第3話 ハツの串焼きとシシ鍋(遭難風)

ともあれ山を下って戻ろう・・と 緩い下りは楽だ。 

尾根は一本道だから迷うはずがない。


でも昨日の事があるから心配っちゃ心配だなぁ・・・・


ヒヨドリがそんな気分をぶち壊すように賑やかに飛んで行った。


なんとか無事到着した。 

高々数十分の距離だから無事というのもなんだが、まぁ無事だ。よかった。


干しておいたツェルトは綺麗に乾いていた。そして畳むが元通りのサイズには成らない。

コーヒー缶サイズがペットボトルサイズぐらいにはなってしまう。

元々大荷物のリュックにねじ込んでしまう。 


ゴミは捨てないようにビニールに入れて・・と。


リュックに括り付けているが、なんかの役に立つかもしれないから落とさないようにしよう。

現にペットボトルは大活躍だ。 サバイバルの基本、「今あるものを捨てない」 である。

序盤に捨てたり失ったりしたものは後で必要になるのだ。


そして、荷物を担いで獲物を吊るしたところに戻る。


気温が低いとは言え、昨日は腸を抜けなかった。お腹がガスでパンパンに張っている。

内臓を切らないようにそーっと腹を割る、流石にちょっと臭う。


肝臓は胆汁の緑色が少し回っていた。もうダメっぽい。

ハツを残して後は軽く穴を掘って埋める。

ホントはしっかり埋めなきゃダメなんだけど、遭難中だ。無用な体力の消費は避けなければならない。


腸を抜くと身は約50キロ、それでも一人で運ぶには重い。

ロープを掛けて引きずって・・・やっと夜を過ごした場所に戻った。


たき火でハツを焼こう。


水は貴重なので雪と笹の葉で拭っただけ、それを笹に刺して焼く。

置かれている状況を全く無視する如く、肉は旨そうに焼けて行く。

脂は余りないので、表面が乾いていくような感じに湯気が立つ。

焼けた所からナイフで切って喰う。ほのかな塩味と肉の旨み、塩味は血の味だろうか?

たき火で燻されて燻製のような風味だ。臭い消しになって丁度良い。

400グラム位はあったろうか?気が付いたら全部喰ってしまってた。


水はまた雪を解かせば良い、肉はたぶん30キロ位は取れるだろう。

食料に関してだけ言えば、まぁなんというか・・・贅沢な遭難だな。


時計を見ると既に3時を回ったトコロだ。そうだ、ツェルトだけじゃ寒かったからなんとかしよう!

細引きはリュックの底に結構入っていたはずだよな。


タツで待つときにリュックが汚れないように用意した大き目のビニール袋を敷いて、中身を取り出していく。


確か底にロープ回収用や予備とか入れてあったよなぁ・・

おや?この箱は・・・某プロ向けスーパーと言う名の普通のスーパーで買った1キロ98円のイタリア岩塩だ。

そうか、モツの現場処理用で塩を持っとけって言われて漬物用にまとめ買いした奴を入れてたっけ。

いいもの見つけた。


・・・自分で入れておいてこれである。


2年目、3年目位の初心者が一番荷物が多いと言う噂だ。

普通、猟ではベテランになるほど荷物が洗練されていく。

単独猟でなければ迷ったり遭難したりするようなことは先ず考えられないし、

勢子に至っては猟場は庭みたいなものなので散歩程度の話なのだ。


剣鉈で細めの木を切り倒す。 

直径10cm位なら20分位で切り倒せる。

それを太い木に立てかけて細引きで固定した後、枝を横に乗せていく、中には笹を切って敷き詰める。

地面に逃げる熱を食い止めるだけでかなり違う。ゴミ袋にも落ち葉を突っ込んで枕も完成。

なんとか日が暮れる前に簡易シェルターが出来上がった。


夕飯はシシ鍋だ。と言っても水にバラ肉を入れて茹でただけだが、塩味が付いている。


遭難風シシ鍋と命名。


どうやらドングリを山ほど喰っていたらしく、脂にナッツの風味を感じる。甘い。


味噌とゴボウが欲しいなぁ・・・次から装備に味噌を入れるか?

それでもカロリー取ると体が温まる。 

半分以上・・いやほぼ脂だ。何キロカロリー位あるだろうか?恐ろしいことは考えないことにしよう。

途中で脂に飽きて赤身だけを食べる。


米が喰いてぇ・・・・


さて、たき火をどうするか?

寝床に近づけると寝てる間に燃えそうで嫌だ。でも無いと寒いか。

辺りは既に暗く、山から冷気が降りだして来ている。

火からおろしたコッヘルの中で脂が白く固まりだした。


ん、確か犬引き用のロープは100均の純綿ロープだったよな。


端のタツに犬が回ってきた時は、囲っている範囲外まで行くと回収が大変になるので各自タツが確保する。

リードを使ったり細引きを使ったりする人もいるが、単純に紐で在れば良いので安いのを使っている。


コッヘルの水を捨てて、切ったロープを入れて・・・ローソクだ、いやオイルランタン・・ラードランタンか?

火を灯すとちゃんと燃えた。


シェルターの中に置くと少し暖かいような気がした。

リュックの中身を出してタオルや着替えで足をくるみ、リュックの中にそのまま足を入れて寝る。

登山関係の本にそんな描写があったのを思い出してまねてみると足指の冷えが緩和された。

これなら凍傷の心配はないか?

ハクキンカイロにライター用オイルを入れて火を付ける。

ズボンの中にいれてからツェルトに包まると暖かさを感じた。


いろんなことを思い起こしながらまどろむと遠くで犬の遠吠えが聞こえた。人家が意外と近いのかな?


疲労も溜まっていたので、そのまま熟睡した。

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