悪魔な彼女のせいだ!!

みん

プロローグ

『人生にモテ期は三回ある』


 ――誰だそんなこと言ったやつは? 住所教えてくれ。俺、絶対にお前のことぶん殴りに行ってやるから。

 俺――黒瀬怜音にはモテ期が一度も来たことがない。もちろんモテないからと言って、彼女はいらないだとかそこまでひねくれてはいない。だから、小学生の時も、中学生の時も何度か女子に告白したことがある。

 だが、その答えはいつも決まっていた。


「気持ちはうれしいけれど、黒瀬君にはもっと他にいい子がいると思うよ」


 ………………だったら教えて下さいその、他のいい子っていうのを。ねえ、いるんでしょ!? それなのに一度も告白されたこともなければ、付き合えたこともないんですが。

 神様、俺にモテ期は本当に三回くるのでしょうか? 八十歳や九十歳くらいになってようやくモテ期がくるとか、そういうオチなのでしょうか? 

 それだけは本当に勘弁してください。せめて一回くらいモテ期が来ても罰は当たらないと思うのですが……。


 そんな俺も今日からは高校生。新しい出会いを求め、わざわざ地元の中学から遠くにある学校を選んだ。

今回こそ彼女を作って見せる。モテキに期待できない以上、自分でどうにかするしかない。

 その学校は住んでいた田舎とは違い適度に発展しているところにある。オフィス街というほど発展しているわけではないが、いたるところにマンションや店が立ち並んでいるため人の通りも激しく、遊ぶには苦労することはないだろう。

 もちろん寄り道するならば一人ではなく、彼女を作って寄り道をしたいに決まっている。

 だからこそ、高校では絶対に可愛い彼女を作る。俺の目標はただそれだけだ!

 ……って、あれ? もうそろそろ駅に着くのにもかかわらず、電車の中の学生が俺以外いないんですが……。

 頭の中に少しの疑念を抱いた俺だったが、そのまま乗り過ごすわけにもいかず電車を降りる。


「それに、この道もなんか人が少な過ぎるような気が……入試の時はもっとたくさんの人が歩いていたのに……」


 電車を降りた俺がいるのは当然だが、学校と駅の間の通学路。まだ朝だからなのか、その道は閑散としている。

 ――しかし、この道はやけに閑散とし過ぎているのだ。

俺が受験の時に訪れた時は、散歩中の老人達や買い物帰りの子供を連れた主婦や、小学生の集団を何人か見かけたりした。それなのに今、この場には学生どころか俺以外誰もいない。


「まさか神隠しとかじゃないよね? いくらなんでもそんな漫画みたいな展開あるわけないしね。……ないよね?」


 頭の中に疑問はまだ残っているが、入学初日から遅刻するわけにもいかず俺は足早にその場を後にした。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「じゃあ早速、入学早々遅刻した言い訳を聞かせてもらおうか」


 ――結論から言おう。俺は入学初日から遅刻してしまった。

 理由は案内に載っていた時間を一時間勘違いしたまま準備をしてしまったからだ。

 そりゃあ、電車に学生が乗っていないわけだ。だってみんなは俺よりも一時間早く学校に来ているんだから。

 今は担任とクラスメイトの前で正座させられている。クラスのあちこちから『クスクス』と笑い声が聞こえてくる。お前らの顔覚えたかんな。覚えてろよ。


「遅れた理由は、単純に時間を勘違いしていて、それで……」

「黒瀬。嘘をつくにしてももっとましなこと言えないのか」


 担任の教師はこめかみに手を当て、呆れた表情を浮かべる。


「嘘も何もこれが真実なのですが……」

「どこの世界に数字を読めないバカがいるんだ。それともお前は生まれたての赤ん坊か何かなのか?」


 すいません。そのバカがここにいました。

そうですね。できることならば胎児からやり直したいです。


「寝坊なら寝坊と正直に言った方がこの説教も早く終わるぞ。俺だって説教がしたいわけじゃないんだからな」


 お前こそ嘘をつくな。顔がにやけてるぞ。楽しさが顔からにじみ出ているぞ。

 まあ、寝坊と言ってこの説教が終わるならばもう寝坊でも構わない。その取引乗った。

 俺は立って即座に頭を下げ、謝罪の意を表す。


「ごめんなさい。本当は寝坊をしました。家の布団が本当に温かくて……」

「そうやって素直に言えばいいものを。次からは気を付けるんだぞ」


 そう言って担任の教師は俺を席に座るよう促す。ただ、長時間の正座によって俺の足はもう限界だった。歩くたびに生まれたての子鹿の様に小刻みに震えた足を見てクラスメイトから再び笑い声が上がる。

 これ、初日から俺変な奴認定された? わざわざ遠くの学校にまで来たのに……。

 その日は俺の人生の中でもダントツで最下位にランクインするほどひどい日だった。

 クラスの男子には遅刻ネタでいじられ、その対応をしないといけないせいでロクに女子と話すこともできなかった。


 ――本当に最悪な一日だ。

 朝とは違い、駅までの道にはいくらかの人通りがあった。ただ、心なしか皆俺のことを少し避けて歩いているような気がする。

 まあ、ほぼ俺の被害妄想だろう。今日は本当に最悪な日だった。そのせいで周りのことに敏感になりすぎているのかもしれない。


「とりあえず、家に帰ったらシャワーでも浴びよう。すこしは気が楽になるかもしれないし」


 俺は足取り軽く家を目指す。もちろん、こうすれば気分が少しでも晴れるかもしれないという気持ちもあるが、本命は別にある……。

「それに家には昨日買った、限定五個のプリンもあるからな。一昨日に徹夜で並んで買ったからな。さぞ美味しいんだろうな……」


 俺の家は学校のある町から少し離れた田舎にある。周りには多くの田畑が広がっている。

 家はまばらにしか立っていないが、父が生まれた頃には本当に一面田畑しかなく、地平線が見えたらしい。それに比べれば今はだいぶ発展している。

 そんな場所に建つ木造の一軒家。木造とはいってもまだ建ってから十年もたっていないので、それなりに外観はきれいである。


「ただいま~」


 中からの返事はない。それもそうだろう。両親はともに働いていて、普段は家に俺しかいない。むしろ返事があった方が恐ろしい。


「はあ~、とりあえずシャワー浴びるか」


 汗と共に今日の苦い記憶も流してしまいたい。そのために俺はバスルームへと向かう。

 だが、その途中俺はある違和感に気付く……。


「あれ? シャワーの音……」


 もちろん家には誰もいない――はずだ。しかし、家の中には水が流れる音が響いている。


「どっちか、今日早く帰ってきたのかな?」


 そうじゃないと困る。それ以外の答えなんてあってほしくない。いや、あってはいけない。

俺はもしもの場合に備え、右手に殺虫剤を携えてバスルームの扉を開ける。


「ただいま~。今日早く帰ってきたの?」


 俺は恐る恐るバスルームを覗く。

 始めは中に濛々と湯気がと漂っていたが、だんだんと視界が晴れていく。

 俺は中に誰がいるのかを確認するため、目を凝らす。


 ――そこにいたのは、全裸の少女だった。

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