沈黙

 基本的には西地区の人々の生活リズムは皆ほぼ一定である。ほとんどの家が午前五時頃に起床し、畑につき次第作業を始め、八時に一度帰宅して朝食を取り、九時から一二時まで再び農作業をする。一二時に昼食を取り、午後一時から三時までの間に南地区の商売人たちの元へ農作物を卸しに行く。三時から七時までは再び畑での農作業というのが西地区で生活する者のおおよその生活リズムである。


 自然を相手にする仕事であるため数十分程度の差異はあれど、住人のほとんどは変わらない生活リズムで暮らしているのだ。


「遅いぞ」


 畑に出てきたアーロンを目にして、アブナーは開口一番にそう言った。実際には先ほどの会話から一分も経っていないのだが。


「……親父、俺も悪かったとは思ってるよ」


「何のことだ」


 申し訳なさそうな声色のアーロンに対し、アブナーの返答は実にそっけない。


「近衛騎士になるのを断ったことさ。親父が怒ってるのってそのことだろ?」


「……」


 アーロンが恐らく父親の機嫌の悪い原因であろう話題に触れると、彼は押し黙ってしまった。相手から返答がないのでアーロンとしても会話を続けずらく、彼らは黙々と農作業を続けた。


「でも、あれには訳があるんだ!」


「……」


 沈黙に耐えられなくなったアーロンがそう発するが、アブナーはまたも沈黙で返すのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る