第3話 思惑と真相


【ローレン国】


ゼンはサツキと別れ、ローレン国を訪れていた。ある男に会いに来たのだが、既に去った後だと聞き首を垂れていると、突如キューブが光り出す。


その男は滅多に連絡がつかず、探しても行方不明状態な事が多く、なかなか捕まえることが出来ずにいたのだが、ラッキーだったなとキューブを展開した。



「もっしもーし~♪」


『ゼンさん、申し訳ございません。ご連絡頂いたことに気づかず………』


「いいよ、いつものことだし。それより珍しいね、レスポンスしてくるなんて。」


『サツキ様の生体反応に異常事態が発生しましたので………』


「ん?どゆこと?」



ゼンは男の言っている意味をよく理解出来ていなかった。

生体反応に異常というのは、死んでしまったと言っているに等しい言葉だったからだ。



『言葉の通りです。生体的反応が消失しました。』


「んなバカな!! アイツが死んだってこと?」


『それが妙なのです。戦闘状態であったのは確かなのですが、サツキ様のステータスになんら異常は見当たりませんでした。』


「つまり?」


『突如消失した。ということになります。私もすぐに高速移動コードで見に行きましたが、死体以外その場には何も存在していませんでした。』


「その場にいた全員の生体反応が消えたってこと?」


『おそらく。私はサツキ様しか見ていませんでしたし、他にも興味なかったので分かりませんが、おそらくはその可能性が高いと見ています。現に、ラジータ連中の一人が消息不明になっています。』


「相変わらずの主ヲタクなのは理解したが、そいつはサツキと一緒に消えたってことだよね?」


『そのように認識しております。サツキ様が連れ去られる可能性は限りなく0に等しいですが、全く0というわけではありませんので……。』



ゼンは言葉に詰まっていた。

サツキにも予期出来ぬ何かがその場で起こったという事に、違いないのは明白だったが、突如生体反応が消失などあり得るはずがないと、頭を悩ます。



『ゼンさん、もしかすると異空間に行かれたのではないでしょうか?』


「異次元ってこと?」


『異次元を住処にする精霊もいると聞きます。もしかするとそちらに行かれたのかもしれません。』


「もし、故意的に引きずり込まれたのだとしたら、結構やばいね。」


『ええ、サツキ様でも自主的にこちらに戻っては来れないでしょう。なので、巫女族を一匹拉致って拷問してはいかがでしょうか?』


「えげつない事サラっと言うよねぇ~、アキラちゃんは……。」


『ではセムナターン国に行き、サツキ様と一緒に消えたとされる「ユキ」という少女について調べてみてはいかがでしょう?』


「ユキ?」


『ええ、コード記録がまるでない得体のしれない女です。』


「じゃ、そっちはアキラちゃんに任せるわ。」


『御意に。』



コンタクトが終わったキューブを宙へと投げながら、ゼンはアキラの行動パターンを推察し、自分もセムナターン国へ戻ったが懸命と考え、踵を返す。


アキラは、強力な聖力を宿している精霊の一人だ。

精霊としてその名を馳せてはいるが、それと同時に残酷暴虐な振る舞いが多く、忌み嫌われていたと聞く。


精霊はそもそも誰かに求められ、その効力を発揮する種族だが、疎まれ続けていたアキラを求めてくれる存在などおらず、ずっと孤独に生きてきた。


だが、それでも一国を砂に変えてしまえる程の力を有していたアキラを、人間が放置出来るはずもなく、騙した挙句に封印し、監禁した。


牢獄の中で100年以上も囚われ続け、無意味に力だけを貪り取られていたアキラにとって、そこから救い出し使役してくれたサツキは神のように見えていたのかもしれない。


サツキにとっては、ただの暇潰し程度の出来事だったのだろう。

だがアキラにとって、それは確かな救いだった。


ゼンはそう理解していたが、アキラのサツキに対する執着心の異常さには、ほとほと呆れていた。

生体反応が絶たれた今、アキラが何をヤラかすのか気が知れたものではない。



「はぁ~、主ヲタクの面倒はつれぇ~~~~」



****

【現実世界】


包丁のリズミカルな音と共に、思わずお腹が鳴りそうな芳しく優しい香りに誘われるようにユキは目を覚ます。鼻に詰められたティッシュを恥ずかしげに抜き取ってから、キッチンへと目をやると、そこには料理をするサツキの姿と、つまみ食いに夢中なロロの姿があった。


だが、よくよく見てみると、コンロに火はついておらず、どこから漂ってくるのだろうと香りの先を鼻で追うと、シンクの上に直接鍋を置き、指を鳴らし直で調理をしている事実に気づく。



(うわぁー、ガス代いらずだ………)



日本の朝の食卓というよりかは、どこか海外の朝食を思わせる料理に思わず舌鼓したつづみする。



「ロロ、食うなって………。」


「んまんまお~~~」



仲良さげな様子に笑みを零しながら、キッチンへと向かうと、大きな時計が8時を知らせる。



「ち、ちちちち遅刻だああああああああああああ」



突如家中に響き渡る叫び声に、思わずサツキは箸を床へと落とす。



「………今度はなに?」


「ちが、ち、遅刻しそうなんです! 私すっかり異世界生活しちゃってたから、時間の感覚を忘れてました。学校に行かなきゃ!」


「学校ってなんだお?」



説明している時間さえ惜しいユキは、激しく音を立てながら二階へと駆けあがり、数秒で制服に着替えると転げ落ちるように階段を駆け下りてきた。



「す、すいません。学校に行ってきます。あ、絶対家にいてくださいね。お願いします。あああああ、忘れていた。」



慌ただしく叫びながら、サツキの作った朝食を勿体ないとパックに丁寧に詰めて、一気に玄関から飛び出し、勢いよく去って行った。



「あんなに慌ててたのに、朝ごはんは超ゆっくり詰めて行ったお。」


「…………つか、全部詰めたのか。」


「あああああああああ~~~~~!! ボクのご飯は~~~~?」


「…………どっかで食うか。」


「お金ないお?」


「調達する。」


「お~~~!!」



****


勢いよく教室の扉を開けると、懐かしい景色がユキの目に飛び込んできた。見慣れた机や、朝の気怠い友人達の会話、少し湿った空気さえも、どこか懐古かいこ的に感じた。



「ユキ!!! あんた連絡もせずに何してたの?!」



心配そうに駆け寄ってくる恵美に何から話そうかと言葉を詰まらせると、一先ず無事で何よりと激しく抱き着かれる。



「2週間も行方が分からないとか、洒落になってないからね!!」



2週間?!

ユキは向こうの世界へ少なくとも1ヶ月は滞在していたはずなのにと、首を傾げる。



「1ヶ月じゃなくて?」


「あんたどうしちゃったの? もしかして日にちも計算出来ないほど寝込んでたとか?!」



黒板に書き記されている日にちを確認すると、確かに恵美の言う通り、自分が消えた日からちょうど2週間が経過していた。



(どういうこと?)



ユキは恵美の手を引き、そのまま教室を駆け出して行き、近くにある視聴覚室へと入ると扉にしっかりと鍵をかけて、恵美へと異世界体験の話をする。


1時限目のチャイムも気にせず、夢中で自分が体験したことを話していると、突に後ろから声をかけられた。



「お前それ本気で言ってんの?」



そこにいたのは、同じクラスで小学校から馴染みのあるリュウだった。ユキの話を聞いていたのか、会話に割り込むように身を乗り出し、ケラケラと調子よく笑いを飛ばしていた。



「聞いてたの?!」


「盗み聞きは良くないわよ?」



二人の言葉を無視し、リュウはユキの異世界話の続きを要求し、まるで妄想話を聞いているかのようにオチを期待していた。



「それで? その男は今現実世界にいて、私の傍にいるの~ってか?」


「現にいるの!!」


「なら、連れてきてみろよ! その見目麗しい美少年様とやらを!」



挑発するようにユキを侮蔑ぶべつし、執拗に問い詰める。



「いねぇーんだろ? いい加減さ、夢見てないで現実見ろって。な?」


「ちょっと、リュウやめなさいよ。」


「お前だって信じてねぇーだろよ。こんな話。」



恵美は返答にきゅうするが、ユキが自分に向かってただの妄想話をしているとも思えなかった。ユキが切実に訴えてきているのを見ると、それで片付けてしまうには早計に思えたのだ。



「ユキ、その男の人には会えるの?」


「家にいると思う。」


「なら話は早いじゃない。一度会ってみましょう。その人に。」



ユキの話を完全に信じていたわけではないが、もしかするとユキを騙し利用している人間なのかもしれないと疑いを持った恵美は、自分の目でその男を見て判断しようと心に決める。



「なら、俺もいくわ。」



かくして、2人は放課後ユキの家にいる異世界人とやらを見に行く事となる。




*****

その頃サツキとロロは、近くを徘徊していた見るからにガラの悪そうな輩を見つけては、強奪を繰り返していたため、所持金は12万円まで跳ね上がり、満腹になった腹を抱え、近くの潰れたボーリング場で食休みをしていた。



「この一万って数字の紙、この世界じゃ高いお金なんだねぇ~知らなかったお~」


「みたいだな。」


「こんなに奪わなくても食べれたなんて、ガッカリお。」



穏やかな時間を過ごしていると、激しい金属音を鳴らしながら、数人の人影がサツキ達の方へ向かい歩いて来る事に気づく。



「さっさと歩けよ、とろい女だなー」



数人の男はまだ幼さ残る少女の手を乱暴に引きずり、ケタケタと笑い声をあげる。その様子を興味なさげに一瞬だけ確認すると、サツキは大きな欠伸をし、そのまま椅子へと身体を倒した。



「サツキ、助けないお?」



ボソボソと耳元で呟くロロに「寝る」と完結に述べると、ゆっくりと瞼を閉じ、規則的な寝息を立て始める。



「はやっ!! 寝るの早いお~~。サツキ、助けないと乱暴されちゃうお!!」



もはやロロの囁きなど聞こえなくなったサツキの背中に、思いっきり小さい体で蹴りをかましてから、ロロは心配そうに少女に目を向けた。



「人質らしく、服脱がせとくか?」


「強姦いいねぇ~~滾るねぇ~~」



男達は愉快そうに少女の服を破り捨て、露わになった柔肌に指を這わせると、その滑らかな感触に狂喜する。迫りくる生々しい感覚に少女は必死に喚き叫び助けを請うが、その声は廃墟にこだまし、消えていった。



「いいねぇ~~~、妹のこんな姿見たら流石に許してって、あの女は言うだろうなぁ~」


「ちげぇーねぇーわ、これで100万とかちょろいな。」


「ああ、爺さんに感謝だな!!」



少女の叫びを打ち消すように、男達の笑い声が辺りへと響き渡る。

流石にサツキの耳にも届いたのだろうか、指先をピクリと動かしてから、糸で釣られたかのように、ゆっくりと身体を起こしてから首を鳴らす。



「サツキ? 助けに行ってくれるお?」



ロロの言葉を無視し、サツキは赤く染まった瞳を男達へと向けると、静かな足取りで歩み出す。一人の男をその瞳で捉えると、後頭部を掴み取り、すぐ横側の壁へと額を激しく押し付け、そのまま足を進める。


男の額は荒い壁で擦られたことで、肉が擦り減っていき、サツキの歩き去った横壁には、生暖かい血液と小さな肉片で引かれた一本の線が出来上がっていた。



「うわぁぁぁぁぁぁああああ、やめてくれぇえええええ」



仲間の傷ましい姿に気づいた男達は、持っていた鉄バッドを咄嗟に構え、震える手でサツキへと向ける。



「クス、さぁ、遊ぼうか………?」



明らかに常軌を逸しているサツキの瞳には、もはや狂気というよりも強い殺気の渦が押し込められているように見えた。


男達は、サツキの左手にまだいる男を置いて、そのまま半狂乱になりながら蜘蛛の子を散らすように逃げ去って行った。


サツキは逃奔とうほんした男達を追う事はせず、皮膚が捲り上がり前頭骨が見え隠れする男を乱雑に投げ捨ててから、少女へと視線を移す。そのまま首を掴み上げると、サツキの腕に一本の短刀が突き刺さった。



「その薄汚い手を離せ。聞こえぬのかのう? 世は手を離せと言ったんじゃが?」



その言葉を聞くなり、ロロは勢いよく飛び出し両手を広げて見せる。



「誤解だお!!」



サツキは目の前の女性を視界に収めると、愉快そうに口元を緩め舌なめずりをし、刀を抜いてみせた。



「え、サツキ? ちょ、何するお! ダメお!! そっちのお姉さんもやめてお!!」



止めに入った女性の瞳は、怒りの色で満ち溢れており、今にも切ってかかりそうな雰囲気を醸し出していた。



「ちょ、お姉さん!! 違うお!! サツキが乱暴したわけじゃないお!!」


「黙れ、強姦魔風情が。」



サツキは掴んでいた少女を手離すと、腕を貫いた短刀を抜き、女性へと投げ捨てる。



「あんた、イイねぇ。おいで、殺してあげる。」



恍惚の笑みを浮かべだすサツキにロロは絶句し、顔面を蒼白させながら乱暴に少女を叩き起こす。



「起きるお!! やばいお!! お姉ちゃん殺されちゃうお! もしくはサツキが強姦魔にされるお!」



激しく揺さぶり起こした甲斐あって、少女は目を開けると、そこには激しい憎悪を身に纏った姉の姿があった。少女はもしやと思い、慌てて止めに入る。



「アルラ様、ストップです!! この人じゃないですよ!!」


「嘘をつくでない。この異常者が犯人じゃなければ、誰がお前を攫ったというんじゃ!」



すかさず、ロロが女性の前に立ち、大きな素振りで横たわる男を指差した。



「あいつらだお! サツキはその子を救ったんだお! 故意にじゃないけど………」


「餓鬼、本当か?」



鋭い目つきを飛ばす女性に、サツキはニコリと笑みを浮かべ応えた。



「さぁ?どうだろう?」



すると、少女は急いでアルラと呼ぶ女性の元へ駆け寄ると、自身の額をアルラの額へとぶつける。すると紫色の光がふわりと丸くその周りを包み込むように出現し、消えると同時に女性の瞳からも怒りの色は消え失せていた。



「すまんの。誤解だったようじゃな……。じゃが、主が妹の首など掴んでおったから………」


「………今のって、コードだおね?」


「今まで怒りでよく見えておらんかったが、そなた精霊か?」



アルラとロロが何か大事な話をしようとしている時に少女はというと、真っ赤に染まったサツキの腕の血液を制服の裾を使い、謝罪しながら懸命に拭き取っていた。



「本当にごめんなさい。アルラ様が………ってアレ?」



少女は血がべったりとついているにも拘らず、傷一つない腕を再度見直してから、サツキへと視線を移す。



(この人、異世界の人だ……。だからこんなに綺麗なのかなぁ~)



意味深な視線に気づき、振り向くと少女はパッと恥ずかしげに視線を下げる。するとサツキは「あぁ」と何かに気づき、以前ユキにしてあげたように羽織を少女へと投げ捨て、そのままロロの元へと歩き去る。


少女はそれを自分に向けられた好意だと勘違いしたことは、内緒にしておこう。



==========================================✂

最後までご拝読頂きありがとうございましたm(__)m


皆様が奇跡的に拝読してくださるおかげで、続きが書けています。

本当に、本当に、ありがとうございます。


お手数になってしまいますが、☆やコメントなど頂けると大変嬉しいですm(__)m


=======================✂

今回は、現実世界と異世界の繋がりを匂わせる内容となっています。

そして私事なのですが、ちょっと女の子のに日に突入してしまいまして、アレがアレでアレなんで、何日か更新できないと思いますm(__)m


多分自分腐ってるんで、子宮が「おい、コラ、テメェ!!何♂×♂で燃え滾ってんだ?!あ?」ってなって子宮をイジメぬいてるんだと思うんです。


なので、しばらく子宮との長き決戦の舞台に立たなければなりませぬ。



次話も良かったらお付き合いくださると嬉しいです!

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