第10話 クラウス拉致事件?!


「コロ様ぁああああ、分かりましたですよ~~!!」



リンは慌ててコロの居る部屋の扉を激しくノックした。

まるで取り立て屋の如く響き渡るノック音に、コロは眉を寄せ怪訝な様子を露わにする。



「リン! 扉をそんなに強く叩かなくても聞こえていますよ。」



コロからの返答を聞くや否や、すぐにリンはコロへと一枚の画像を提出して見せた。リンの慌てた様子に疑問を感じながらも渡された画像を手に取り詳細を確認。


そこに映し出されていたのは、『彼岸世界』と呼ばれる異世界で撮られたモノのようだった。



「リン、これがなんだと言うのです? 彼岸の現状など今のわたくしには関係のないことですわ?」


「コロ様! よく見て下さい。ココです!!!」



リンに指差された場所を凝らして見つめると、そこに居たのはコロが二度と見たくない人物の姿が映し出されていた。



「アルラ様………か?」


「はい、間違えなくアルラ様のお姿だと思われるのです!! しかもですよ? その後ろをご覧くださいです。」


「これは…………もしや………」


「はいです。朱鴉シュアだと思われます。」


「何故アルラ様と一緒になど………」



私が隔離転移させたアルラと、破滅に手を貸した『悲劇村』の復讐者リベンジャーが共に行動しているなど、なんの因果かと苦笑した笑みを浮かべた。



「朱鴉は本当に彼岸へと渡っていたようですね。ということは、ユキという少女は彼岸の人間という事になりますわね。しかもよりにもよってアルラ様と接触しておられるとは………、なんと数奇な出会いよ……。」


「朱鴉がこの世界から居なくなってやっと心穏やかになっていたというのに、コレですよ………。このまま朱鴉も彼岸から出られなければ良いのですが………やはり出て来やがりますか?」


「アルラ様には重術が厳重にかけられているはず。ですが、彼にはそれはない。そして、アルラ様を縛り付けている鎖を断ち切る力も有していることでしょう。これは存分に警戒せねばなりませんね。」


「共にこの世界に戻ってきやがるということですか?!」


「その可能性は十二分に考えられる、ということですわね。」


「それよりも………あの方に………」



コロは言葉の代わりに、盛大な溜息を外へと吐き出すと、代わりにリンへ巫女都市全域に警戒態勢を引くことを命じ、そのまま部屋を急ぎ後にした。


以前、朱鴉はゼンという少年と共に巫女都市に侵入していたことがあった。彼の目的は『五感加工薬の回収』というものだった。


目的が指す通り、巫女族を虐殺しに訪れたのではなく、隠密に自分の村から盗まれた薬の回収に来ていた。まるで鴉のように闇夜に紛れ、朱色に染まった鋭い瞳で門番を射殺し、目的のブツをほんの3分足らずで回収し、姿を消した。


世界にとって重要都市に認定されている巫女都市に易々と侵入し、邪魔立てするものは容赦なく切り殺し、彼は華麗に薬だけを奪い去って行った。


その姿を見た者が彼を皮肉交じりにこう呼んだ。『まるで闇と同化する朱色の瞳を持つ鴉のようじゃ』と。

この時から彼の事を巫女族の間では『朱鴉』と呼んでいる者も多い。


もちろん素性は調べ上げているため、名前も知ってはいるのだが、もはや親しみを込めての愛称だといってもいい。


コロは一方的にサツキを知り、サツキもまた一方的にコロを知る。

コロが未だに抹殺対象となり得ていないのは、背後にいる人物の確認が明確にとれてはいない事が原因であろう。



「もしもし、コロです。どうやら睨んだ通りの展開のようですわ。どうか、その身お気をくださいませ。」



コロは誰かへとキューブで連絡をとり、一言告げるとすぐに通話を終了した。そしてそのまま別の人間へとコンタクトを取り始める。



「もしもし、私ですわ。虹クリの入手は順調ですの? おそらく近い内に朱鴉がそちらに伺うと思いますわ。………ええ、そうですわね。けれど、貴方の手配した3人全然使えなかったようじゃありませんか。現に未だにキューブメモリは回収出来ておられないでしょう? …………そうですわね、そうして頂けると嬉しいですわ。あのメモリは絶対回収しないとあの方に叱られてしまいますものね。………、ではそのようにお願い致しますわ。」



コロは通話を終えると、脳を休めるように大きく息を吸う。

沢山の酸素を取り込んだ脳みそで、今一度事の整理をしながら、そのまま外へと足を進めた。




****


「こんにちは、クラウス皇子。」



クラウスになんの気配も感じさせず近寄り声をかけてきた一人の男。一体誰なのか全く分からなかったクラウスは少し首を傾げつつも、丁寧に返答を告げた。


すると、男はニコリと口角を上げ、クラウスの方へと歩を進めた。表情はとても穏やかで笑顔を浮かべているように見えたが、その周りの空気は殺伐としており、いつ切りかかれても不思議ではない、そんな雰囲気を纏っている男だった。


濃いブルーの長い髪を後ろで纏め、皺一つない燕尾服が見事に似合う端正な顔立ちをした男は、クラウスの前の前まで来ると軽く会釈をしてから口を開く。



「ユキという女をご存じでしょうか?」



怪しい男の口から、まさか「ユキ」の名前が出てくるとは予想もしていなかったクラウスは眉を歪ませ、一気に不信感を募らせる。



「……おや、そう警戒されても困りますね。実はあまり時間がないもので。出来ればスムーズにお話をさせて頂きたいのですが?」



裾をまくり上げ、指を鳴らしながら問う男に、クラウスはより一層の疑念が募る。それもそのはずだ。そもそもユキは異世界の住人で、この世界に知り合いなどいるはずもなく、この男が「ユキ」の名を口出すのは違和感以外の何物でもなかった。



「どうしてユキの事を知りたいのです?」


「質問を質問で返されるとは……。これは長くなりそうですね。では、面倒なので拷問するとしましょうか?」



男は言葉を吐き捨てると同時に、一瞬でクラウスの背後へと周り両手をきつく捩じ上げた。捻られた手首を何かで縛られ、髪を引きずられるようにして近くにあった小屋の中へと乱暴にその身を投げられる。



「あまりこういう事はしたくはないのですが、本当に面倒くさいんですよ……。ですが、まぁ……致し方ないとお思いください。」


「な、なんなんですか? ユ、ユキとはどんな関係なんですか?!」


「関係? そんな女とオレが関係などあるはずないでしょう。」


「なら、どうしてユキの事を知りたがるんだ?!」


「どうしてって………そのクソみたいな女があるじをどこかへ転移させたからですよ………」



表情は穏やかに笑ってはいるが、瞳には鋭い狂気を宿し、怒りの感情を必死で抑え込んでいることがクラウスの目にも見て取れた。



「ユキに転移能力などない!!」


「はぁ? では、主がその女を連れて故意的に転移コードを発動したとでも?!」


「さっきから、主、主って……、だ、誰のことだよ……」


「………あなた、無礼な人ですね。」



男は腰から短刀を抜き出し、クラウスの眼球へとその切っ先を向けた。少しでも揺れれば鋭い刃がクラウスの眼球に突き刺さる程の短い距離にわざと切っ先を置き、男は再度口を開く。



「人間……、眼球の一つや二つ失くしても生きていけます。あまり人を殺すなと主から仰せつかっているので、死なない程度に切り刻むつもりですが、もし度を超してしまったら申し訳ありません。生命に拘った拷問をした経験がないもので。」


「や、やめろ………」


「そう言われましてもねぇ……。では、ユキという女が異世界人で主を強引に幻想世界へと転移させたという見解でよろしいですか?」


「何故、ユキが異世界人だなんて………?」


「おやおや、何故バレていないと思われていたのです? 生体コードすら所持されていない人物ですよ? ちょっと調べらればすぐに分かりそうなものですが。」


「い、異世界に行ったとしたら、どうするつもりなんだ?」


「主を取り戻します。強引にこちらの世界へ引き戻す予定ですが?」


「な、何言ってんだ? 幻想世界には干渉出来ない! 巫女族でもあるまいし。」


「これは滑稽ですね。ならば、巫女族にさせればよろしいではありませんか? もしユキという女が異世界人で、転移の可能性がないのであれば異世界に戻ったと考えるのが自然です。ならば、主もそれに巻き込まれたと見ていいでしょう。だったら簡単です。方法は異世界に干渉する他ありません。」


「異世界に干渉することは禁忌だ。そんな技術もない!!!」


「あなた、本当に頭の緩い方なんですね。技術がないのであれば、禁忌にする必要性もまた皆無です。方法があるからこそ、禁忌とされているんですよ? まさかこんな頭フワフワな男が次期国王候補とはねぇー、民も可哀想なことに。」



本当に異世界に干渉する術が存在しているのかと、クラウスは頭を悩ませる。確かに男の言う通り、手立てが全くないのであれば、わざわざ禁忌法令など引く必要はない。誰もどうしようも出来ないのだから。


だが、もしそれがあるのであれば…………



「ユキも一緒にこの世界に引きずり戻す事は出来ないのか?」


「はい? その女はそもそも向こうの住人でしょう? 引き戻す必要などないと思いますが? あぁ、あなたが強引且つ勝手な判断で女をこちらの世界に戻すことは可能でしょうが………。あなた程のミクロ魔力ではそれも叶わないと思いますが?」


「君なら可能なのか?」


「さぁ、どうでしょう? 多分魔力に不足はないかと。なにより、巫女族を拉致ることから始めないといけませんけどね? あなたに巫女族を拉致れますか?」


「………今セムナターン国に何人か巫女族が訪れている。」


「知ってますよ。メス豚軍団の臭いがプンプンしますからね。」


「なんとかお願いしてやってくれないか頼んでみようと思う。」


「は? もはや救いようのない阿呆のようですね。ま、そう思われるのならば、勝手にそうされてください。」



クラウスが真剣に訴えた案を鼻で笑うと、すぐに男のキューブが光り出す。



「もしもし、ゼンさん? ええ、やはりサツキ様は幻想世界におられるようですね。これから巫女族を拉致り、儀式を開始しようと思うのですが、どうでしょう?」


『アキラ……、ちょ、ちょっと待てって。』


「どうしてです?」


『拉致るとかさぁー、やっぱ良くないと思うわけ。』


「ならば、自らの意思で儀式を行うよう仕向けましょうか?」


『いや、そういうことじゃなくてね。』


「では、どのように?」


『とりあえず空間を繋げよう。ロウに宛があるらしい。幸いなことについこの間サツキの愛刀を手入れしたばかりで、媒体は確保されているし。』


「巫女族なしで本当に可能なのですか? やはり一匹………。」


『おお、分かった。そこまで拉致りたいなら気絶させて一人運んで来い。精力だけ吸い取り術式に変換させる。ただし、気絶でだ。眠るように連れて来い。事が終わったらそっと元の位置に返せよ?』


「御意に。」



男はキューブをポケットにしまうと、クラウスへと視線を投げる。



「貴方に構っている時間はなくなりました。なので、これで失礼させて頂きます。」


「ちょ、ちょっと待ってくれ! 君の主ってサツキのことなのか?」


「本当に低能な王族ですね。行方不明になっているのはユキという女とサツキ様、そして塵屑だけでしょう? ならば、自然と分かるでしょう……。それと主の名を軽々しくバカに呼び捨てして欲しくありませんね。実に不愉快です。再度呼び捨てにしているのを聞いた時は……、容赦なくその命を削ぎ取りますので、そのおつもりで。」



男はクラウスに鋭い眼つきで忠告を告げると、軽い会釈と共にふわりと姿を消す。取り残されたクラウスは、ユキに会いたいという気持ちだけを胸に巫女族であるコロの元へと駆け出して行った。



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ご拝読頂きありがとうございましたm(__)m

これで、『なろう』に追いつきました!!!


もし奇跡的に気に入って頂けたら、お手数かも知れませんが☆や♡などを頂けると嬉しいです!!!


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アキラたん→サツキたんが結構好きなんですよ。

もちろん攻めはアキラたんでw


むしろサツキが総受けでいいんすよ。

ユキたんもなんかサツキに突っ込みそうでしょう?wwwwww


え?

変態だって?!!!


そう、何を恥じることがあるか!!

人間変態は正義ですよ!!!


変態なしでは子孫繁栄など夢のまた夢であります!!


ま、♂×♂ではそもそも繁栄しませんが。

ふっ………

不憫な世の中よ……



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