使者役

「しっかし副団長?」


「ん、なんですか?」


 使者役の四人が乗る馬車が、イーニアス領を抜けてベルンフリート領との緩衝地帯に入ったころ、暇を持て余した兵士バッカスがグレンに質問を投げかけた。


「いえね? 団長と副団長が使者役に選ばれるのは分かる‥‥‥てか当然だとは思うんですけど、何で後の二人が俺らなんで?」


 バッカスはすぐ隣で眠っている飲み仲間であるジェフを親指で指した。


 バッカスには、己が正当な理由で使者役に選ばれるとはとても思えなかった。


 彼と相方のジェフは、今でこそ紆余曲折あり心を入れ替えたが、元々は中央地区にて人々を困らせていたチンピラであった。二人の逆立った金髪と腕の刺青が彼らの過去を物語っている。


 バッカスは普段の兵士業からして隙を見てはサボリ、飲んだくれているような人間である。かといって腕が立つのかと言われればそうでも無く、最も得意とするバスタードソードを使った剣術においてもその実力は凡庸に域を出ない。彼に付き合って、いつも共にいるジェフも同様である。


 であれば、自分たちが使者役に選ばれたことには何か相応の訳があるはずだと彼は考えたのであった。


(流石に捨て駒にされるってことは無いだろうがなぁ‥‥‥)


 表面上はジェフと馬鹿話に花を咲かせるしか能のない男である彼も、自分が重要な役割を与えられたとあれば思案の手を伸ばさずにはいられない。


 しかしグレンから帰ってきた言葉は、それこそ深く考えているとは思えぬものであった。


「私が貴方たちを使者役に選んだのは、単に私が居ないと貴方たちが仕事をサボると思ったからです!」


「へぇ?」


 余りにも気の抜けた声を出すバッカス。


「え、ホントですかソレ? てーか俺らを選んだのって副団長だったんで!?」


「そうです。そもそも正式な使者役は団長だけで、私は団長から選ばれたんです!」


 どういうことか、にやりと笑みを浮かべてグレンが楽しそうに言った。


「は、はぁ‥‥‥」


「それで、後二人連れて行くというので私が貴方たちを選んだという事です!」


「なるほど、そういう事だったんすねぇ」


(どうやら不当な扱いはされないみたいだな。よかったよかった)


 内心でほっと胸を撫で下ろすバッカスを尻目に、アーロンからお供に選ばれた時の話を嬉々として語り続けるグレンなのであった。

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