第13話 ユキに迫る危機


この日は、ローレン国から訪れた3人にとって運命の日となる。

また、サツキとユキにとっても世界が変わる重要な日となった____。




先日、シルヴィーから得た有力情報を基にクラウスの行動パターンを分析したジグは、クラウスがユキに構っている数時間の間に部屋を徹底的に捜索し、拾ったと思われる【キューブ】を血眼になり探していた。


ただでさえ怪しまれている事もあり、そう易々と毎回監視の目を潜り抜けられるわけではない為、ジグはこの数時間に全てを賭けていた。だが、探しても探しても、キューブメモリらしきモノは一向に見当たらず、タイムリミットだけが刻々と近づいてくる。



「………くそっ。どこに置いてやがんだ。」



部屋にないとすると、考えられるのはクラウス自身が持ち歩いているという可能性だ。

ジグはすぐにキューブで残りの2人へと連絡を入れ、急ぎ部屋を後にする。

ユキとの時間を過ごし終えたクラウスを待ち伏せし、問い詰めるためだ。


ジグの予想通り、ユキと恒例の時間ときを終えたクラウスは、すぐに自室へと戻ってきた。

ジグはクラウスが部屋へと入る前に、何食わぬ顔で声をかける。



「クラウス様、少々お伺いしたいのですが……お時間よろしいですか?」



突然後方から話しかけられ、一瞬驚いた様子を見せたクラウスだったが、すぐにローレン国から来た者である事に気づき、油断した様子は見せられないと背筋を正す。



「どういったご用件でしょうか?」


「先日亡くなったローレン国の者をご存じですよね? お話によると現場におられたとか?」


「ええ……、確かにいましたが。」


「その時に何や拾い物をされたと伺ったのですが、お持ちであれば見せて頂きたいのです。我々ローレン国にとって大事なモノになりますので。」


「オレは何も拾ってませんが?」


「いやいや、嘘は言わんでください。貴方が持っていても価値のないモノです。返しては頂けませんでしょうか?」



強く否定し続けるクラウスに、ジグは次第に苛立ちを隠せなくなっていた。

違法ストーンはセムナターン国に押収されたという報告を受けていたが、肝心のキューブが何処にも見当たらない。


ならば、それは間違いなくクラウスの手にある。

あの現場で、何かを拾うということ自体が、その証拠だとジグは疑いもしなかった。



「お願いですから、返して頂きたい。」


「だから、本当に何も拾っていませんって。」



どんなに低姿勢でお願いしても、クラウスは返す素振りすら見せようとしない。

そこでジグはある作戦を思いつく。



「そうですか、ならば結構です。後悔しても知りませんよ?」



不敵な笑みを浮かべ、侮蔑的な視線を投げてからそのままクラウスの元から去って行った。

しつこいくらいにお願いを繰り返していたジグが、あまりにも簡単に引き下がっていった様子に違和感を覚えながらも、クラウスは自室へと戻って行った。



だが、この時ジグは既にユキの部屋の前で、2人を待っていた。

クラウスが何処にキューブを隠し持っているかを自白させるため、彼が一番大切にしているユキを利用しようと考えたのだ。


合流し終えた3人は、監視の目をすり抜けるにも限界があるため、事を急く。

慣れた手つきでユキの部屋をこじ開けると、勘づかれる前にユキの後方へをゆっくりと近づき、【睡眠コード】を発動させ、意識を奪う。


倒れ込むユキを、力には自信があるハハビが担ぎ、城の外へと駆け出す。その間にイサンは、クラウスへと手紙を残した。



ユキが居なくなった事を知ったのは、それから2時間が過ぎた頃だった。

クラウスが夕食の誘いに来た時には、一通の手紙だけを残し、ユキの姿は何処にもなかったのだ。


クラウスは急ぎ自分宛の手紙を読んでみると、ユキを誘拐した旨と、拾ったモノを寄越せという内容だった。最後にイザエルなどに知らせたら、ユキの命は保証しないという脅し文句まで丁寧につけられていた。


だが、クラウスはどうしようもなかった。

要求されているモノ自体が、そもそも一体何を示しているのかさえ、分からないのだから。


頭を抱えていてもユキが返って来るわけでない。

今こうしている間にも、ユキは傷つけられている可能性だって十分考えられた。


クラウスは急ぎ一人、城を出た。

モノを渡すまでは、どこかにユキを監禁しているに違いない。


手紙の内容から大ごとにしたくないということは、どこかにユキを隠し、自分たちは何食わぬ顔で城の中へと戻ってくる可能性が高い。そして、クラウスに再度ブツを渡すように要求してくるだろうと、そう考えていた。


そんな慌てた様子で城を駆けていくクラウスを、シルヴィーは屋根の上から見下ろし観察していた。



「おやおやぁ~、まぁまぁ~~、まさか誘拐しちゃうとはねぇ~。でも、結局あいつらが何を探していたのかは、分からず終いかぁ~~」



「ちぇ」と軽く舌打ちをしていると、クラウスはユキがサツキに会ってしまう事をひどく恐れていたことを思い出し、次なる遊びを思いつく。



(そうだ、サツキに探させよう!)



シルヴィーはすぐに騎士塔へと向かい、サツキの部屋を訪ねる。激しくドアをノックされ、不機嫌そうな面持ちでサツキはシルヴィーを部屋の中へと通した。



「大変なの、サツキィィィ~~、ユキちゃんがね~誘拐されちゃったのぉ~~」



突然の演技口調にサツキが絶句していると、シルヴィーが一度咳払いをしてから、ゆっくりと説明を始める。



「あのね、ユキちゃんっていうクラウス様のだぁ~~~いじな人がね、どうやら誘拐されちゃったっぽいのよ~~、でもね、公に探すことは出来ないみたいでね、困ってるところをワタシ偶然見ちゃったワケ。だからサツキ一緒に探してくれない?」


「……なんで?そもそもユキなんて知らないし、ロロを風呂に入れる時間だから帰れ、な?」


「サツキは知らなくても、ユキちゃんはサツキを知ってそうだったけどねぇ~、しかもただ知ってるって感じじゃなかったよー、サツキを見て複雑そうな表情をしていたからねぇ~。実際に会って確かめてみたらどうかなって思って。」


「………めんどくさいし、ロロを風呂に………」


「クラウス様がね、サツキにユキを会わせるのを嫌がってんのよ。絶対なんか理由あるとワタシ思うワケ。」



何か言おうとしても、言葉を遮れるサツキに拒否権はなく、これ以上シルヴィーに耳元で喚かれたくなかったサツキは、ユキを探すことを渋々了承する。



「さっすがサツキィ!! いい男ぉ~~~~。んじゃ、ワタシも探してはみるよ。あ、どうやら瓦礫音がしていたから使われていない屋敷か、倉庫とかが……あやちぃ~と思うよぉ~~ニャハッ」


「はいはい………。」



サツキはシルヴィーの背中を押し、部屋から追い出すとお風呂の準備をしていたロロを呼びに行く。



「ロロ、悪い。ちょっと急用。一緒に来るか?」


「うんむ!!! 行くお!」



ロロに服を着せ、サツキはいつもの羽織りを纏うと騎士塔を抜けるため、受付まで移動する。空橋まで来るとその場から飛び降り、重力のまま凄まじいスピードで地面へと落下し、激しい着地音と共に砂煙が巻き起こし、その場から姿を消す。


シルヴィーから送られてきたデータの順番通り、上から周っていくことにした。



「ねね、サツキはユキって子知らないんだよね? どうやって探すの?」


「あっちが知ってるらしい、俺のこと。」


「サツキに女の子の知り合いなんていたんだぁ~」


「…………まぁ………ね。」



屋根を通路代わりに駆けていくサツキの目が、初めの目的基地となる廃墟と化した屋敷を捉える。



「お化け出そう~~~~~~~~」


「いや、もうお前がお化けみたいもんだろ。」



屋敷の屋根の上へと到着すると、そのまま下を見下ろし、【透視コード】を発動しながら中の様子を窺うが、人影は一切見当たらず、次の指定場所へと移る。


15分程それを繰り返し、6つ目の目的地の屋根に到着すると、中には4つの人影がくっきりと確認できた。



「ビンゴだお~~~!」


「さぁ、遊ぼうか、ロロ。」


「え………?」



サツキがその場で指を軽く鳴らすと、立っていた屋根の底が抜け、瓦礫と共にそのまま地面へと落下していく。物音に気付いたローレン国の3人は一斉に崩れてくる瓦礫へ目を向けると、砂埃の中から1人の少年がゆっくりとこちらへと歩いて来ている事に気づく。



「クラウスか?」



こちらに向かい問いかける男に、嘲笑を浮かべながら足を進めるとそこには、少女を囲うように3人の男が立っていた。少女の服は所々切り裂かれ、スカートは大きなスリットを入れられたかのように太ももまで激しく引き裂かれていた。殴られていたのか、少女の顔は腫れており、口端からは赤い雫が滴れている。



「………節操ねぇーな、あんたら。」


「だ、誰だ、お前。」



サツキは男の質問に答える前に、ユキへと視線を向ける。意識はあるようだが、頭を強く打ち付けられたのか、朦朧としているように見えた。



「サツキ、あの子……湖の………」


「ああ、痴漢女だな。ロロ、ちょっと服の中に潜ってろ。」



無視されたのが気に食わない男達は、大声を上げ威嚇するようにユキの長い髪を掴み上げ、その首筋に鋭いナイフを光らせる。その様子を冷淡に見つめ、サツキはゆっくりと口を開く。



「あんたら、ローレン国の人間だよね? クラウスに何の用があんの?」


「あいつに用はない。持っているブツに用があるんだ!」


「ブツ?……あぁ、もしかしてコレのことか?」



サツキは服の中からメモリキューブを取り出し、ヒラヒラと揺らしながら男達へと見せる。それを見た途端、男達の顔色は激しく変化を見せた。



「早くソレを寄越せ!! さもないと女を殺すぞ?!」


「クス、殺せば? そもそも女に興味はないし。」


「なっ!!」



少女の頭を掴み上げているハハビは、持っているナイフに力を入れ、ユキの首筋からは薄っすらと血液が滲みだす。



「本当に殺すゾ?」


「そんなことよりも、この一緒に写っている男について話を聞きたいんだけど?」



ハハビの言葉を流し、問いを投げるサツキに苛立ちを隠せなくなったジグは、勢いよくサツキの持っているメモリキューブに向かい、大声を上げ飛び掛かっていく。


向かってきたジグの腕を瞬時に捻り上げ、強引に回すと鈍い音と共に捻じれるように骨が軋み、肉を突き破り出てきた骨は見事に砕け折れ、肘から下は、もはや数センチの残った肉でかろうじて繋がっている状態だった。



「うわぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ」



ジグの悲痛な叫び声は廃墟中でこだまし、その場へと倒れ込む。痛みに転げまわるジグを足蹴にし、サツキは赤く染まる瞳で、ジグを見据えた。



「まだ、俺喋ってたよね? 邪魔、しないで欲しいんだけど。」



吐き捨てるようにそう呟くと、ニヤリと口角を上げ、そのまま踏みつけている男の頭に力を加える。



「一緒に写っている男、誰か知ってる?」


「し、しらねぇよ……。お偉いさんかなんかだろ……下っ端が知ってるはずじゃねぇだろ……俺らの仕事はソレを回収することだけだ……ほんとうだ。」


「またか……。ほんとめんどくせぇな。」



サツキは用が済んだ男の頭を、グチャリと音を立て踏みつぶすと、次はハハビを睨みつける。



「あんたは?知ってる?」



その問いに、先程の男同様首を横に振り応えると、サツキは大きなため息し、腰の刀を抜いたと思った瞬間には、ハハビの目の前へと歩を詰めていた。瞬きをする間もない程の一瞬の出来事に、ハハビは驚きを見せるが、もう既にその時にはハハビの首は胴体から切り落とされており、ゆっくりと地面へと転がり落ちていた。


切り離された胴体から、火山が噴火するように飛び出してくる血液に身を染め、サツキはまるで清めの儀式でも行っているかのようにそっと目を閉じる。


それと同時に生暖かい感触に全身襲われたユキは、その懐かしい温かさ誘われ、朦朧とした意識のままゆっくりと瞳を開けると、そこには少年の姿があった。


意識が戻ったユキに気づいたサツキはそっと羽織を脱ぎ、ユキへと被せると今度はイサンへと視線を向け、ゆっくりと歩きだそうとした時、ユキがそれを拒絶する。


遠ざかって行こうとするサツキを止めようと、ユキは立ち上がりそのまま倒れるようにサツキの背中に手を回した。



「……行かないで、お願い。」



あまりの突然のユキの行動に、サツキは足を止める。何が起こったのか理解が追いついていなかったのだ。



「もう、置いていかないで。」



クラウスと勘違いでもしているのかと、絡んでいる腕を引き剥がそうとするが、必死で抱き留めているため、そう簡単には剥がれそうになかった。かといって引き千切る訳にもいかず困惑していると、何やら淡い光が後ろから見えている事に気づく。何かが光を纏っている、そんな感じだった。



「………なんか光ってるけど?」



必死にしがみつくユキには、まるでサツキの声が届いておらず、イサンが腰を抜かし動けない状態でいることを確認してから、ユキに向かっていつもの倍以上の声量で問いかける。



「なんか、光ってるって言ってんだけど!!!」



その声にユキはハッと意識を取り戻し、少年に抱き着いている自分に驚愕し、慌てて離れてから大きな悲鳴をあげた。突然真後ろから甲高い叫び声が響いて、サツキは激しい耳鳴りに襲われる。



「ごごごごごご、ごめんなさい、それの、あの、えっと………」


「いや、なんか光ってるし、震えてる。」



サツキの言葉にポケットを見ると、電源が入っていないスマホが何故か光を帯びていた。



「なんで?」



ポケットから取り出した奇妙な箱を見たサツキが、光ってるスマホに手を伸ばした瞬間____。

辺りは、目を開けていることすら出来ない程の眩い光に包まれた。




光が収まったと同時にゆっくりと瞼を開けると、信じられない光景が広がっていた。


そこには、コンクリートで出来た道を騒音をまき散らせ、鉄の塊が猛スピードで駆け抜けていき、高いビルが辺り一帯を覆い隠すようにひしめき合っていた。



「サツキ……なんだったお? 今の光……って、おーーーーい、ここだお~~~~」


「わからん。どこだ………」



人が入るにはあまりにも薄い大きな箱の中には、器用に歌って踊る女性の姿があり、周りを見るとそれと同じ箱が、沢山壁に掲げてあり、どれも同時に同じ女性が踊っている………。


サツキは高いビルの屋上から、目の前に繰り広げられている摩訶不思議な世界をただ茫然と見つめていた。



そう、ここがユキのいた世界だとも知らずに_____。




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最後までご拝読頂きありがとうございましたm(__)m

お手数かもしれませんが、☆やコメントなど頂けると嬉しいです。


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ついにサツキがユキの世界へ!!

東京を舞台に今度はサツキが動き回ります♪


警察に逮捕されないことを祈りましょう……


また、次話もお付き合い頂けると嬉しいです。

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