四章 落魄鬼

視察


「え? 王様が来るの?」


 アンが、畑に設置された害獣避けの柵へと座りながら言った。


「うん、よく分からないけど視察のためだとかなんとか。それと王子様も連れてくるらしい」


 同じく、柵に座りながらアーロンが答えた。


「ふ~ん。西地区なんて畑と森しかないのにね。きっと、王様はよっぽど暇なんだね」


「まぁ、そうなのかもしれないけど‥‥‥。それ、王様が来た時に言うんじゃないぞ」


 たしなめるアーロンに対して、アンはむくれた表情である。


「もう! 私もそこまで馬鹿じゃないって!」


「ははっ! 分かってる分かってるって! まっそういう訳で今日の俺は忙しいんだ」


 柵から飛び降りると同時にそう言ったアーロンに、アンは質問を投げかけた。


「忙しいって、王様はいつ来るの?」


 アンのその質問に対し、アーロンは呆れたような、困ったような顔で答えた。


「いやぁ、それがあと二時間後なんだよ。俺の家は西地区の入り口にあるだろ? だからお出迎えしないとって親父が張り切っててさぁ」


「あっ! じゃあ私も手伝うよ! アーロンにはいつもお仕事を手伝ってもらってるしさ!」


「え?」


 特に人手が必要な訳でもないので、断ろうとしたアーロンであったが‥‥‥。


「あー分かった。じゃあ手伝ってもらうかな」


「分かった!」


 満面の笑みを浮かべるアンを前にしては断れないのであった。この判断が己の人生を破滅へと導くことを知らずに‥‥‥。

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