ローブと両手剣

 イーニアス王国の南地区は今日も活気に溢れていた。様々な国の人間が入り乱れる往来に、商人達の露店が居並ぶ。


 南地区は、イーニアス王国の商業を一手に担っていながらも、王国の入り口としての役割もある地区である。他国の商人も、この地区までなら多少の荷物検査で入ることが出来る。


 今もまた、馬車四両を擁する商隊が南地区へと入ってきた。


「む、その怪しい男は何者だ」


 商隊の商人らの荷物検査を行っていた兵士が一人の男に目を付け、商隊のリーダーに問いただした。


「この男はここに来る時に出会った旅人です。どうやら、今日この国で行われる兵士団の入団試験を受けるようなので乗せてきました」


「こいつが入団試験を?」


 兵士が疑問に思うのも無理はない。その男の出で立ちは、およそこれから兵士団の入団試験を受けんとする者のそれでは無かった。ある一点を除いては……だが。


 男は埃に塗れた漆黒のローブを纏っており、それについているフードを深く被っていた。これだけでも検査で引き留められるには十分な要素であるが、男が背負うソレは服装の不審さを殊更に引き立てていた。


 ローブの男は、長大かつ重厚なツーハンデッドソードを背負っているのだ。引き留めた兵士も、百七十センチ近くもあるこの剣を振るって戦闘を行える気はしない。


 本職である兵士でも振るえないような剣を、このようなローブを着た、まるでまじない師のような恰好の男が持っている。そのアンバランスさが強い怪しさを生み出しているのだ。


「……お前、入団試験に参加するのか?」


「ああ」


 感情を感じさせぬ、低く、静かな声でローブの男は答えた。


「そうか、ならばまず顔を確認させてもらおう。フードを取れ」


 男は無言でフードを払いのけた。


 服装の異様なその男は、素顔もまた奇妙であった。


 肩に掛からない程度に無造作に切り分けられた黒髪。青ざめてやつれた顔。数日間寝ていないのではないかと思うような眼の下の隈。しかしそのような様子でありながらも、その眼光だけは鋭く兵士を見返していた。


「……ではついて来い。試験の受付へ案内する」


 その剣呑な眼光に息を呑みつつも、ほかの兵士にこの場の引き継ぎを頼み、兵士は男を案内し始めた。


「何も変わらんな、この国は」


 そう呟いた男の言葉は、兵士の耳には入らずに、南地区の喧騒に飲まれて消えた。

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