魔剣士

「戻ったぞ」


「うむ。よく戻ったな」


 数日間の外出の末、アーロンはルーカスの住処である坑道へと帰ってきた。そんな彼を坑道の入り口に立っていたルーカスが笑顔にて出迎えた。


「なんだ? 俺が帰ってくるのを知っていたみたいだな?」


「外で魔法の肩慣らしをしていたら、たまたま目に入ったのでな」


 ルーカスが顎で示す先には、地上から五十メートルはあろうかと思われる、切り立った崖があった。


「あそこからなら、入山して来る者を確認することができるのだ」


「俺には近づくなとうるさい癖に‥‥‥」


 目を細めてぼやくアーロンに対し、ルーカスはどこ吹く風といった様子である。


「俺はいいのだ。我が魔操術を以ってすればこの程度の崖から落ちようと、どうということは無いからな」


「魔操術の扱いにおいては、俺とて師に引けを取らんほどにはなったと思うのだがな」


 アーロンが魔操術を体得して早三年。彼の言う通り、アーロンは魔操術の扱いにおいて、今や魔操術の生みの親であるルーカスを追い越さんとする勢いでその練達度を高めていた。


「師って‥‥‥お前、なんだ? その話し方は?」


 しかしルーカスが触れたのは魔操術の練達度などでは無く、アーロンの口調についてであった。


「師の話し方を模倣したものだ。魔法を扱うに際し、必要とされるのは空想の力‥‥‥言ってしまえばイメージする力なのだろう? それならば、魔法技術の開祖たる師に、己を少しでも近づけることで多少なりとも魔法を扱う者としての己のイメージを肥大させようと考えたのだ」


「愚か者め。もっともらしいことを並べおって。関係ないわ」


 そう言って顔を背けるルーカスの顔に、不愉快さというよりは照れを見て取ったアーロンは、自然とにやけてしまう己の表情を抑止するので精一杯であった。


「な、なんだその顔は? まったく‥‥‥それで? 結局、盗賊団とやらはどうなったのだ?」


 ルーカスが話を逸らすために出した話題は、これまでの会話とは一転、実に真剣なものであった。


 近頃この辺りを騒がせていた盗賊団。アーロンは数日前、己の実力ひいては魔操術の練達度を確認、洗練するためにその盗賊団の討伐へと発ったのだった。


 当然ルーカスは止めたのだが、しかし例によって目的の為と言って聞かずに、アーロンはショートソード一振りを手に盗賊団のアジトがあると噂される西の岩場へと向かったのであった。


「殲滅してきた」


 ルーカスの問に、アーロンの答えはただ一言であった。


「そうか。無事で何よりだ。なら、それは戦利品か?」


 ルーカスが指したのは、アーロンが背中に背負う全長百七十センチ程もある鞘へと納剣されたツーハンデッドソードと、腰へと帯剣された全長九十センチ程のロングソードのことである。


「ああ、奴らの盗品に紛れていたので頂いてきた。奴らとの戦闘の中で剣が折れてしまったのでな。こっちは師への手土産だ」


 言うと同時に腰に差したロングソードを外し、ルーカスへと投げ渡す。


「俺は別に剣士では無いのだがな。まあ礼を言っておこう。しかし、こっちでいいのか?」


 アーロンがルーカスへと渡したのは、持ち帰った二振りの内のロングソードの方であった。剣が折れたという以上新たな剣を調達する必要があり、この状況においては、ロングソードを取るかツーハンデッドソードを取るかの二者択一である。普通に考えるのならば、己の身長を超えるほどの長大さかつ並みの剣と比較して、重厚な刀身を備えるツーハンデッドソードはとても実用的とは言い難い。


「ああ、構わん。少し試してみたいことがあってな」


 だがツーハンデッドソードにて試すことがあるというアーロンは、そのまま坑道内へと入って行くのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る