第12話 異なる目的
【ラジータカジノ】一行が、セムナターン国へ入国したという旨を受けたイザエルは、アルトロを王室へと呼び出す。
「アルトロ、手はず通りに頼んだぞ。」
「承知致しました。」
手を後ろで組み、軽く一礼すると、アルトロは指示された通り、ラジータカジノの一行を出迎えに、城の外へと足を進める。城門前には重装備に身を包んだ兵士と騎士が、その到着を今か、今かと待ちわびていた。
入国の連絡を受けて15分後、ほぼ予定通りの時刻に一台の馬車が城門へとやって来る。
「お待ちしておりました。」
一同頭を下げ、馬車から降りてくる3人の男達を、丁重に出迎えた。
アルトロを先頭に3人は城の中へと進み、城内の異常な数の兵士の多さは気にも止めず、見事な装飾品の数々に目を奪われながらも、イザエルへ挨拶をするために歩を緩めることなく進む。
「こちらが王室になります。」
アルトロはドアを開け、3人が中に入ったのを確認してから後に続き入室し、静かにドアを閉めた。
「ようこそ、セムナターン国へ。」
イザエルは早速、入国した旨を喜ぶよう3人と強く握手を交わし、椅子へと促す。
「今日わざわざ入国してすぐに、呼んだのには、理由があってだな………」
イザエルは前置きとして言葉を置き、一度咳ばらいをしてから、再度口を開く。
「ファルス国が滅亡された事は知っておろう? それで我々も、敵対関係にあったローレン国の幹部方をお迎えするにあたり、色々と準備する事があってのう……。今セムナターン国では、危機に少し敏感になっておって、敵対関係の者を両手広げて迎えられん状態なんだ。」
「というと、わたし達をお疑いになられているんで?」
「いやいや、そうではない。もしそうならば、入国を拒否しておる。だが、我々城の人間は、それを理解しておるが、民はそうではない。いつ自分の国をも滅ぼされてしまうか、分からない状況に怯えておって、過敏に反応してしまうじゃ。だから悪いんじゃが………観光には騎士を、お供につけさせてもらいたいのと、宿泊する場所は街中ではなく、この城でお願いしたい。民が危険視している以上、街中は何が起きるか分からんでな。ローレン国だとバレてしまうと、騒ぎになる危険性もあるのだ。すまんが、それだけ守ってくれんかの?」
丁寧に説明しているが、決して拒絶はさせないというイザエルの態度に、3人は渋々といった雰囲気で、この件を了承した。
イザエルは、警護責任者にアルトロを就け、3人を部屋まで案内するよう頼む。
「では、案内させて頂きますので、こちらへどうぞ。」
アルトロに続き3人も王室を出ると、扉前で待機していた兵士達が3人を間に挟むように移動し、厳戒な守りの中、部屋まで3人を届けた。
そのまま扉前に何人かの兵士を配置させ、3人が出掛ける際には自分へ一報入れるように命じてから、アルトロはその場を離れた。
今回3人を受け入れるにあたり、アルトロはイザエルから「徹底的に監視しろ」という任務を仰せつかっていた。表向きは歓迎の姿勢を崩さず、実際の街の混乱を利用し、城内部に滞在させ、本当は一体何をしにセムナターン国を訪れたのか、探られねばならなかったのだ。
この状況下の中、ただの観光目的などで、ローレン国の人間がセムナターン国を訪れること自体、稀有なことだった。絶対何か別の目的があると分かってはいるが、相手も「観光」という名目で入国しているため、その姿勢を簡単に崩すことはなく、互いに腹の探り合いになることは、目に見えていた。
その後_____
アルトロの予想通り、なんの変化も得られないまま3日の時日が過ぎていった。
この日の警護任務の担当は、アルトロの指示によりシルヴィーが就くことになっていた。
*******
シルヴィーは、任務開始前に3人の資料へ目を通す。性格とは裏腹に、几帳面な一面もあり、事前に3人のデータと、滞在してからの訪れた場所や、時間などの記録資料を頼んでおいたのだ。
ゆっくりとページをめくりながら、まずは3人の特徴データに目をやる。
まず一目は、かなり細身で長身な男、名はジグ。
二人目は、老人と言うには少し若いが、見るからに長い髭を生やし、まるで仙人のような男、名はイサン。
三人目は、他の二人に比べて、異常な程の筋肉質で、体格の良い男、名はハハビ。
シルヴィーは、名前を声に出し読み上げ、特徴を整理してから、訪れた場所の確認へと入る。
「ん~~~?」
観光目的を謡うだけあって、一日に20か所以上の名所に足を運んでおり、かなりハードな3日間を送っていたようだ。
だが、シルヴィーは妙な違和感を覚えた。
訪れている場所が異常に多すぎるという事実に、シルヴィーはページを戻り、比較するように照らし合わせてみると、3人の行動パターンは完全に一致はしなかったが、3日間全て、同じ時間に同じ場所を訪れている箇所があった。
「本命はここかなぁ~~」
明らかに他の観光はフェイクで、誰かと事前に待ち合わせをしている可能性が高いと見たシルヴィーは、ニヤリと笑い、面白くなりそうな匂いに鼻を鳴らしながら、警備任務へと向かった。
城門前で待機していると、約束時間を少し過ぎたあたりで、3人がシルヴィーに合流する。
「今日警備を担当させて頂く、シルヴィーでっすぅ~~! 今日の予定はどんな感じですかぁ?行きたい場所のリストを見せてもらっても~~?」
シルヴィーの言葉に、ジグがポケットから一枚の紙を取り出し、シルヴィーへと手渡す。それを見たシルヴィーは、例の場所がきっちり記載されていることを確認してから、最初の目的地へと3人を案内した。
その間、時計をチラチラと確認するジグの様子を、横目で見ながら、ニタニタと笑いが止まらないシルヴィー。
フェイクである観光地を義務感で回り、いよいよ例の場所へ足を進める。目的の場所に近づくにつれ、シルヴィーの瞳は徐々に輝きを増していた。
着いた場所は、大きな時計塔のある広場で、昼下がりということもあり、子供連れの親子で賑わいを見せていた。3人は露店売りされているジュースを購入し、「少し休憩しましょう」という名目の元、時計塔近くのベンチへと腰かける。
ソワソワと視線を動かし、辺りを見渡す真似をして、誰かを探しているのは明白だった。
(へったくそな、演技だことぉ~~~)
休憩だと言っている割に、身体を前のめりさせ、必死に辺りを見渡す男達を鼻で笑っていたシルヴィーだったが、その様子があまりにも真剣に見えたため、妙な違和感を覚える。
いくら下手だと言っても限界がある。
何か探し出せなくてはならない事情でもあるのではないかと推測し、シルヴィーは揺さぶりをかけてみる。
「そういえば、この間ぁ~~酒場近くの路地裏で、ローレン国の方が惨殺される事件があったんですよねぇ~」
シルヴィーの言葉に、勢いよく3人が視線を向ける。
(おやおや、ビンゴかなぁ~?)
「一緒にもう一人、セムナターン国の男も殺されてるんですよねぇ~~、いやぁ~~怖い、怖い~~」
「そ、そうなんですね。それは怖いお話ですねー。同じローレン国の人間として、黙とうでも捧げた方がいいですかねぇ? 名前や特徴などはお分かりになりますかぁ?」
「名前は分からないですけどぉ~~、白いロングコートの男だったらしいですよぉ」
3人の顔色が、みるみる変わっていくのがすぐに分かったシルヴィーは、更に口角を上げ、言葉を続ける。
「どんな人だったかも分からないですけどぉ~、どうやらですねぇ~、その現場には、皇子のクラウス様もいたらしいんですよ!!!」
「クラウス様がですか?」
「そうなんですよぉ、何故か居合わせたみたいで、結構現場が悲惨だったんでぇ~、きっと思い出したくもないんでしょうけどぉ~。あ! そういえばクラウス様、何か拾ったとか言ってましたよ?」
「な、何を………拾われたんでしょう?」
「さぁ~~? なんなんでしょうねぇ~~」
クスクスと、笑顔を浮かべるシルヴィーとは対照的に、3人の顔色は明らかな焦りの色が滲んで見えた。
その後シルヴィー達は、一ヵ所だけ観光地を回り、残りは「疲れたので」という理由で3人がキャンセルしたため、早めに切り上げてから、城へと戻る。
城門前に到着すると、足早に部屋へと戻ろうとする3人をシルヴィーは呼び止め、「今日の楽しかったお礼」として、全員に飴玉を手渡し、その場で別れた。
シルヴィーはリズミカルに口笛を鳴らしながら、中庭の木陰へ横たわると、スカスカ胸の中からキューブを取り出し、何やら操作を始める。すると、キューブ中から先程別れたばかりの男達の声が聞こえだした。
『まずい、もしかしてアイツが殺されているんじゃないか?』
『それは早計過ぎるんじゃないかのう?』
『だが、実際アイツら記録メモリ置いていってねぇーじゃん』
『本当に場所、時計塔だったのか?』
『間違いない、しっかり主様に確認をとっておる』
『じゃ、なんでアイツこねぇーんだよ?』
『二人とも同時に消えるなんて変な話じゃねぇーか』
『もしかして、我々の狙いにセムナターンは気付いているのか?』
『その可能性も踏まえて、慎重に行動せねばならんな。見つからなければ、我々の身が危ない。』
『ひとまず明日、クラウスという皇子に、それとなく事情を聞いてみるか。』
シルヴィーは会話に耳を澄ませながら、明日男達がクラウスに接触する時刻まで、しっかりと聞き逃すことなくメモをとり、愉快そうに鼻歌を歌いながら、城の中へと姿を消して行った。
(はて、クラウスは何も拾ってないんだけどぉ、あの人ら一体どうするんだろねぇ~)
切羽詰まっている男達の行動は先が読めず、楽しさに満ち溢れている事をシルヴィーは知っていた。
(さぁて、これは
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最後までご拝読頂き、ありがとうございましたm(__)m
奇跡的に気に入って頂けたら、お手数かもしれませんが、☆やコメントなど頂けると、本当に嬉しいです。
また次話もお付き合い頂けると、幸いですm(__)m
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