第7話 ユキの宝物


「のぅ、サツキよ。わてはこの世界に転移させられてから、30年の月日が過ぎておる。コロの噂……いや、巫女族についての現状なぞ知っておるかえ?」



アルラとサツキは暦に頼まれた食材の調達をしに、近所のスーパーを訪れていた。見た事もない食材を手に取り興味深そうに観察するサツキに唐突に投げかけられた質問に、一瞬間を置いてから答えた。



「巫女族ねぇ……。あんまりいい噂は耳にしたない。あとは囚われの一族が籠から抜け出し、変革を望んでいる、とか?」


「コロはの……騙されておるんじゃよ。おそらく未だに。」



自身を幽閉目的で転移させたコロを庇うように呟くアルラ。

おそらく何かそれらしい理由が存在しているのは確かなのだろうが、サツキにはそれが余りにもくだらなく見えた。



「そいつは噴飯物ふんぱんものだったな。世の中騙されるヤツも悪いって相場が決まってるもんだ。どんな事情があるにせよ……ね。あんたがそのコロってヤツをどう思っているか知らないけど、神聖だと謳われているそいつの両手はもはや血で汚れ切っている。洗って落ちるレベルのもんではない。」



サツキにとってそれは紛れもない事実でしかなかった。

どんなに重要な事情があったとしても、アルラが心配するコロという女性はサツキの故郷を破滅へと導いた一人であることに変わりはなかったのだ。それが世界を救うなどという大層な名目であっても同じ。



「コロはファルスと何やら盟約を結んでおったんじゃが、おそらくそこでコロが変わってしまう何かが起こったはずなんじゃ。向こうの世界へ戻ったら調べてはくれぬか……?」



アルラにとって、コロは怨みの対象ではなく暦と同じ妹のような存在であると付け加えて説明をすると、サツキは一瞬だけ殺気をアルラに向けてから瞳を血色に染めた。


まるで「何故俺がそんな事を?」と強く問いかけるような視線に、アルラは一つの予想へと辿り着いた。サツキにとってコロはどんな事情を基にしても助ける価値がないと判断しているのだと。そこにはおそらくサツキの大切なモノが存在し、それを血に染め変えたのではないかと。


アルラは感じた事のない狂気の渦が混在するサツキの瞳を見つめ、「助けてほしい」と願う気持ちを押し殺した。それはあまりにも残酷で非道な言葉だと感じたからだ。



「サツキや、ではぬしにこう願おう。巫女族を解体して欲しいと。もはや巫女族は昔の尊い種族ではなくなっておる。与えられた権限を活用し、人々の幸せを豊かにするどことか、壊しておる。そんな族は世界には不必要じゃ。」


「なら、あんたもそれを見届ける義務があると思うが?」


「わては、戻ることは出来ぬよ。拘束術が重ねてある。」


「その重術、……俺が解いてやろうか?」


「……これは禁忌術じゃ。解くには大量の陣を描く必要がある。主、死ぬぞ?」



アルラはそれを証明するかのように、自身の羽織っている巫女服の紐を解き、ゆっくりと両肩を見せるようにズラすと、そこには黒い痣のような魔導陣が身体中を走り巡っている事が見て取れた。


サツキはアルラの肌に手を伸ばすと、模様を確認するかのように指を滑らせ降ろしていく。アルラは久しぶりに感じる熱に一瞬身体をピクリと動かし、甘い息を吐く。



「厳重に重ね掛けしてあるな……。4ℓってとこか。」



背中が丸見えになるほどアルラの服をずり降ろし、食い入るように見つめ指を這わせていると………。



「なななな、なにしてるんですかぁああああああ?! こ、ここを……どこだと思っているんです!!? スーパーなんですけどぉおおおお!!」



慌てて走り寄ってくるユキの姿が見えた。サツキはその言葉に周りを確認すると、稀有な瞳を向けられている事実に気づき首を傾げた。



「こ、こんな所で何破廉恥かましてるんですか!! その手はなんなんですかぁぁああああ」



店内に響き渡る甲高い声が指差す方向には、露わになった柔肌の上をゆっくりと味わうように滑り落ちていくサツキの指先が映る。



「なにって、確認してるんだけど………」


「なんの確認してるんですか!! アルラさんの肌の感触をですか? こ、これから舐め回すための予行練習なアレですか?!!」


「ユキ……なんや誤解しとるようじゃが……」


「こ、こんなところでそんな厭らしい事をぉおおおおおお。羨ま……じゃなかった……、ちょっとは周りの目を気にしてください!」


「わては周りの目など気にした事ないがのぅ」


「俺もないな。」


「なっ!!!!!! この変態達ぃぃぃぃいいいい」



癇癪でも起こしたように喚き散らすユキに買い物客が集まってくる中、気にも止めず騒ぎ続けるユキを見てサツキはそっと呟く。



「俺らが変態なら、あんたも相当な変態だと思うけどね……」


「えっ」



その言葉に何故か顔を赤らめるユキにアルラは呵々大笑かかたいしょう



「ユキや、サツキは何も主に性的な意味で言うとるんやないぞ? ま、もしそうじゃとしても何故喜ぶんじゃ? 罵られたい女子かえ?」


「ち、違いますよ!! べ、別に興奮したとかじゃないですからねっ!」


「ぷっ。興奮したんかえ。ユキはほんに面白いのぅ」



ケラケラと笑い声をあげるアルラの後ろでは、サツキに向かい「違いますから」と必死に訴えるユキの姿。ロロが皆を迎えに行くよう指示を受け、店内入口に足を踏み入れた途端目に飛び込んできた光景だ。



「なにしてるお……」




****


【セムナターン国】


クラウスはユキとサツキの関係の詳細を把握するために、ユキが使っていた部屋を訪れていた。何か二人の関係を結びつけるモノがあるのではないかと部屋を探る。


ふとベッドの下に目をやると、何やら鍵が付けられている箱を見つける。大事そうにしかも隠してある箱だったことから、二人の手掛かりが分かるモノが入っているかもしれないと思い、箱を抱え急ぎ部屋を出た。


向かった先はもちろん鍵屋だ。



「これ開けられるだろうか?」



クラウスは鍵屋の店主にそう尋ねると、クルクルと箱を回し確認していた店主が「簡単だ」と鼻で笑うように答えてから、ものの5秒で宣言通りあっという間に鍵が外れた。



「こんな簡単な鍵に皇子が重要とするモノが隠されているとは思えませんけどねぇ~」



ユキの物だと知らない店主は、クラウスの慌てぶりからよほど価値のある物が入っているとばかり踏んでいたため、どこか拍子抜けといった様子だった。


そんな店主の態度など気にも止めていなかったクラウスは急いで箱の中を確認しようと中を開くと……。



「なんだ……コレは……」



直径30㎝程の箱の中から飛び出してきたのは、ユキが最も大事とするあのコレクションの一部。



「皇子、それ誰です?」



覗き込む店主が尋ねるがクラウスは聞こえていないのか、大きな溜息を漏らしてから少しずつ中身を取り出していく。


「おおお、お着替えシーンじゃないですか!! いやぁー、何やら色っぽい少年ですなぁ~」


(ユキ………。)



そう中身は『サツキコレクション』だったのだ。

錬金術師の元に足蹴に通っていたユキはスマホで撮影した画像を紙へと現像させていた。いつこんなモノを撮ったのかというほど、様々なサツキの姿が丁寧に一枚一枚ビニールに大事そうに包まれ保管されていた。



「お、皇子、コレはスプーンですか?」



ジップロックの中には、使用されたスプーンやフォーク、箸など様々な使用済みコレクションが並び、箱にきっちりと整頓され積み上げられていた。


クラウスは徐々にそれを外へと出して行くと、箱の底には何やら見た事もない小さな板状の薄いプラチックらしき何かが入っていた。



「なんですか、その黒いの。キューブのメモリチップに似てますが、なんか少し違いますね……」


「確かに。言われてみれば似ている気がする……。」


「機錬師に見せられば分かるかもしれませんね。」



クラウスは店主の言う通り、ユキの宝箱を抱え、その足で機錬師の元へと走り店へと駆けこむとすぐに分析をお願いした。


10分後分析結果と共に、一つのキューブを手渡され、スイッチを押してみると聞き覚えのある声が耳へと届く。



『好きだけど。』


『___好きだと思うけど。』



「少し編集されているようですが、おそらく誰かの声などを記録しておく装置のようですね。」


「………ありがとう。」



クラウスは肩をがっくりと落とし、帰路についた。



(____サツキとユキはそもそも両想いだったのか。)



サツキははっきりとした口調で『好き』だと告げていた。

それをユキは大切に保管している。

まるで二人の愛の証だと言わんばかりに………。


クラウスは締め付けられる胸を押さえ、自分のした行動を恥じた。

サツキは危険だと思いユキから遠ざけていたが、二人は自分の知らないところでとっくに愛を育んでおり、それをただ無駄に邪魔していただけったのだと、頭を抱える。


素っ気ない様子に見えたサツキだったが、ユキにはちゃんと愛を言葉で伝えていた………

だが、自分は勝ち目などないと踏み、気持ちすら伝える勇気が持てなかった。

結果、ただ逃げただけだ。


だってそうだろう?

好きだとユキに伝えたところで答えなど分かっていた。

だが、もし自分の気持ちをサツキより先に伝えられていたら何か変わっていたのだろうか。


そんなどうしようもない事を考えながら、クラウスは自室の扉を開いた。中へ入りベッドへと腰を下ろすと、ユキが大切に保管していたサツキコレクションに目を向ける。



(やっぱり、オレじゃダメだったのかな。)



____コンコン。



「クラウス様、イザエル王がお呼びです。王室までお願い致します。」



薄っすらと滲んだ涙を勢いよくふき取り、クラウスは王室へと急ぎ足で向かった。



「父上、クラウスです。」


「入れ。」



警備隊が扉を開け、中へと入るとそこには真っ白い巫女服に身を包んだ一人の少女の姿があった。



「どうも、ごきげんよう、クラウス様」



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ご拝読頂き、またお目に止めて下さりありがとうございますm(__)m

もし、奇跡的に気に入って頂けたならば、☆や♡など下さるとすっごく嬉しいです!


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すいません、FF14に夢中で投稿をすっかり忘れておりました。

投稿ボタンを押すだけにしといたはずなのに………


くっ。

アップデートのやつめ………。





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