第11話 血筋

仔犬様のお世話のため更新出来ず、奇跡的に楽しみにして下さっている方々をお待たせする形になり、すいませんでしたm(_ _)m


ツイッターなどでは仔犬様の写真などアップしてますので、お犬様好きの方いましたら、是非仲良くして下さると嬉しいです!


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クラウスはその足でコロに会うため、ひた走っていた。もしかするとユキにもう一度会うチャンスがあるのではないかという想いが、更に足取りを急がせる。


だが、ユキは再度こちらの世界へ召喚されて喜ぶだろうか?

元々向こう側の人間なのだから、むしろ嫌な顔をされるのではないだろうか……。


ユキを好きだからこそ、嫌な想いはさせたくない。

でも、愛してしまったからこそ……もう一度会いたい。


そんな矛盾に満ち溢れた感情が渦巻きながらクラウスの心をきつく締め付ける。



(それでも……やっぱり………。)



クラウスは溢れ出る想いを唾液と共に身体の奥深くへと呑み込んだ。


*****


【ラムトゥ武器屋】


「よぉー、アキラ遅かったじゃねぇーか!」



片手をあげ、店の奥から声をかけるゼンの姿を確認したアキラはカウンター奥の小部屋へと足を進めた。中に入ると、まるで夕食の一家団欒を彷彿とさせる光景が目に飛び込んで来る。


異世界から仕入れたという、人をダメにすると噂の『コタツ』に下半身を丸ごと預け、寝転び寛ぐゼンの隣には、せくせくと鍋の準備をするロウの姿があった。



「何やってるんですか………?」



呆れ声で吐き捨てられた言葉にゼンは、頬をわざとらしく膨らます。



「何って夕食ですが、なにかァァァァ?」


「それは見れば誰でも理解出来ますよ。オレが聞いているのはそうではなく、今それが必要なのかということです。サツキ様が今この時も苦しんでおられる可能性がある中、何を優雅に寛がれているんですか? という問いです。」


「サツキが苦しんでるって?! ギャハハ、それはねぇーわ。だってサツキだもん。向こうでだって楽しんでるって! そんな事よりアキラちゃんも早く『オコタ』においでよ~」


「……結構です。」


「あそ。んで、巫女族は連れてきたのー?」


「はい、ご要望の通り意識は失っている状態で連れて参りました。」



アキラはそう言うと、大きな袋を背中から下ろし、中を開けて二人に確認させた。



「………アキラちゃん、これ確かに意識は失っているけど………こういうのって瀕死状態って言うんじゃない?」


「そうですか? まだ全然息ありますよ?」



ゼンはどこか納得と言った様子で息を吐きだし、ロウへと視線を移す。



「ロウ母ちゃん、アキラちゃんってば、巫女族瀕死で連れてきちゃってるよ~、どうするの~?」



野菜を鍋へと運んでいた箸を止め、ロウは表情一つ変えることなく、後ろの方を指差した。



「まぁ、アキラの事だからそうだろうなと思って、一人馴染みの巫女族を拉致して来てる。」


「馴染みなのに、拉致るんだ……」



ロウの説明にツッコみを入れながらも、ゼンは示された後ろの部屋の扉を開いた。するとそこに居たのは銀色のボブヘアーの小さな女の子だった。



「あのー、ロウに拉致られた巫女族さんでしょうか……?」


「いま゛、じゃべり、がげるんじゃ………でェーッズ!!!!」


「……はい?」



何を言っているのか、まるで理解出来なかったゼンは少女へと近づき、ヒョイと上から覗き見てみると……小さな体格からは想像も出来ないほどの大皿に乗っかったカレーライスを口いっぱいに詰め込み、幸せそうな笑みを浮かべた。



「んめェェェェェ~~~~~!!!」



あまりの迫力に呆気にとられるゼンを他所に、アキラは巫女族の少女の前へと勢いよく座ると、近くでマヂマヂと観察し始めた。



「ちょっと、アキラちゃん近い!! 近いってば!! 猥褻わいせつ行為で訴えられても知らないからねぇ!!!」


「いや、そうではなくてですね……。なんかどっかで見た事あるような気がするんですよね………」


「アキラたん、巫女族に知り合い居たの……?」


「居たら……こんな苦労してませんよ……。相変わらずサツキ様に比べて頭の造りが著しく退化されていらっしゃいますね。」



目を細めバカを見る目を向けられたゼンは涙を浮かべ、ロウへと助けを求める。



「ロウお母ちゃん~~~、アキラちゃんが酷いんだよぉ~~~!! オレの事バカだって言うの~~~」


「誰がお前の母だ。死ね。お前がバカなのは生まれつきだろ。今更ピーピー騒ぐな、ウザイ。」



後ろから抱き着き甘えるゼンを一括すると、共に巫女族の少女の元へと向かう。



「やっぱり見た事ありますね。どこでだろう……?」


「そりゃそうだろうな。そいつはセムナターンの騎士塔で働いてるしな。サツキのストーカーであるお前が見た事があっても、別に変ではない。オイ、お前も食ってばっかいねぇーで、挨拶しろよ。」



ロウの言葉に耳をピクピクと反応させた少女は、大皿のカレーを勢いよく喉に流し込み、豪快に食を終えると乱雑に裾で口周りを拭いてから軽く頭を下げた。



「皆様、初めましてッス。ミミルと申しますッス。セムナターン騎士塔案内役を務めておりますッス。以後お見知りおきは………別にしてくれなくていいッス。」


「つか、なんで巫女族なのにセムナターンなんかで働いてんだよ………。巫女塔でウハウハしてればいいのに。」


「なんスか、うんこ色頭!! 巫女族にも色々事情があるんス!! そちらにも事情があるように、こちらにもそれなりに事情があんスよ! 詮索しねェで欲しいッス。」


「う、うんこ色…………。」



著しく心に傷を負ったゼンは、魂が抜け落ちるようにその場へと崩れ落ち、アキラはそれを鼻で笑いながら口を開いた。



「確かに脳みそも腐敗してますし、ゼンさんにピッタリのあだ名なのかもしれませんね。」


「おい、アキラ。あんまイジめてやんな。面倒くさい事になるからな。」


「オレは事実を述べたまでですよ。それよりも、この子供………ゲート開けるんですか?」


「子供じゃねェーっス。僕はもう15歳ッス! ゲートは開けるッス。実際にさっきお前らが入ってたコタツは僕が召喚したもんッスよ。」


「ああ、そうなんですね。初めて見ましたよ、コタツ。伝説でしか聞いたことないレベルでしたからね。ですが、以前サツキ様が利用したことがあると言っていたので、実在するんだなと心震わせた記憶があります。まぁ、今はそれどころではないですが。」



早速と言った様子で、アキラが拉致してきたもう一人の巫女族の女を袋から床へと転がせると、好きにしてくれと言わんばかりに、ミミルへと差し出す。



「なんで……こんな瀕死なんスか……。もしかして姉様と同じ趣味でも……あるんスか……」


「姉様って、あのヴィッチ臭漂うメス豚の事ですか?」


「な?!!! あ、姉様を………メス豚つったッスね!! この色男がァ!!!」


「ミミルちゃん……、それただ褒めてるだけだよ………」



二人の会話に先程心を抉られたゼンが不満そうにツッコミを入れ、言葉を続けた。



「オレはうんこなのに………、アキラちゃんは色男って………、グスン。」


「まぁ、事実だし、いいんじゃね?」



ケラケラとゼンの肩を抱き慰めるロウに、ミミルの頬は破裂寸前まで膨れ上がる。



「なに、仲良しこいてんスか! ホモっすか?!」


「いや、ホモはアキラの方だろ………」



ロウは肩を抱いたままアキラへと視線を投げるが、当の本人は何故か頬を赤らめ潮らしい笑顔を浮かべていた。



「いや、アキラちゃん、そこ照れるとこじゃないからね?」


「色男さん、ホモだったんスね。ご愁傷様ッス。」


「ハイハイ、二人共もうホモはいいから。アキラもいつまで照れてんの………。サッサと仕事か夕飯かどっちかにしようや。」



ロウの提案に皆同意し、鍋の火は止めてある事を確認してからミミルは仕事へと取り掛かかった。それを邪魔しないよう、部屋の端へとロウとゼンが移動する中、アキラはジッとしてはいられなかったのだろう、ミミルのお手伝いを始める。



「この死にかけの女はどうしたら良いでしょう?」


「精気だけ頂くッス。その辺に転がしておいて欲しいッス。」


「精気足りますか?」


「分からないッス。けど、いざとなったら色男さんから貰うッス。精霊さんッスよね?」


「仰る通りです。サツキ様のためならば、いくらでも差し上げるので、ご遠慮なく申されてください。」


「了解ッス。いつもは姉様から吸い取ってやってたんスけど、色男さんも相当そうだから大丈夫ッスね。」



ミミルの何気ない一言が疑問を生み、アキラは頭を捻らせる。

お姉さんってことは同じ巫女族ですよね?

なのに吸い取るってどういうことでしょう?



「もしや、姉様というのは人間ではないのですか?」


「え? あ、ハイ、そうッスよ。魔族ッス。その中でも変態種族で名高い吸血種ッスよ。」


「わざわざ魔界から転移されて来られたのですか? また大変な気苦労をされて転移されたのでしょうね。」


「色男さん不思議な人ッスね。普通こっちの世界の住人は魔界人を一方的に嫌っているイメージなんスけどね。」


「そうなんですか? 個人的には魔族より人間の方が遥かに嫌いなので、あまり自分には理解出来ませんが。」


「アレ? 今やっている儀式は【彼岸】にいる御主人様救出大作戦なんスよね? 人間嫌いなのになんで懐いてるんスか?」



アキラはミミルの言っている意味が分からないと言った様子を見せたため、ミミルはすぐにロウへと瞳で問いの答えを要求した。



「あー、つかさ、俺お前にサツキが人間なんて言ったか?」



予想外の問いかけにミミルは首を傾げる。



「サツキ様はれっきとした魔族ですよ? まぁ、お母様が人間なのでハーフですが。」


「人間じゃねェんスか?!! 精霊が魔族なんかと居たら瘴気にあてられねェーんスか?」



変なとこに興味を持ち始めたミミルの手は完全に止まり、まるで再開する様子を見せない。



「どうやってコッチに来たんスか?! 人間界には許可証がないと立ち入る事は硬く禁止されてるじゃないッスか!!!」


「………じゃ、君の姉様はどうやってこっちに来たのでしょう? おそらく似たり寄ったりの方法ではないでしょうか?」


「だとしても、ロウとうんこは昔馴染みの友人を救うとかなんとか言ってたじゃねェーッスか!! お二人とも人間ッスよね?」



興奮気味のミミルの問いかけに二人は同時に頷き解答を告げると、みるみる好奇心が高まり瞳を輝かせ始めるミミル。



「めんどくさいねぇ………」



心の底から怠そうに呟いたロウだが、無償で手伝ってもらっている手前、一応答えておくかと心を決め、ミミルを正座させ、簡単な説明を始まる。


サツキとゼンとロウの三人は、今や【悲劇の始まりの村】と囁かれている滅びた村出身な事は偽りない事実だと念を押してから、教室の授業さながらのご高説が始まった。


サツキが魔族と人間のハーフだというのは、ロウ達も知っているが、深い内情までは関知していなかった。

気づいた時には、既にサツキは村の一員として当たり前にそこに居て、生活を共にしていたからだ。


ロウの祖母の話によれば、サツキは生まれて間もない頃、ボロボロに傷を負った母に抱えられ、村に来たという。大層美しい人だったそうで、村でもすぐに話題が広がったそうだ。


母の状態から村の人々はすぐに何かあった事を悟り、深くは探らず傷の手当てをし、面倒をみていた。数日が経過した時に、夫だと名乗る男も村を訪れ、それからは家族仲良く暮らしていたそうだが、狩りに出かけた夫は森で死体の状態で発見され、それは見るも無残な姿だったんだそう。


美しい妻はそれを見て嘆き、床に伏せ涙で枕を濡らす生活を余儀なくしていたそうだが、数ヶ月後病に倒れ、すぐに夫の後を追うように天へと旅立って行った。


近所に住んでいたお婆さんは幼いサツキを不憫に思い、亡くなるまで精一杯の愛情を込めて立派に育てあげましたとさ、チャンチャン。



「そのお話ですと、何故ロウさん達はサツキ様が魔族だと分かられたんです?」


「ああ、面倒見ていた婆さんがね、言ってたんだよ。『不憫な魔族』だと。婆さんがなんで知ってたかは俺達には分かりかねるが……。村が滅んだ後に、ふとその事を思い出し、検査キットで試させたらマジで魔族だったって話。」


「では、それまでサツキ様はご存じなかったのですか?」


「元々どこか人間離れしたヤツだったから、俺らは違和感なく逆に納得したが、本人は幾度も検査してたから相当不満だったのかもな。」


「検査キットまで手に入れてたんスか。人間だと思ってたのに魔族だったとか、まじ悲劇ッスね。ご愁傷様ッス。」



それまで黙って聞いているだけだったゼンは、急にらしくない重たい空気を身に纏い、ゆっくりと口を開いた。



「……サツキは人間にも魔族にも受け入れられなかったと思うと、胸が痛いね。」



魔族であるというだけで、まるで汚いものを見るような視線に晒させる。

だから魔族は身を潜め、醜い人間を食すのだ。


本当に汚れ、腐敗しているのは『お前たち』であると言わんばかりに………。




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最後まで拝読して頂きありがとうございますm(_ _)m


奇跡的に作品を気に入って頂けたら、評価やブクマをして下さると、ものすっごく嬉しいです!


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今回はサツキ君の生い立ちも徐々に明かしていけたらいいなぁと、思ってますww


というか、早く異世界に戻したい今日この頃w


良かったらまた次話もお付き合い下さると幸いですm(_ _)m

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