第20話 人類との遭遇

ひさびさに惰眠を貪る。

今は・・・多分昼前か?


昨日よりましだが、夜は寒い。

うつらうつらしつつ、朝を待つのだ。


明け方、夜が白々と消えて行く頃が一番しんどい。

歯は噛み合う事を忘れ、狂ったようにビートを刻む。

体は熱を発しようと筋肉を全力で締め付ける。

カイロはもうない。川を泳いだ騒ぎで落としてしまったらしい。

あともう少し、もう少しだ。

必死で夜明けの寒さを耐える。


と、夜寝られないから昼迄寝るっ。

日差しが出て来たらシェルターの中の寒さも幾分和らぐ。

サバイバルの基本その2、休める時に休む。

まぁあながち間違いでもないと八尾は思う。


それでも結局、何とか起きた。

所謂、自然の摂理と言う力に起こされた・・・冷えの影響でもある。

ポチも自主トレという名の散歩だ

こちらは自主トイ・・・なんでもない。

「部屋」に12ロールのストックがあって助かった。


ちょうど頃合いの斜面に軽く穴を掘る。

なんだか掘りやすい。

ふと違和感を感じたが、自然の摂理には敵わない。

穴に向かって「王様の耳はロバの耳ー」 と叫ぶ訳ではない。

大自然が穴を掘れと命じたのだ。

そして、用を足すと穴を埋めた。


埋めるときに穴を見た。

たまに確認しておくと、筋状に着いた血で大腸ポリープに気が付くことがある。

大腸ポリープは放置するとガンになる。

大変である。いやホントに。

見つけたら一度医者に行こう。いやホントに冗談でなく。


八尾は穴の縁を見た。自分で掘った穴の外側にもう一段境目がある。

・・・人為的な穴だ。

道具で掘ったような跡だ。

こんな穴は動物には掘れない。

動物は埋め戻しもしない。後ろ足で砂を掛けるだけだ。


人が居るんだ!人家が近いか!

足跡をたどれば人家に行けるかもしれない!


その時、悲鳴が聞こえた。


「きゃぁぁぁぁ~」 


随分と大きい声である。対岸からもコダマが返ってくる。

声の聞こえる方に走った。


声は上から聞こえる。斜面を駆け上る八尾・・・

体は筋肉痛でまだ冷え切っている。

当然攣る足。こむら返りだ。痛い。


「お~ぃ」 声を掛けてみる。


「いやぁぁぁぁ助け~」 若い女の声だ。

だんだん声が近くなってくる。


八尾は這いつくばって斜面を登る。

キャンプ地まで這った時に藪から棒・・・じゃなくて女の子が!

金髪にワンピースである。    ・・・親方、藪から女の子が! 

と思った瞬間、後ろからポチが現れた。


「助けてぇぇぇぇ」 と駆け寄る女の子。

目の前で足がもつれてコケる。


「助けけけ・・・」 匂いを嗅ぐポチ。セクハラである。


助けてやりたいのは山々なのだが、反対のふくらはぎも攣って身動きが取れない。

助けて欲しいのはこちらである。


腰が抜けたか?這いずって来る女の子。身動き取れない八尾・・・・

「助けっ・・助け・て・・・」 「足が・・足が・・・」

実に情けない出会いであった。


ポチは自分と同じ態勢をとっているのが二人もいて満足気である。

八尾の匂いも一通り嗅ぐと「ぷしっ」と鼻から息を噴いた。

臭かったか?


一通り落ち着いついて立てるようになると、ツェルトを仕舞い、河原に降りた。

もちろん二人と一匹で、である。全員無言で降りた。


兎も角、たき火だ。人間火があれば落ち着く。

と、八尾はたき火でお湯を沸かす。

最後のティーバッグでお茶を入れる。

女の子用には、「部屋」からスティックシュガーを取り出して入れ、甘くする。

自分のはストレートティーである。この辺りは拘りと言うところか?


「甘い・・・」 

一口飲むと呟いた。

「こんなうメ飲みもん、おら初めてだぁ」

最後の貴重なお茶を盛大に噴いた。・・・で咽た。


「にっちゃぁ、大丈夫けぇ?」

優しい子である。


歳の頃なら12、3と言ったところか?

顔立ちは整っているものの、青白い肌が金色の髪に目立つ。

かなりやつれているように見える。


「大丈夫、ありがとう。 ところで、こんなトコで何をしてたの?」

訊きたいことは沢山あった。が、先ず出たのがこの一言だった。


「おら、イモさ探してただ。じっちゃは何も喰ってなかっただよ」


「イモ?山の中で?」


「そだ、イモだ。・・・そだイモさ掘らねばっ!はよ掘らねば」


女の子は行き成り立ち上がると・・・ 

「ぐぅぅぅぅぅ」と腹がなってヘナヘナと座り込んでしまった。


伏せていたポチも目の前の石を前足で叩いてご飯を要求した。

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