第11話 紅葉狩り

朝から何か山菜が無いかと散策を始めた。

所々日陰になっているところに雪がある状態だが、何かありそうである。

ただ、知っている山菜は春先に出るワラビやコゴミ、タラの芽・・・

流石にまだ早い・・・


足元を何か無いかと凝視しながら歩く。


おや?ずいぶんと鹿の糞が多いな・・・

辺りを見回す。足跡をたどる。どうやら夜の間の遊び場みたいである。

遊び場の周りをぐるっと一巻する。入りと出、方向を確認したら出の方向に向かう。

既に山菜から鹿肉に意識は移っている。


ここは南斜面だ、遊び場から西の方向に複数の足跡が出ている。

おそらくは近いところに寝屋があるに違いない。

足跡から見て中っパだな、間隔と大きさから言うと雄か、ひょろっとした三段角だな。

まるで見ていたように言う。もちろん先輩猟師がよく語る事である。


足元の枯れ枝を踏まないように慎重に歩く。

木の切れ目、くぼみ、草陰なんかを重点的に見ながら進む。

もちろん足跡から常に距離を少し置いて行き先を確認する。


パキッ   枯れ枝を踏んでしまった。

注意することは山ほどある。 この辺は年期が物を言う。

高々サンデーハンターに全部上手く気配り出来るわけがない。


脇の笹から鹿が数頭跳ねだす。


慌ててストレージから銃を出すが、構えるころには射程外へ消えていった。

ちなみに弾も装填されて無ければダットサイトも点灯していない。


「ちきしょう」


しかし枯れ枝を踏まなかったとしても藪の中の獲物に気が付かないだけだったろう。

この一瞬を逃さないように・・・

とか言って弾を薬室に装填した状態で足を滑らせ自分を撃ったりする事故も起きている。

安全第一である。


「ここが寝屋ねやか」


飛び出してきた所を見る。


小さな笹薮だが、中は笹が押しつぶされて3畳ほどのスペースが出来ている。


周りを探索すると川方向への道にも出入りの生足新しい足跡がある。

道を辿ると倒木があった。どうやら跨いで通っているらしく、一部分だけ木の色が変わっている。


「よし、ここだ」


「部屋」リストから罠の道具を取り出す。

弁当箱、スプリングのついた「くくり罠」本体、そして5mにカットしたワイヤー。


倒木からほんの少し離れたところに軽く穴を掘る。山の土なので柔らかい。

穴の縁を木の棒を使って穴を穿つ。ぐりぐりっとやって5センチ位の大きさにする。

それからワイヤーを近くの立木にぐるぐるっと幾重にも巻いてくくり罠を接続する。

弁当箱|(と呼ばれる罠のトリガ)に本体のループを掛けてから、塩ビのパイプを持ってバネを圧縮し、ワイヤーストッパーの螺旋を締めて固定する。

ワイヤーから外して、仕掛ける位置までもっていく。

塩ビのパイプの長さを確認して、先程掘った穴に土を入れて深さを調整する。

穴にパイプを差し込んで「弁当箱」を置く。上には落ち葉を尺塩の如く掛けて気取られないようにする。

ワイヤーを再度接続して立木の根元まで伸ばした後、ちょっと上の所で固定する。

木の根元で固定すると、踏ん張りが効かず足をちぎってまでして逃げることが出来ない。


「これで良し」


さらに探索を続ける。この時点で山菜は既に頭から消え去っている。

道すがら2か所に罠を掛けた。


川方向へ向かう道の中には人でも河原に降りられそうなところがあった。


一度降りてみるか・・・ひょっとすると水場にまだ居るかもしれない。


本流は冬場でも水量が豊かで対岸に渡れるような感じではないが、水は綺麗である。


水を見れば竿を出したくなるのは釣り人の性である。男もまた釣り人であった。

「部屋」リストからフライロッドを出す。近年はセット物が1万位で買え、ずいぶんと敷居が低くなっている。

猟期が終わった後、仕留めたカモやキジの羽を使って毛バリを巻くのも猟の楽しみでもある。

昼過ぎの河原は12月とは言え若干の羽虫を認めるがライズは見られない。


巻いてあるフライはドライだけだった。巻く道具タイイングセットもあるが、時間がもったいない。

素の針に石をひっくり返して出てきた黒川虫を付けて軽くロールキャストする。

石の影を通すと一投目から当たりがあった。ヤマメだ 20センチ弱と言ったトコか?

でもウッヒョーとか叫ばない・・・大人だから・・・見た目は高校生だが。

その後、飽きない程度に釣れ続け気が付くと10匹程となった。

流石に餌だとよく釣れる。まるで漁である。

ちょっと釣りすぎてしまったが、余ったら燻してしまおう。


腸を抜いてからストレージに仕舞う。


日も傾いてきたので小屋に戻ることにした。


小屋に戻ったら勿論塩焼きだ。

岩塩をまぶして遠火で乾かすように焼いていく。

ヒレがピンと張り、先端から白く塩が噴いてくる。ジゥジゥと脂が落ちる。

向きを変えて全体を焼く。 皮がシワシワとなりかけた所で頂く。


皮を手でつまんで剥く、たき火の光に身の白さと血合いの茶色のコントラストが美しい。

食べる。締まった身を噛みしめると茹で栗の後味のような香りとジンワリと旨み。

塩も良い・・・塩辛いだけじゃないイタリアの岩塩、最高である。  1キロ98円だったが・・・

3匹焼いて全部喰った。

今日なぜか留守番をしていたポチも塩無しの塩焼きただの素焼きに尻尾を振っていた。


どうやらストレージに仕舞うと状態が保存されるようで鮮度落ちがないようだ。

これなら何時でも塩焼きが楽しめる。

肉もどんと来いだ。


肉も旨いけど、魚も旨い! 

良い一日だった。

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