国王と王子

 中央地区と西地区を隔てる門を、数十騎の騎馬が潜り抜けアーロンたちの前で止まった。


 その騎馬らに囲まれるように位置取る馬車より降りてきたのは、イーニアス王国の現国王であるアーチボルド・イーニアスと、王子オーウェン・イーニアスである。


 金色に輝く髪と、顔の過半部を覆うようにたくわえられた同じく黄金の髭。国王、アーチボルドは齢四十にして老獪なる威厳を放っていた。


 国王の横に立つ王子、オーウェンは父親譲りの輝く金髪を短く切りそろえた、如何にも貴族の子息といった容姿であった。アーロンと同じく十歳だという話だが、しかし彼と比較すると王子の顔はかなり幼く感じられた。


「アーチボルド陛下、オーウェン殿下! よくぞお越しくださいました!」


 頭を下げ、アーロンの父親、アブナーが声高に歓迎の言葉を発した。その横でアーロンとアンも同様に頭を下げる。


「うむ。苦しゅうない。顔を上げい」


 言葉通りに顔を上げる三人。その中で、顔を上げたアーロンの眼には王の脇に控える一人の騎士が映った。


(あっ‥‥‥)


 アーロンの事を騎士にするべく、二年間のあいだ引き取っていた近衛騎士隊長のアレクシス・ラトランドであった。


 二メートル近い長身に鍛え抜かれた肉体。そしてそれを包むようにプレートアーマーを装備した巌の如き男である。彼は直立したままに、微動だにせず、ただ顔だけをアブナーへと向けていた。


 アーロンの視線がアレクシスに奪われる中、国王がアブナーに話しかけた。


「突然の視察で済まないが、オーウェンがどうしても行きたいと言って聞かぬのでな」


「いいえ! 滅相もございません! ただ、確かに突然のことではありますので、未だ陛下の行幸はまだ西地区全体には伝わっておりません」


 威厳ある王の物言いに、アブナーはただただ畏敬の念を抱くばかりであった。


「いや、それも構わぬ。お前たちはただ私たちを先導してさえくれるだけでよい」


「は! それでは、まずは畜産業の方からご案内をさせていただきます。こちらへ」


 そういって王の威光を前に、文字通り恐縮しながらもアブナーは西地区を案内するべく歩みだした。そしてその足取りを追うように、アーロンとアンその後を付いていくのだった。

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