兵士団長

 王城広場では受験者約千人余りが兵士団入団試験を受けていた。


 試験は受験者を四組に分けて、それを試験官一人とその試験官に付き従う十人ほどの兵士が監督して行われる。


 兵士団入団試験は四つの試験で構成されており、第一試験は乗馬試験、第二試験は走力試験、第三試験は近接武器を持参したものは斬撃試験、遠距離武器を持参したものは射撃試験、そして第四試験の模擬戦である。


 先ほど第三試験を全員が受け終えて、今は休憩時間に入っている。


 ある者は軽食を取り、ある者は次の試験に備え鍛錬に励むなど、それぞれが思い思いの過ごし方をしている中、ただ壁に背を預け思案に耽る男が一人。


 プレートアーマーに身を包み、アーマーの上からでも分かるほどの分厚い四肢。露出した顔面に刻まれた幾つもの傷跡は、彼が数多の戦いを切り抜けてきた古強者であることを誇示していた。しかし、そのような外見とは対照的に小手内で弄っている物はごく短い刀身の短剣、ソードブレイカーである。


 その屈強な身体との対比から、その姿は滑稽に見える反面、何物をも寄せ付けぬ奇怪なる威圧を放っているようにも見えた。


 彼の名はランバート・アルダス。イーニアス王国兵士団の兵士団長その人である。


 彼は現在、とある一人の男のことについて、考えを巡らせていた。鎧を着けず、長大な両手剣を背負った怪しい男である。


 その男を目にした当初は、運よく受験資格を満たした狂人かと考えていたランバートであったが、ここまでの試験を見てただ者ではないことに気付かされた。


 乗馬試験こそ平凡な結果であったが、走力試験では過去の試験を含めても最高の記録をたたき出したのだ。


 続く斬撃試験でも男は信じられない結果を出した。


 斬撃試験とは、ポールに架けられたプレートアーマーを斬りつけてどの程度の損傷を与えられるかという試験である。


 しかし、良質な鋼鉄を使っているこの国のプレートアーマーに与えることができる損傷など、どれも似たり寄ったりであり、結局は武器をうまく扱えていない者を振るい落とすための試験と化している。


 化しているはずだったのだが‥‥‥。


 その男は持参の両手剣でプレートアーマーをいともたやすく両断して見せたのだ。


 その光景をみたランバートは‥‥‥いや、その場に居合わせた者たちは驚愕した。物理法則を完全に無視した仕業であったのだから当然の事である。そもそもほとんどの者は、男がその両手剣を扱えるとすら思ってはいなかったのだ。


(あんな奴が団に入ってきたら、俺の面子はどうなる?)


 何よりも面子を重んじるランバートにとって、自分の面子を脅かす者は決して許容するわけにはいかない。


 彼はその短髪をわしとかき上げ、如何様にして例の男を試験に落とすのかを考えるのであった。

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