第9話 謎多き巫女族


「もっしもーし、シルヴィーですよぉ~~」


「どないしたん? まだ朝の4時前やで……」


「ふっふっふっふ!! さぁ~て、ここで問題でっす~~! ワタシは今どこにいるでしょ~~かっ?」


「……そんなん知らんよ……。寝せて。昨日サツキ君情報ストーカーしよって全然眠れてないねん……」


「ブッブッブ~~! 不正解! 答えは……………、なんと巫女族の長コロさんの寝室の前にいっまぁ~す!」


「………別に答えてへんけどね。せやけど……またドエライ大物とこ居ますやん!」


「昨日ねぇ~、やったらきな臭い話を堂々と王室でしてたのよ! 『ワタシ達も人間なのよ! 自由があっていいじゃない!!』とかイザエルを説得でもしたんじゃないかなぁ~」


「自由って……。巫女都市は十分充実した設備と自由を約束されとるやないの。あの都市にさえおったら、一生安泰生活やなのにねぇ~、 しかもアイツらを人間やなんて。ただのバケモノやんか。」


「ひ弱そうな物言いでもしたんじゃなぁ~い? あの化け猫集団」


「まぁ、動向みとってみー。こっちもおもろい事が分かってきたとこやし~。またこっちから連絡するよって、こんな朝からかけてきーひんでなぁ~」


「えええええ~~~、シルヴィーちゃんの大ニュース速報なのにぃぃぃぃ」


「やかましい。」





****


【電霊モード暦ちゃん】


暦は自身の身体を抜け出し、ありとあらゆる物体を媒体とし、光の速度で情報収集にあたっていた。仮死状態が有効なのは、術式を持ってしても2日がタイムリミットとなるため、世界中を飛び回りサツキに指示されたある男の行方をくまなく捜索している最中である。



『んー、いませんねぇ~。けどいい情報GETしましたよ♪ きっとサツキ様も喜んでくださるはず!! ムフフ』



アルラの重術を解くのに絶対不可欠人物だという説明を受けている暦は、休む暇もない程各地での情報収集を徹底する。



『絶対探して元の世界に還ってやるぞぉぉおおおおお』





******

【クラウスの部屋】


ユキの荷物を自室まで運んだクラウスは、鞄を開け中身の確認作業をしていた。もちろん好きな相手の持ち物をチェックしたいという下心もあったが、何よりユキが異世界の人間だという物的証拠を探していたのだ。


もしかすると、ユキは元の世界に戻ってしまっているという事も十分考えられた。サツキに捕らわれ隔離転送されているわけではないのであれば、ユキと共にサツキも同じ世界に行ってしまったのではないかという一つの推測に至っていた。



「ん? なんだろう、コレ……」



ユキの鞄の中から出てきたのは、全く見た事もない建築物や機械が映っている一枚の写真だった。雰囲気はどこかラムトゥと酷似していたが、それともまるで違う世界のように感じた。


ふと写真の裏側を見ると、『東京』という文字が書かれている。



「とう、きょう……?」



クラウスはこの言葉の響きを以前にも耳にしていた。

ユキがこちらの世界に来て間もない頃だ。



『どこからきたの?』というクラウスの問いに、ユキは確かにこう答えた。


____東京。


そうだ、そうだったんだ。

この写真に写っている世界こそがユキの世界なのだと、クラウスは写真の中の光景を食い入るように見つめた。



「ここがユキのいる世界なのか……。綺麗なところだ」



写真を大事そうに指でなぞり、クラウスは物思いに耽っていった。

今はユキが幸せでいるならそれだけでいいのだと、自分に言い聞かせるように………。



*****

【廃墟屋敷前】


サツキの足取りを追い、イツカは最後にサツキが居たとされる屋敷を訪れていた。

調査隊がくまなく探したとは言え、どうも煮え切らない解答の数々に痺れを切らしていたのだ。



「大体さ、『痕跡がまるでないので行方は分かりません。』の一点張りでもう調査打ち切りってどういうこと?! そもそもそこから考えられる予測地点の調査とか、色々してもいいよね? なのに『分からないので』って。私たちの税金適当に使ってんじゃねぇーよって話ですよ!!」



イツカは自身も騎士団という税金暮らしの身でありながら、調査隊を棚に上げ鬱憤うっぷんをまき散らせながら、崩れ落ちている瓦礫を足で蹴り飛ばす。



「大体サツキもサツキだよね! 部屋になぁ~~んもありゃしない! なんか手掛かりでも残してりゃいいのにさぁ~~。あぁ………んもぅ!!」



クラウスは独自にサツキの身辺調査を行っていたにも関わらず、その情報は聞いても一切口を閉ざし、まるで不明の一点張り。そんな状況にそろそろ本当に堪忍袋が緒が破裂危機といった深刻な状況だった。



「ユキは多分サツキと一緒だよね……。本当に知り合いだったのかなぁ………。二人は恋人同士だったとか? いや、ないないないないない。それはない。なら……どうして二人ともまるで連絡寄越さないのよ……」



イツカは不満げに頬を膨らまし、再度瓦礫を思い切り蹴り上げると、その様子を見ていた少女がクスリと笑い声を漏らす。慌てて腰に下げていた刀へと手を伸ばし、振り返るとそこには神聖な巫女装束に身を包んだ少女の姿があった。



「これは、これはお邪魔したようで、申し訳ありません。大層ご立腹なご様子。もしや気がかりな事でもあられるのですか?」



凛とした空気を纏い、近づいてくる少女の姿にイツカの身体は一気に強張り出した。



「コロ様、そんな無防備に近づいては危ないですっ!!」



少女を止めるよう前に出たのは、歳も幼げな一人の子供の姿だった。少女と同じように巫女装束に身を固め、美しく金色の輝きを放つ神楽鈴を鳴らし、柄部分から伸びる五色緒を優雅に靡かせ、イツカへと向き直る。



「なにやつです?! コロ様はそなたのような人間風情がお目にかかれる人物ではないのです! 跪き面を伏せるのです!!!」



神楽鈴の美しい音色をこだまさせ、幼女はコロを守る姿勢を崩すことなく、強気な姿勢のままイツカの前へを足を進めた。



「何をしているのですぅぅぅううう~~!! 伏せです! ふ~~~~せ~~~~」



犬に命令を下している如く、鈴を地面へと向け鳴らし、『伏せ』の態勢を要求する幼女にイツカは空いた口が塞がらない。



「リン、お止めなさい。別に構いやしません。それよりもそこのお嬢さんに聞きたい事があるのです。」


「ですが、コロ様!! 巫女都市を一歩でも外に出たらクソみたいな連中しかいないのですよ? 巫女様の力を利用しようと……うんこみたいな奴らが襲ってくる危険だってあるのです!!」


「リン、はしたないですよ。そのような言葉を使っては………」


「申し訳ありません。コロ様。ですが、本当に危ないとリンは申しているのです!!」



今、巫女都市って言った?

イツカは今目の前にいる人物たちが高貴な巫女族なのだと、この時初めて知った。だが、何故巫女族がセムナターンなどにいるのだと、疑問が疑問を呼ぶ前にコロが思考を遮るように言葉を放つ。



「そちらの方、もしやここで行方不明になられた方々のお知り合いでなのですか?」


「え? あ、はい。」


「どなたのお知り合いで?」


「サツキとユキですが………。」


「ほぉー、サツキ様の………。」



『サツキ様』?

巫女族がどうでもいい一兵士を知っているはずなどない。

イツカはコロが呼んだ名にひどく違和感を覚えた。



「ところで、ユキという少女はどのような女性なのですか?」


「……あなた、巫女族なんですよね? どうしてサツキをご存じなのですか?」


「資料で拝見しただけですわよ? それよりもわたくしの質問にもお答え頂けると嬉しいのだけれど?」


「ユキの事はよく知らないわ。可愛い女の子よ。でもそれしか知らない。」


「どこの国からお出でになられたとか聞いておられませんか?」


「知らないわ。私の言葉は嘘偽りないわ。でも、あなたは違うよね? サツキを資料で見ただけなんて解答は嘘……でしょ?」


「あら、どうしてそう思われるのです?」


「大して知りもしない相手を『様』付けでなんか呼ばないもの。」


「これは困りましたね。あなたの常識で話を進められてもねぇ~。私たちは由緒正しい巫女族ですのよ。殿方は『様』付きで呼ぶのは当然の事ですわ。」



嫌味な笑顔を浮かべ、はっきりとそう告げたコロは辺りの空気を確認するように手を伸ばし、掌を天へと押し上げた。その様子を間近で見ながら、イツカはどこか納得のいかない表情を浮かべている。


この少女は絶対サツキの事を知っている。

そう全身が力強く訴えてきている。

こいつは『嘘』をついていると………。



「リン、ここの精気は歪んでいますわね。やはり呑み込まれたみたいですね。」


「承知致しました。では、どのようになさいますです?」


「そうですねぇ~、いっそこのままでもよろしいのではなくて?」


「ですが、イサンのヤローが一緒に向こうに行かれてますよ?」


「あぁ~~、そちらならおそらく朱鴉シュアが抹殺しているでしょう。」


「コロ様はどうして敵を信用されるのです? あいつはただの暗殺者アサシンじゃないですか!!」


「うふっ、いいえ、彼は復讐者リベンジャーですわよ。」



コロは恍惚な笑みを浮かべ、袴の裾を揺らし踵を返してから、ゆっくりとその場を立ち去っていった。イツカはそれをただ黙って見送った。



「なぁーにが、『復讐者ですわよ。』じゃぁ~~い。サツキは復讐者じゃないよ。クソ巫女族さん。彼は報復者アベンジャーだよ。ばぁ~~~か! 清楚にスカしてんじゃないよ~~だっ」



もはや当たり前のように盗聴し観察しているシルヴィーは、歩き去っていく楚々たる後姿を見つめながら、唾を吐き捨てた。


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ご拝読頂きありがとうございますm(__)m

いつも読んでくださっている方、初めて読んで下さった方、こんな拙い文章の物語ですが、皆様のお暇を少しでも紛らわせる事が出来ていれば幸いです。


もし奇跡的に気に入って頂けたなのらば、尚嬉しいです。

またお手数かもしれませんが、☆や♡など貰えると凄く嬉しいです!!


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最近リアルが多忙でなかなか執筆する時間がなく、妄想が消えては新たに甦りを繰り返しております。


そして、なんと我が家に仔犬様が誕生致しまして日々興奮しているこの頃です。

ですが、母親犬が育児放棄ヴィッチっ子なので、代わりに自分が排泄やミルクあげなど行っているため、更に更新が遅くなりそうです。


命の方が大事だああああああああああああああああああ

ってことです、はい。


2、3時間おきにミルクなどの世話をしてチェックしないと生まれて2週間くらいは危ないので、もう寝不足日が続いておりまして……。


前回もこのヴィッチっ子は仔犬の世話を放棄しまして、もうお世話も手慣れたもんになってきました。


ということですので、奇跡的に楽しみにしてくださっている方、更新遅めになりますが、きちんとしますので見放さないでくださいねえええええええええええええええ




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