第2話 遭難?

尾根伝いを歩いて道路の方向に進んだ。

・・・が、行きすがら見た不法投棄の家電やガードレール、舗装された道すら無い。

確かに来るときには尾根筋の一部は登山道として整備され、道路に程近い所は不法投棄のゴミがあったはずなのだが・・・



木陰にはうっすら雪が積もっている。


ちょっと開けた場所があったので、一服して落ち着くことにした。


何で迷ったか、どこで迷ったか・・・と考える前に、もう日は暮れ始めている。

歩みを止めたので、汗で濡れたシャツが冷えてきて寒い。

低体温で遭難する前になんとかしなければ。


丁度ここは場所が平だ、仕方ない、ここで夜を越そう。


そうと決めたら、まずは着替えだ パンツとシャツを予備に替える

辺りにトレッキングする人もなく、誰も見ていない。

まぁ居たところで男の着替えなんぞ見たくもないだろう。

そしてハクキンカイロにジッポのライターオイルを入れて火を近づける。

薄暗くなった手元で触媒の中心がほのかにオレンジ色に見える気がする。

着火した。

内ポケットにしまう。ジャケットのチャックを締めると内側に暖かさが回る。


枯れ枝を集める。 


地面の落ち葉を足で蹴って1m四方位の大きさで焚き火を熾す場所を作る。


中心に一つかみの落ち葉、そこに細い枝から積み上げる。

積み上げるといっても20cm位だ。中心の落ち葉にライターで火をつける。

チョロチョロとついた火は暫くすると落ち葉全体に廻り、小枝をくるむように包んでいく。

そして落ち葉が燃え尽きる頃には小枝が白い煙を上げながら燃えだした。

パチパチと燃えるたき火を前に手をかざして温まる。

そして、太目の枝を足で蹴って手ごろなサイズに折っていく。

薪の小山を作ると何本かを小枝の上に置いた。


誰か猟隊の仲間が見つけてくれると良いんだが・・・


リュックから一人用のツェルトを出して包まる。


登山用の緊急用のテント・・・のようなものである。

極薄のナイロンで出来ており、フレームなどは無い。

細引きのロープで張ったり、包まって使うものだ。


風から守ってくれるオレンジ色の薄いシートが森との視界を遮り気が落ち着いた


そういえば朝喰ったっきりだな・・・


冷たくなったオニギリを取り出してモクモクと食べながら考える。


水はもうない、非常食のカロリーメイトは2箱 それに飴が少々。

仲間が県警に連絡を入れたとして、明日明後日には捜索隊に発見されるだろう。

食料は猪を食べちゃえば良いか 水さえ有ればなんとでもなるな 水は・・・雪を解かせば良いか・・・


実際、迷うような所はなかったよなぁ・・・


寝不足と疲労で考えながら寝てしまった。


ふと気が付くとツェルト越しのたき火は既に消えているようだ 暗くて寒い。

ポケットから手を出してツェルトに触ると、内側に付いた水滴が凍っている。

氷粒を払い落として首を出し外を覗く。 満天の星空だ。

靴の中で足の指を握る、鼻と耳を触る。 凍傷にはなってないようだ。

ハクキンカイロのおかげかな。


時間は朝の6時を回った。 

そして空の縁が見え出し、東の空の細かい星から順に消えていった。


冷えたのか腹が痛い。 

芯を抜いたトイレットロールと折り畳みスコップをリュックから取り出すと、ちょっとだけ斜面を降りた所に穴を掘って用を足した。

ペーパーは腐りにくいから燃やすに限る、灰になった所で山火事にならないようにしっかり埋める。


明るくなってきたので、再びたき火を起こし小さなコッヘルに吹き溜まりに残っている雪を入れて解かす。

雪を一杯入れても水になると僅かにしかならない。 雪玉を作って順に投入していく。

ある程度溜まったらゴミ袋に入れておいたペットボトルに半分入れる。

そしてまた雪玉を投入する。少し水を残しておくと効率が良いのだ。


カロリーメイトを食べながらお湯を飲んだので、1Lと500mlのペットボトルを満たすのに2時間もかかってしまった。


時計は9時を回っていた。


あ”~会社無断欠勤かよ だれか会社に連絡入れてくれ・・・ねぇよなぁ。 

まぁ最悪ニュースで流れるぐらいか? ハンター会社員遭難か?とか・・

そうなんですよ・・・ 馬鹿言ってる場合じゃない。 

本格的サバイバルを楽しんでいる場合でもない。12月のサラリーマンは有給の残りが厳しいのだ。


狩猟マップで現在地と地形を確認する。

地形はほぼ地図通りだ。 

・・・でも道が無い。 そもそも人工物のかけらも無い。


縦走するような登山と違って、都会からほど近い里山にタツとして入っているこの場所であれば、尾根を越えず谷筋を下れば必ず道に出るはずである。

だが、本来あるはずの林道や登山道が無い。 

いったい俺はどこに居るんだ?


・・・

・・・

・・・


仕方ない、登るか。


猟の装備を置いて登って万一にでも捜索隊に見つかったら拙いので一式担ぐ。

最近はハイカーに見つかっただけで不審者として通報されたりする。

どっちかっていうと向こうの方が遭難者か自殺志願者かって通報されるような場所なハズなんだが。


ツェルトは裏返して干しておくか もし捜索隊がヘリで来ても見つけやすいしな。


緩い尾根筋を数十分登ると見晴らしの良い山頂に出た。


ん?東にビルが無い? 何処の山頂にも電波塔とか人工物が無い?

ん~~ そういえば朝一に羽田から飛び立つ飛行機も全く見てないぞ?


遭難? そうなんか?何故か関西弁が出る。 

いや冗談抜きで遭難じゃないぞ。


何処だここ 神隠し いや神隠され? 異世界転生? いや死んでないし・・・


そうだ、スマホ・・やっぱり電波届かない いやスマホのGPSは・・信号が入らない。


叫んでみる。


「やっほー」 


山登かっ・・・・


と、突っ込みは返ってこなかったが、コダマは返ってきた。

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