第11話 ロロの想い
ジルから渡されたメモリキューブを空中へ投げながら、サツキはとある動物ショップを訪れていた。
「あ、いらっしゃいませ、お待ちしておりました!!」
サツキを迎え入れた女性店員は、そのまま店の奥へと颯爽に案内する。そこにはサツキと同じ和服に身を包み、器用に手でキセルを回す少年が一人、座布団に座りサツキを待っていた。
「ハロー、サツキ♪」
気さくな様子で話しかけてくる栗色の髪の、どこか幼く可愛らしさを感じる少年に、サツキは口元を緩め、用意されていた座布団へと腰を下ろす。
「相変わらず元気そうだね、ゼンは。」
「まぁねぇ~♪ そうそう、ロウから刀、預かってきたよ!! まぁーた壊したんだってね。嘆いてたよ。」
ケラケラと笑い、丁寧に袋に入れてある刀を取り出し、サツキへと手渡した。
「それはそうとサツキ、ロロ君ね、仕上がってるよ。」
ゼンは先程の女性店員を呼び、ロロを連れてくるように頼む。
「くすぐったいお~~、やめてお~~~」
店員とじゃれながら登場したロロは、モコモコしていた毛を綺麗に整えられ、洗髪された姿でサツキの前へと登場した。
「じゃぁ~~~~ん!!! 綺麗になったお! ありがとう、サツキ!!」
ご機嫌な様子で、綺麗になった毛をクルリと披露し、満面の笑みを浮かべるロロを、サツキは満足そうに見つめた。その様子を黙って見てたゼンは、徐に昔を思い返すように斜め上へと視線を移し、ゆっくりと口を開く。
「そういえば、サツキは本当に昔から動物好きだよねぇ~~~」
「まぁ、嫌いじゃない。」
「ロウもよく言ってたじゃん、サツキは動物と森で暮らして仙人になるってさ!!」
仲良さげに団らんするサツキの様子から、ゼンという少年を心から信頼している事が分かる。
サツキの背中からは、いつものような研ぎ澄まされた緊張感をまるで感じず、ここまで無防備な姿を見たのはロロも初めてだった。
「二人は友達なのぉ?」
ロロの質問に「おうよ」と元気よく答えるゼンを、鼻で笑うサツキ。
「ロウって武器屋さんも?」
「もっち♪ オレ達は幼馴染つー、いわば腐れ縁的な?そんな感じよぅ!!」
ロロはすぐに悟った。サツキの友人だという二人は【あの村】の生き残りなのだと。
山賊のような兵士達が、惨殺し弄び、虐げていた、あの村の…………。
「それはそうとロロちゃんさぁ~、精霊だって聞いたんだけど、本当なの?」
話題を変えるようにゼンは、ロロへと質問を投げかける。
「本当だお! ボクは精霊だよぅ~~!!!!!」
「だったら、何故人間に姿が見えるんだ? 巫女族しか、その姿は拝めないって有名な話じゃん!」
「ボクは精霊の中でも、特別なんだよ? 精霊の発する精気は微弱で普通の人間には認識出来ないだけで、実は常に当たり前のように存在しているんだぞぅ? ボクの精気は普通の人間にもはっきりと認識レベルにあるってだけの話ぃ。要するに、ボクは結構強い精霊たんなのです!えっへん!」
胸を張り告げるロロに、二人の様子を見ているだけだったサツキの口が徐に開く。
「なんでその強い精霊が俺に取り付いて、餌たかってんの? お前さ、たまに俺の魔力も喰らってるだろ?」
その言葉にロロはビクッと身体を震わせ、上目使いでサツキへと瞳を向けた。
「お気づきになってたんですねぇ………。色々と事情があるんだお!!! 悪気があって吸ってたわけじゃないだぉ………。」
「…………なぁ、魔力を食う精霊って珍しくない? 生気を吸う精霊はいるって聞くが、魔力自体を吸い取る精霊なんて聞いたことねぇよ? オレは職業柄珍しい生き物は結構見てきてんだけど、噂すら耳にしたことねぇんだけど?」
ロロの職業は、珍しい生き物や動物を保護したり、危険な生き物を排除する生物監査の職についている。いわば、生き物のエキスパートといっていい職業だった。
「ボクも魔力はあんま食べたくはないんだぉ、マズイし………。だけどサツキのは食べないといけないんだお!! 最初に会った時に確認のために放出された魔力を味見した時、数値が異常すぎたお。多分あの子を喰らったからだと思う。サツキ自身が元々持っている魔力と、あの子が持っている精気が入り混じって異常に増幅している傾向に………あると思うお。だから、定期的に調整してあげる必要があるんだお!じゃないと………サツキはサツキじゃなくなってしまうお………。」
「…………あ~、要するにサツキは異常者だから、正常者に戻してあげる措置をロロがとってるってことだよな?」
異常者扱いされたことが気に食わないのか、サツキは
「サツキがサツキじゃなくなるってーのは、つまり一層異常者になるってことか? まぁ、サツキは元々異常者だしなぁ~、それは喰らった精霊がどーのって以前の問題な気がするな………。ロロちゃん、具体的にどこがどうなるの?」
「放出されきれず、溜まりすぎた魔力はいつか身体の外に出してあげないといけないお。だが、普通に放出するレベルでは足りなくてぇ………、爆発的に魔力が暴走してしまう危険があるんだぉ………。そうなると兎に角一気に体内から魔力が放出されて、それに充てられた人間は耐えきれず死ぬか、狂うかしてしまうお~~~~」
「なるほどな。サツキの異常さは関係なかったか。アハハ。つまりは、サツキはいつでも生物兵器になれるってことか。良かったじゃんサツキ。時間かけずに目的の人間を一か所に集めて自爆すれば、パッて終わるじゃん。」
焦るロロとは対照的に、豪快に笑うゼンの姿はどこか狂気染みていた。
「一ヵ所に集められたら、そもそも苦労しない。お前は相変わらずバカなんだな。」
「はいはい、オレはバカで出来てますぅ~~~~」
可愛い見かけからは想像も出来ないほど、ゼンという男もどこか異常さを秘めていると、感じずにはいられなかった。
あの残酷な世界で生きていたのだ。
正常でいられる方がおかしい。
さっきまで自分の隣で笑っていた人間の首が、一分後には外から平気で吊るされている。それを見ながら飯を食わされ、悲しむ暇も与えず働かせられ続けていた。
そんな世界で、彼らは生きていたのだ。
ロロは泣かない二人の代わりに大粒の涙を流し、大声で喚くように泣き散らした。
「おいおい、どうしたの? え? まじ、どうしちゃったの、ロロちゃん~~~」
「なんでロロが泣いてんの………?」
____助けてあげられなくて、ごめん。
____気づいてあげられなくて、ごめん。
____ボクは知っていたんだ、キミ達のこと。
____だって、ボクはキミ達の村の精霊だったのだから……………。
止まらない涙に、慌てる男二人。
あたふたと動揺し、挙句には女性店員へと助けを求めた。
「どうしたんですかぁ?」
「ロロちゃんが、急に泣き出したんだよぅうううう」
どうしたら良いものか尋ねると「こういう時は……」と前置きをしてから、店員はロロを抱きかかえ、まるで赤ちゃんでもあやすかのように、ゆっくりとリズムを取りながら、優しくロロの背中を叩く。
慣れた様子にサツキとゼンは「お~~」と、二人で歓声を上げ、ロロが落ち着くのを待った。
だが、5分経っても10分経っても落ち着きを取り戻さないロロを見て、店員がサツキを呼ぶ。
同じようにして欲しいと、ロロを手渡されたサツキは、慣れない手つきで見様見真似だがやってみると、ロロはギュッとサツキの服をきつく掴み、顔を埋め、徐々に落ち着きを取り戻していった。
「さっすが飼い主様!! 」
泣き疲れて眠ったロロを抱きながら、サツキはゼンを睨み飛ばし、ヒザを軽く蹴り飛ばす。
「イッタッ!! ちょ、やめて、ゼンちゃん、か弱いの~~。」
「一回死ねよ。」
「………オレらもう………、一回死んでんじゃん。あの村がなくなった時に。オレ達はもう………、オレ達じゃなくなったんだよ、あの時からずっとな____。」
「___そうかもな。」
「ロロちゃんさ、きっとオレ達の境遇知ってるよね、精霊様だもんねぇ~~。純粋な精霊様が同情して、代わりに大泣きでもしてくれたのかもねぇ。」
「泣ける涙があるだけ、幸せだな。」
「アハッ、全くだな。」
その後サツキはロロを抱え、王城へと戻っていく。
ゼンは調べたいことがあると、サツキがもらったメモリキューブをコピーし、そのままセムナターン国を去って行った。
ゼンにコピーして渡したはいいが、未だに中身の確認をしていなかったサツキは、徐にキューブを取り出しメモリを開いた。
キューブから透明なディスプレイが飛び出ると、そこには興味深い写真と内容が表示された。
探し求めている男が、ラジータカジノで賭博している画像と、その日時。
______そして。
サツキをセムナターン国へと送った張本人である、元帥と呼ばれていた男の姿が、そこにはあった。
「………へぇ、コイツ抹殺対象だったんだな………。」
シニカルな笑いと共に、サツキはすぐに誰かへとコンタクトを入れながら、路地裏の中へと姿を消して行った。
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最後までご拝読頂き、ありがとうございましたm(__)m
なろうに追いつくために、連投したこと、すいません。
☆やコメントなど下さった方々、本当にありがとうございます。
皆さまの貴重のお時間を、このような小説に使って頂き、本当にありがとうございますm(__)m
また次話も、お付き合い頂ければ、幸いです。
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