第7話 夜が明けて

キューン キューン


目を開けると鮮やかなオレンジ色。ツェルト越しに朝日が当たっているようだ。

・・・一瞬の間の後、870を握りしめて弾を込める。

ツェルトをめくって顔を出して辺りを伺う。またオオカミが来やがったか!


外に出て辺りを見回すと熊とボスオオカミは倒れている。

倒れているオオカミに子犬・・いや子オオカミが寄り添っていた。

他にオオカミは居ないようだ。


夢・・じゃなかったのか 幻覚・・・でもないようだ 多分。

まぁともあれ何とか無事だ。 


ホッとしたら腹が減ってきた。飯にしよう。


猪は・・・無残に牙で引きちぎられた跡とよだれが乾いてへばりついてる。ほぼ骨だ。

喰えないかな・・・ ナイフでへばり付いている肉をちょっと削いでみる。

牙が通って中までぐずぐずになってる。

ダメっぽいなぁ・・・


ほれ っと子オオカミに削いだ身を投げてみる。 

訝し気に匂いを嗅いだあと食べ始めた。 

・・・尻尾振ってる 意外と可愛い。

もっと食うか? 

猪を切り身にしていくつか投げる。


結局、残っていた猪肉はオオカミが噛んでしまった為、全部中までぐずぐずだった。

皮を剥いであったから噛みやすかったのだろう。


こいつは・・・このボスの子供か?

・・・仕方ないボスは埋めてやるか。


ちょっと深く穴を掘って埋める。 

腹が減ってフラフラするが、頑張って土を掛けて埋め戻していく。

それを子オオカミは神妙な顔つきで見守っていた。


さて、こっち自分の餌は・・・

・・・微妙な熊がある。

・・・喰えるのかなこいつ、てか中身はホントに熊なんだろうな?・・・ 

足にロープを巻いてひっくり返す。

幸いお腹にも背中にもチャックはない。


鯛や鯵が捌ければ他の魚も大体は捌ける。

それと同じように鹿やイノシシが捌けるんだ熊も同じだろう。


腹を割る 大腸の先を剣鉈の鞘に織り込んでいた結束バンドでチキチキっと縛る。

胃の裏と腸の裏の神経と血管を切って横隔膜を切ると大体一式外せる。

夕べは冷えたが、内臓はまだほのかに暖かかった。


肝臓から胆のうを外して胆管を縛る。

本物の熊の胆だ、しかもパンパンだ。 

とりあえず笹に挟んで木に吊るす。

鹿に胆のうは無いが、猪は同じような感じなので処理の経験がある。


熊の肝臓ってビタミンAが過剰で喰えないんだっけ? ・・・それはホッキョクグマの話である

と、軽く腐葉土に穴を掘って内臓を埋める。 


それにしても脂が厚いな・・・

実は穴持たずじゃなくて、ちゃんと冬眠してたところを巻き込まれたんじゃないだろうか?

そう思うと、ちょっと哀れに感じてくる。


さて、ハツ心臓は焼いて喰おう。

確かマタギは焼いて山の神に捧げるんだよね。うろ覚えだけど・・・

枝に刺し上にかざして山の神に捧げたつもり・・・の後、たき火で焼く。


枝に刺して岩塩を振り、たき火にかざす。半分は弾が当たってボロボロになっているが気にしない。

2発撃ったうちのこの1発が留め矢になったんだなぁ。これが外れてたら反撃されてたな。

思っただけでブルっとくる。


あぁそれにしても、炭水化物が喰いてぇ。 

リュックに米入れてくればよかったなぁ・・・ サタケのアルファ米とか・・・


・・・そういえば昨日、部屋の中の物はコピー出来るって?

どうやって? 

・・・使い方の説明ぐらいするか、動物表紙の本ぐらいよこせよ。


とりあえず、呟いてみる。

「コピー 部屋のマジックライス ここ」

出ない 誰も居ないが、ちょっと恥ずかしい


コマンドが違うか?

「シーピー マジックライス ドットスラッシュ キャリッジリターン!」

なんか死ぬほど馬鹿っぽい アホかっ!


そうこうしているうちに、ハツが焼けてきた。

焼けた所から順にナイフで肉を削いて食べる。


いつの間にか、足元に子オオカミが来ていたので焼いた肉をやってみる。

かぷっと噛みつくとキャンとひと鳴き。

毛が逆立っている。

・・・ちょっと熱かったらしい。 

肉を拾い上げて振り回して冷ます。今度は手に持って差し出す。


匂いを嗅いで、舌でちょろっとなめた後、パクっと引っ手繰られた。


良く喰うなこいつ ほれポチ もっと喰うか?

猪肉の残りを切って塊でやる。

たしかポチってフランス語のプティかなんかが訛ってポチになったんだよなぁ。

・・・テンプラとかカツレツみたいな語源だな。


子オオカミは喰うだけ喰って腹がパンパンになっていた。

子犬っぽい細かい毛は日に当たってフカフカしている。思わず手を伸ばしてモフル。


わしゃしゃしゃしゃしゃ、もふもふじゃ~ 撫ぜ回す。

こねこねこねこね わしゃしゃしゃ 腹を撫ぜ回す。

うんよし! お前はポチだ ポチで決定。

別に飼うわけじゃないが・・・


いい加減モフり飽きたので、秘蔵のティーバックを出してお茶にする。

非常食のはちみつキャンディを入れて甘みをつける。

器が煤だらけでデコボコになったコッヘルなのと、去年からリュックに入れっぱなしのティーバッグと言うことを気にしなければ・・・

優雅なひと時である。


ふと気が付くと視界の中に四角い枠がうっすら見える。

眼鏡をはずしてみたが汚れではなく・・・

あれ?眼鏡を外したら視界がクリアだ?

サラリーマンになってから近視になったが、昔は両眼1.5あったんだよなぁ。

それが仕事でモニタを一日中見てたら、最近は車の免許の更新がギリギリな視力になっちゃんたんだよなぁ。


そういえばちょっと若くとか言ってたような・・・

変わりないよなぁ?


じっと手を見る。我が暮らしは楽にならない・・・ 

それにしても血がこびりついたままで汚ったねぇなぁ。

リュックから100均のアルコールシートを出して手を拭く。

・・・肉を喰う前に拭けばよかった。


ついでに顔と体を拭く。

所謂オヤジしぐさである。


あれ?腹の贅肉が?痩せた? 

顔は・・スマホを出して何も出てない画面を見る。

黒い画面は鏡のように自分を映した。


若い? 「おぉこれが私?」 いや男だし。

画面に映った顔は歳の頃なら十六,八・・・七は昨日流した・・・


じゃ物を取り出せるってのは?どうやって?

視界の四角枠を触ってみたら枠が広がった


おぉグレイト!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る