第5話 タフな異世界人と悩めるクラウス

【セムナターン国】


「クラウス様、やはりユキ様の消息は廃墟屋敷から忽然と掴めないようです。そもそもユキ様には生体コードが登録されていませんので、どう探したらいいものか………」



ユキの消息が掴めぬまま2日目の夜が訪れようとしていた。

クラウスは必死にユキを探したが、見つかったのはラジータカジノ団二人の死体のみで、ユキの足取りすら掴めずにいた。



「足跡から見る限り、あと3人はいたと思われるのですが………全員その場から突如消えてしまったかのようになんの痕跡も見つかりませんでした。」



調査団の口調から察するに、移動コードでも発動し、別の場所へと向かったのではないかという見方が強いようだが、クラウスはどこか納得がいかなかった。


一人はラジータカジノ団のイサンという男なのは間違いない。そしてユキ、ではあと一人は一体誰だというのだ。


考え込んでいたクラウスの部屋に、慌てた様子でイツカがノックもせず駆け込んで来た。



「クラウス様、ユキちゃんを探しているって本当ですか?!」


「ああ、そうだけど……何故それを知っているんだ?」



イツカは呼吸を整え、大きく深呼吸をしてから再度口を開いた。



「サツキもいないんです! シルヴィーに聞いたら一緒にどっか行っちゃったとか言うんですよ!!」


「サツキ……?! あの男とユキが一緒だと言うのか?!」



クラウスの顔色がみるみると青ざめていく。

まさかユキは事件に巻き込まれているのではないか、サツキに乱暴をされているのではないかと、心配が走馬灯のように頭を駆け回り、意識が遠のきそうな程の胸騒ぎに苛まれていく。



「イツカさん、すまないけど内密にシルヴィーさんを連れて来てはくれませんか?」



切迫した様子を見せるクラウスに慌ててイツカは同意し、そのまま部屋を駆け出して行った。クラウスは頭を抱え、深く息を吐いてから調査団にサツキという男について調べてくれと命を下した。



*****


「それで?どないしはったんです?」



シルヴィーはある男と密会を重ねていた。

興味半分でユキの後をサツキに追わせたはずだったのだが、予想以上に面白いネタが手に入ったと大はしゃぎして見せているシルヴィーに男が迫る。



「せやから、どないしはったん?」


「ワタシ見ちゃったんだよねぇ~~。【幻想空間転移現象】!!!!」



シルヴィーは男に自身のキューブで撮った映像を見せると、男も興味深そうに頷き薄っすらと笑みを浮かべ始める。



「ほぉ~、これはまたえらいおもろい映像やねぇ~」


「でしょ、でしょ?! 見て、この子のポケットが光出した途端、丸い転移空間が突如出現して、サツキ達を呑み込んでしまったぁ~~~。って感じでしょ? これって絶対幻想空間転移だよね?」


「せやね、【転移コード】を発動してるようには見えへんね。」



食い入るようにキューブを見つめる二人は、幾度も映像を繰り返し再生する。



「やっぱ何度見てもコードの展開なんかしてないよねぇ~? ってことは自然現象ってことだよね?」


「それはちょっとばっかし早計かもしらんけど。転移コードは100%展開していないのは事実のようやね。」


「なら、幻想空間転移現象しかない!!」


「シルたん、それは早計やって。あの現象は相当不確かなモンやで?そもそも本当に自然的に発動してんのか、はたまた………誰かが意図的に行っとる現象なのか、不明要素が多すぎて判断できひん。」



シルヴィーは、わざとらしく男の肩へと手を置き、耳元で囁く。



「だ・け・ど、この女の子、この世界の住人ではないよ?」


「この子、クラウスたんが連れてた女の子やない?」


「そう! クラウス様のLOVEなひ・と♡」


「やっぱそうやんなぁ~! で、この子がこの世界の住人やないってどゆこと?」


「なんか妙な子でさぁ~、気になって色々調べてみたの! けど今まで生きてきた記録どころか生体コードすら所持してないんだなぁ~、コレが! 明らかにこの世界の人間じゃないよ?」



腰に手を置き、自信に満ち溢れた表情で告げるシルヴィーに男は呆れ、両手をヒラヒラと上げ揺らして見せた。



「はいはい~、せやけどサツキたん達が一緒に巻き込まれたのは……なんでやろ? これからおもろい事になりそうやったんやけどなぁ~……」


「確かに、今までの幻想空間転移現象は必ず一人だけだったよね?」


「そう記憶してんねんけどなぁ~、今回は3人同時に呑み込みよったんやろ?」


「結構遠くにいたこの老人も一緒にパァ~~~~~って消えた!」


「しかもこの子、クラウスたんの彼女やのに、サツキたんに自ら抱き着いとるやん。コレ浮気現場やろ?! しかもここ!! ちょ、アップしてぇ~」



シルヴィーは男が促すままキューブの再生を一時停止し、少女の顔にピントを合わせズームさせる。



「ほら、見てみ! コレは愛しい人を見る顔やで! あぁ~~、クラウスたんこの映像見おったら、どんな顔しはるんやろなぁ~~~、あぁああああ、見せたい!」


「この子、多分サツキを知ってた。ずっとこんな目でサツキを見てたからねぇ~。けど、サツキはこの子の事一切知らなかったよ? 興味の欠片も感じられなかった。な、の、に、彼女の方はベタ惚れ状態。なにこの違和感って感じしなぁ~い?」


「シルたん、さっきこの子、異世界人言うてなかった? だとしたら接点なんかあった方が妙なん違う?」


「でも、絶対なんか合ったはず。彼女だけがサツキを知り得た何かが………」


「シルたんも、サツキたん好っきやねぇ~」


「なっ!! ワタシが興味あるのはサツキの異常な力と、ロロちゃんの本性だよ~」


「ハイハイ、そないな事にしときますわぁ」



*****


【現実世界】


「だめお~~~~、全く発動出来ないお~~~~~」



3時間も挑戦し続けたせいで、もはや体力の限界を迎えた一行に暦が鍋を用意していた。



「はいはい~、夕食出来ましたよぉー」



一体何がいけなかったのか、ロロとアルラが口論している中、サツキは開始10分で参加するのを辞め、テレビゲームというこちらの世界特有のハイテク機器に夢中になっていた。



「サツキ様?! そのような異世界色に染められてはいけませんよ!!」



暦が慌ててコントローラーを奪いとろうとすると、サツキはそれをヒラリと交わし、暦をリアルで避けながら、ゲームの中ではゾンビと格闘しているという器用な一面を披露してみせた。



「サツキ、右からくるぞ!!!」


「りょ。」



すっかりゲームで打ち解けたのか、龍とサツキはゲーム上で見事なコンビネーションを発動し、敵を撃破していく。



「サツキ様ぁあああ、テレビゲームは人を怠惰の道へと導く最終兵器なんですよぉーーー」


「暦、放おっておけ。無駄じゃ。ゲームは麻薬じゃて。一度ハマると早々抜け出す事は適わんじゃろ」


「ですが………。サツキ様ならわざわざゲームであのような気持ち悪い俗物を倒さなくても、リアルでいくらでも切り刻めるのに………」


「………暦や。サラリと怖い事を口にしよるのぅ~」



現実世界に馴染み切っている異世界人を、ユキと恵美はただ茫然と立ち尽くし見つめる他なかった。

そもそもユキの自宅であるにも関わらず、平気で料理をし始める暦に、まるで自分の住処であるよう寛ぐアルラとロロの姿に異世界人の適応能力の凄さをまじまじと見せつけられているようだった。



「ユキ、異世界人ってタフな人たちなんだね……」


「恵美! あのコントローラーってジップロックに保管したがいいかな? 流石にコントローラーは冷凍保存できないよね?!」


「はい?!」



だが、そう思っていたのはどうやら恵美だけだったようだ。

ユキが気にし見つめていたのは、サツキが持つコントローラーただ一つ。



「あんた……さっきから私と一緒にこの状況に圧倒されて突っ立ってたんじゃないの……?」


「え? いや、あのコントローラーの保管方法をずっと考えてたよ?」


「コントローラーって……アレ龍のでしょう? ゲーム話したらサツキさんが興味持ったから、あんたが取りに行かせたんでしょうが……。もう忘れたの? あのコントローラーはあんたのじゃないからね?」


「買おうと思う。」


「はい?!!!!」



何がなんでもサツキのコントローラーが欲しいユキは、龍にそれなりの金額を支払い適当にぶんどる作戦らしい。



「前々から思ってたんだけどね、あの人はユキには向かないと思うし、ユキに興味すらないように見える。 何があったか分からないけど、あの人は個人的には辞めておいたがいいと思………」



ユキはそれを拒むように首を横に振ると、上から更に科白を重ねて恵美の言葉を打つ消す。



「恵美! 私が勝手に想ってるだけで、何か見返りを求めているわけじゃないの。そりゃ、願わくば彼も私の事を………、なんて思ったりもするけど、そうじゃなくて、ただ傍にいられるだけでいいの。彼の人生の一部だけでも隣にいて、共に歩んでみたいだけ。……ただそれだけ。」



恋愛に奥手どころか興味も示さなかったユキだが、どうやら彼への想いの深さだけは本心のようだと、恵美は感じた。ユキは端正な容姿をしているため、見かけに興味を持ち告白してくる男子もいたが、本人はまだ「恋」とか「愛」など幻想だと喚いていた。


そのユキの口から、無償の愛の科白が聞ける日が来た事を喜ばしく思う一方で、どうしてここまで愛の表現方法を狂った方に持っていけるのかと、ほとほと呆れてもいた。



「ユキ、彼の使用したモノ………本当に保管してるの?」



恵美は恐る恐る疑問を口にすると、ユキはニッコリと満面の笑みを浮かべ「当然だよ」と答えた。それだけならまだしも、今まで彼が触ったと思われるモノのコレクションまでも平気で見せてくる始末に、大きな溜息を漏らさずにはいられなかった。



「ユキ、その変態気質を改善しないと、サツキさんに嫌われるだけだと思う……」


「え?! 私、変態だったの?!」


「むしろ、こっちが『え』状態だよ、それ……」



それぞれの胸の内を抱え、現実世界を堪能する異世界人達は果たして……いつ帰還出来るのだろうか……。



「だーかーらー、皆さん、ご飯ですってばぁああああああ」




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最後までご拝読頂き、ありがとうございますm(__)m

奇跡的に気に入って頂けたら☆やコメントなど、お手数ですが頂けると大変嬉しく思います!


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更新が遅くなり、申し訳ありません。

地元に帰らねばならぬ用事がありまして。


ただあまりの忙しさにラーメンを食い損ねてしまったことが、心残りです……


こっちだとラーメン美味しいのがなくて………。



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