第6話 状況説明と熊撃ち

「時間が無いのよっ さっさと降りて来なさいっ」


ガタイに似合わない可愛い声、しかも命令調。


どうもそう言われると従うしかない。

拒否権が無いような気がする。

ロープを伝って降りた。


「あ~ あなたのねっ・知識?の範囲?で理解できるように説明するわねっ」


熊が?説明?なにを?


「うん・・・まぁなんとか話は通じそうねっ?」


いやいやいや だから熊が何を説明するんですか?


「ちょっと現場生物に手ごろなサイズなのがなくてねっ ちょうど居たこの熊を憑代よりしろ? ええと・・・コントロールしたのよっ。

あなたの記憶に直接埋め込んでも良かったんだけど、べつな作業が押しててねっ。

で、この世界と言うものだけど、あなたの次元下で言うところの物にビックバンって言われてる物があるでしょ?

そのあとに多様性という可能性をもとに持続性成長を求めて「次元の存在」を適宜分裂させて世界品種改良をしてたトコなんだけど・・・

古くにあなたのいた「存在」と分かれた「この存在」の座標が近すぎたためにちょ~っとだけ情報の指す値が衝突して、コピーされてしまったらしいのよっ」


ええと、理系友飲み会じゃないんだからいきなりまくしたてられてもなぁ・・・

つまり分裂を繰り返してたら横のと重なった? フラクタルの先端同士が衝突したような?


うん まるっきり理解できない。 


情報の指す値が衝突ってポインタでバッファオーバーフローみたいなもんか?バグか?


う~ん で、あんたは結局なんなの?


「むぅ、あなたの語録には無い概念なんですよねっ、強いて言えば~『次元の管理官?』とか『神?』とかが近い?かしらっ。

あなたの世界だと研究室で寒天培地を扱っているような感じっ?」


ちょ ちょっと じゃ俺は細菌みたいなもんか!?この世界は寒天培地の上のコロニーなのか?

ひょっとして下は象と亀が支えてるんじゃないだろうな


「形而上の例え話ですからねっ。まぁそんなに外れてもいないので理解したと理解しましたっ。」


あ、細菌みたいなものなんだ・・・


「で、あなたの扱いなんだけど、情報のコピーだからオリジナルはそのまま何も知らずに生活してますからね。

いや、あなたが偽物コピーとか本物オリジナルってわけじゃなくて・・・

ただ、今回は別な所に情報が飛んだから便宜的にコピーと言っているだけなので・・・

そちらの理解するところのものによると端的に言って・・・・言って・・・近い言葉が『異世界転移』と言うことになりますね。

存在を抹消することも検討したんですが、面白そうだから色々書き換えて今後の展開を見ることにしたのよっ」


ええと、ええと、「俺」は戻れないの?


「あちらにも同じ個体がいますからねぇ 転送するのも・・めん・・・難しいし 同じ個体が二つ居たら大変でしょ?

それに入れ替えたとしたら向こうの個体がかわいそうじゃない」


「俺」は良いの?かわいそうじゃないの?いやいや両方俺なのか?


「記憶を見たら 俺も無人島サバイバル生活したい って思ってたようじゃないっ?

なかなか出来ないわよこんな体験、まして元の世界もなんら問題ないようだし、いいチャンスじゃない。」


なんだ?やけに押してきたな?ん?なんで目をそらす?


「ん・うん・・・

そ・こ・で・、言語に関する脳の部位の活性化を行いました。この活性化を施術するのにDNAに変更を加えてたら

テロメアがちょっと長くなっちゃいまして、色々処置した結果、副作用でちょっと若くなっちゃったみたいです。

あとはこの世界に無い文明の活用という可能性を模索するため、あなたの記憶を元に部屋にあったものを複製して取り出せるようにしました。」


「何か質問はあります?ないようならセッションを切りますねっ 無いようなのでこの辺で終了します じゃ」


あ、ちょっとま・・・・速ぇえよ 何処の会議の質疑応答だよ


目の前の熊が四つ足になってキョロキョロしたあとこっちを向く

熊は一瞬後ずさりすると状況を把握したのか獲物を目でとらえた 獲物は・・・もちろん俺の事だ


熊は威嚇行動されると立ち上がって威嚇する と、どこかの本で読んだ記憶がある


俺は肩に回したスリングを掴むと手に両手を上げて一歩前に出て叫んだ 


「馬・鹿・や・ろ~」


一瞬ひるむと向こうも両手を上げて立ち上がって吠える うん 敵認定されたね殺らなきゃ殺される


持ち上げていた870を構えて腰だめで引き金を引く

引けない・・・セーフティ掛かってる

慌てて解除する 熊はまだ吠えている 視線は外せない

視線をそのまま白い三日月の下側に狙いをつけて ドゥン ガション ドゥン ガション


月明かりの中、20インチバレルの先からレミスラッグが炎を吐く


熊は倒れ込む まだ油断はできない 留めに頭目がけて一発 カチッ

あれ?弾が出ない 不発か? 起き上がって反撃されたら終わりだ

カシャッ 急いでポケットから一発抜くと薬室に放る ガシャン 


熊をじっくり見る 徐々に逆立っていた毛が倒れていく 手から爪が見えなくなり力が抜けていく 

虚ろに見えた目から光が消えていく 剣鉈を抜いて耳の下を切る ひっくり返して腹も・・・重くて動かせない

あきらめて放置


助かった・・・・・

一転して安堵感で満たされる


いやぁ俺、熊初めて捕ったね 熊だよ熊 それも結構でかい 明るくなったら写真撮ろうFBのネタになるな

いやまて、夜明け前に撃っちゃったよ? 狩猟法違反だな炎上するな 

いや日本じゃないから良いのか あ、そもそもネットに繋がらねぇ


あ、そうだ不発は? どうやら二発目を排莢したときに煽ってしまい三発目が一緒に飛び出していたようだ

実包を拾い上げてポケットに入れる 薬室に入れたのもロックを解除してそーっとスライドして出す

今更手が震えて弾がうまくつかめない 落とさないように握りしめてポケットにしまう

足がガクガクする、鼓動はMAX、冷や汗で全身がべっとりしてきた


落ち着こう もうこの付近に脅威となるような存在は無いだろう・・・ないよな?


たき火にありったけの焚き木を投下してから ツェルトの中で870を抱えて寝た 


寒い・・・

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