぇだぁ。
こげにうめぇもん食うたのはおら初めてだぁ」
・・・
「とこで、にぃちゃ、・・・おめさだれさ?」
思い出したように訊かれた。
確かに思えば全くの不審者である。
出会いのドタバタと飯が無ければ、悲鳴を上げて逃げ出されてもおかしくない。
なんと答えれば?・・・サラリーマン?異世界からコピー?
そもそも相手の事も全く分からない。異世界だもの・・・
とりあえずボカシて答えよう。
「俺は猛 八尾って言うんだ」
相手の容姿に思わず名前から名乗った。
「タキル?タクル?タ、タ、タキュル?」
「タキュル ヤオ」?
「た・け・る、たーけーるー」
八尾がゆっくりと言い直す。
「ターキール?」「ターキュル?」
どうも、発音出来ないらしい。
酒がサキィとかサキと発音されるのと似ている。
しゃべり方は思いっきり流暢な方言なので発音出来そうなのだが・・・
「あぁもうっヤオでいいよっ」
「ヤオ、やぁーお?、やお?」 ・・・猫かっ!?
ひとしきり呟くと
「わかっただ、ヤオにぃちゃ」
「でおめさま、ヤオにぃちゃはどっからきただ?」
目をキラっとさせイキナリ核心を突いてきた。
「おぉっと、今度はこっちが訊く番だよ、
名前は?この辺りに住んでるのか?、何してたんだ?」
どこまで話して良いか判らないので煙に巻く。
「おらはミラだあ、ミランダって言うだ、この先さばぁ行ったとこんのゴルノのもんだよ
ヤオにっちゃはゴルノ村しらんだか?
おら、じっちゃに喰わすイモ・・・
そだイモば掘らねば、
じっちゃはなんも喰うて無かっただよ」
と慌てふためくミラ。
「まぁ待て、落ち着け、にいちゃんに詳しく話してみろ」
とりあえず煙に巻く事は出来たようだ。
だが、仕事柄、困っていると話されると、つい聞いてしまう。
つい相談に乗ってしまう。職業病なのか、お人よしなのか・・・
ミラの話は長かった。
延々30分以上身振り手振りで要領を得ない話を・・・突っ込んで纏めるとこうだ。
秋の収穫が獣に荒らされる。
冬越しの食い物足りない。
爺さん、孫に自分の飯を食わせていて倒れた。
で、
爺さんに喰わせる為の山芋を掘りにやってきて、
村にはもう食料が無い。あと少しで春だというのに!
とまぁこんな話だった。
「よし、食い物ならある。一丁人助けしてみるか。ミラ、村まで案内しろっ」
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