第12話 小屋の中で煮炊きをしたい

朝から雨が降っている。冷たい雨だ。

上の方は雪になっているだろう。


小屋は上がブルーシートを張ってあり、周りに溝も掘ってあるので中が濡れることはない。

多少・・・継ぎ目から滴って来るが、問題ない。


実は熊ステーキを切ったときに、鉄のフライパンでナイフの刃を痛めてしまっていた。


「部屋」から砥石を出して雨だれで濡らした。

研ぎ始めると無心になる。


元々柔らかい刃なので|中砥(なかと)でさらっと砥げる。

気持ち刃の角度を立てて砥げば割と切れ味良く使える。


雨だれで刃の砥泥を落とし、僅かに刃先に残る汚れを柱に刃を立てて拭った。

全体の水分をトイレットペーパーで拭き上げると満足して鞘に仕舞った。


剣鉈は未だ大丈夫そうだ。


細めの薪を割って剣鉈で細く削っていく、何か思案しながら・・・

そして箸が出来た。


昼になると小降りになり、小雪となり・・・そして|止(や)んだ。


外に出て薪に火を付けると、湿った薪は白い煙を出しながら燃え始めた。

「部屋」から真空パックに入った米と煤けたメ〇ティンを取り出し、ペットボトルの水で米を砥いだ。

メ〇ティンの内側にはポンチで凹みが付けてあり、米一合と水の量が判るようにしてある。

取っ手が焼けないように薪をとりわけ、遠火に掛ける。

魚を二匹、一匹は素焼きで焼く。


メ〇ティンの横からはフツフツと湯気が出始める。

炎をあげている薪をよけて熾だけにする。

湯気と共にポタポタと重湯が垂れる。

そして湯気が出なくなると音がプチプチと変わる。

香ばしい匂いが出た瞬間、素早く火から下して蒸らす。


蓋を開けると中央が盛り上がってカニ穴が開いた「ご飯」とご対面。


「頂きます」 なぜか炊き立てごはんを前にすると自然と言葉が出る。


ご飯はコメの形そのままが大きくなったような感じで、透明感がある。

噛むと一粒一粒抵抗感を感じるような腰のある炊き加減である。

炊き加減は抜群である。底はうっすら茶色だがオコゲは無い。


咀嚼すると甘みがでる。

いい具合に炊けたご飯におかずは要らない。


だが、塩焼きは喰らう。

塩焼きは正義だ。


淡白な魚と塩と旨いごはん。最強である。

あっという間に一合を喰いきった。


「ご馳走様でした。」 自然と感謝の言葉が出る。


何気ない日常が幸せであり満ち足りている。


「あ~味噌汁が飲みてぇ」 ・・・台無しである。


完全和食のブランチを済ますと罠の見回りに出かけた。


罠に掛ったまま獲物を放置すると、一日足らずで獲物は死んでしまう。

死んでしまった肉は不味いのだ。

暴れ続けたりすると打ち身になって痛んだり、焼けたりと。

疲労がたまってしまうだけでも味は悪くなる。


見回りの結果、獲物は掛かっていなかった。


早々直ぐに掛かるわけでもない。

まして年期の足りないビギナーである。


雨に打たれた罠を仕掛けなおした後、釣りをした。

勿論二匹目のドジョウ狙いである。

塩焼きは旨かったのである。


雨が降っていたおかげで川はチョット増水してた。

粘ったが釣れなかった。

獲物の代わりにこぶし大の石を集めてストレージに入れた。


小屋は木と草で作った掘っ立て小屋なので、中で裸火を焚くのは憚られる。

しかし今日みたいに雨が降ると煮炊きも出来ない。

炭を焼くことも考えたが、準備が大変だ。一斗缶があれば簡易で作れるのだが・・・


考えた挙句、3方に石を積んで小枝を燃やすことにした。

小枝ならすぐ燃え尽きるし、爆ぜにくい。

それで石を拾ったのだ。

多少煙いだろうが、壁は草だ 空気の抜けは良いだろう。


日が暮れたあと、出来た|竈(かまど)でまた飯を炊いた。


そろそろヤマメのストックが心許ない。


朝、不思議な静けさで目が覚めた。

音が無いのでのだ、耳鳴りだけが響いている。

寝返りをうつとベッドが軋む音が少し新鮮である。

外を見た。窓は無いが外に出なくても、ベッドからちょっと葦をかき分けるだけで外が見える。

雪が既に20センチ程度積もっている。


寒い。竈に火を入れた。ペットボトルの水は凍っていた。


雪を溶かしてマジ〇クライスを雑炊にする。お手軽も最強である。

雑炊は体が温まる。


ふと思って竈に小枝を追加する。その上に余った石を載せた。

ベッドに凍ったペットボトルを入れて、床に石を置いた。

ジンワリ暖かいから溶けるかもしれない。


一通り身体が温まったところでレインスーツという名のカッパを着て罠を見回りに行く。

カッパは(もうカッパで通す)はワー〇マンで買ったナイロンヤッケである。もう何だか解らない。


色は白の迷彩柄。目立たなくて良い。


雪の積もった森は静かだ。サクっサクっという足音以外に音は聞こえない。

寝屋に近づくと黒いものが見えた。


動いている。・・・鹿だ。 

割と大きいが角は|一本角(ソロンボ)だ


まだ向こうはこちらに気が付いていない。距離は50メートルと言ったところ。

ストレージから870を取り出して薬室にスラッグを一発入れる。

そーっとスライドを動かし音の出ないように閉鎖する。

ダットサイトの電源を入れる。左肩を木に当てて膝を地面に付けた状態で構える。

「やっ!」声を掛けると鹿はピクッと動きを止めてこちらを見た。両耳をこちらに向けたのが見えた。

その瞬間、870が火を噴いた。


ピャーと言う悲鳴と共に鹿が倒れる。・・・仕留めた。


自分を落ち着かせるようにゆっくりスライドを引いてから薬莢を出し再び閉鎖する。

新しい弾を弾倉に入れてから倒れた鹿に歩いて行った。


鹿はこと切れていた。首に中った弾は致命傷になり即死だった。

鹿の開いた目は既に光を失っていた。


そのままストレージに仕舞う。

劣化が無いチートな保管庫だ、そのまま入れても何も問題無い。

銃も弾を抜いてストレージに仕舞った。


続いて肝心の罠を見に行く。

地面の雪が荒れている。何か掛かっているようだ。


近づいて見るとまたも鹿である。

まぁ鹿の通り道に掛けたのだから・・・いやタヌキとかテンの可能性が無いわけでもない。


バッチリ前足に掛っている。逃げようとしてワイヤーが木にからまり身動きが取れなくなっている。

こちらも先程と同じ位の一本角だ。

反撃されると刺さる恐れもある。意外と鋭いのだ。


慎重に近づいて、角と角の間に棒を振り下ろす。

カッっと乾いた音が響く。

脳震盪を起こしている間に手早くアバラに剣鉈を静める。

ベ~~。一鳴きして静かになった。

耳の下を切って血抜きをする。


これもストレージにしまう。


残りの罠には獲物が無かったが、雪が溶けてまた固まると動作不良を起こすので一旦引き上げた。


良い具合に捕れたので食べるのが楽しみだ。ヤマメは今日も釣れず・・・


ポチ?ポチは濡れるのが嫌なのか今日も小屋で自宅警備員をしている・・・

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