魔法剣術理論

「はあぁッ!」


 一本。


「やあぁッ!」


 二本。


「あぁぁッ!」


 三本。


「なんだ。朝から騒々しい」


 坑道の方より歩み寄ってきたルーカスが呆れたようにアーロンへ話しかけた。


 アーロンの周りには、恐らくツーハンデッドソードにて切り倒したと思われる木が三本転がっていた。イーニアス王国の環境保護団体の御歴々が目にしたならば、迷わず抗議の声を上げるであろう光景である。


「この剣の強度を確かめていたのだ」


「強度だと? 魔操術にてあらゆる物を両断出来るというのに、なぜ今更強度など気にするのだ?」


 疑問の表情を浮かべるルーカスに対し、アーロンは意外だとでも言いたげな顔で答えた。


「いや、言っただろう? 盗賊団との戦闘で前に使っていた剣が折れたと」


「ああ、そういえば言っていたな。確かに」


「どうやら、魔操術による過剰なマナの付加は剣‥‥‥というより、その付加したものへ負担を与えるらしいのだ。師は知らなかったのか?」


「いや、知らなかった。そうなのか‥‥‥」


 なるほどと、腕を組み唸るルーカス。


「で、その剣は大丈夫なのか?」


「ああ、強めにマナを付加しても問題無い。やはり刀身の厚さによるところが大きいのだろうな。まあ、その刀身のおかげで、別に気を遣わなければならん所はあるがな」


「剣自体の重量だろう?」


「そうだ。普通に考えて、こんな重さの武器はとても実用できる物ではないからな」


「だが、魔操術で軽量のマナを付加することで軽々と振るうことが出来ると」


「まあ基本はそうだな。だが斬撃を成す際には一工夫必要となる。如何に鋭利のマナを刀身へと付加したとしても、剣自体に重量がなければ対象を切ることは出来んからな」


「ふむ、今後何かの役に立つかもしれん。一応その斬撃を成す際の一連の手順を教えてくれないか」


 そう言ってルーカスは、懐よりそれなりの厚さの本を取り出した。


「それは別に構わんが、なんだ? その本は?」


「俺の生み出したすべての魔法技術を記した書物だ。それ、手順を言え」


 いつの間にかルーカスの手にはペンが握られていた。


「分かった。まずは先ほどの説明通り、剣に軽量のマナを付加し、そのまま対象へ切り掛かる」


「ふむ」


 アーロンの説明を逃さず、その一語一句を書き込んでいくルーカス。


「そして、振った剣の切っ先が極点‥‥‥振り下ろした場合は、切っ先が天を。振り上げたなら、地面を指した地点で、軽量のマナから解き放ち、剣本来の重量を取り戻させる」


 実演するように、ゆっくりと剣を動かしながらアーロンは説明を続ける。


「そして、最後に斬撃が相手に届くまでに刀身に鋭利のマナを付加する」


「こうすることによって、軽量の勢い、武器の重量、マナにて強化された切断力、その全てを備えた斬撃を放つことが出来る」


「‥‥‥出来ると、よし。それで?」


「‥‥‥え?」


 突然、主語のない疑問を投げかけられアーロンは何とも間の抜けた声を出した。


「その技術の名前だ、名前。名前が分からんことには目次に書けんだろう」


「無駄に几帳面だな‥‥‥。そう言われても、名前なんぞ付けていない」


「そうか。では、魔法剣術と名付けよう」


 言いながら、本へ書き込んでいくルーカス。


「おい! 術理を考えたのは俺だぞ!?」


「ふっふ、弟子の手柄は師の手柄と言うだろう」


「聞いたことが無いわ!」


 口では激を飛ばしながらも、その内心は満更でもないアーロンであった。

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