第7話 侵入

**今回はクラウスと再会するのまでの、サツキの足取りを追った物語になります。


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_____クラウスとサツキが出会う一週間前。




サツキは、【セムナターン国、王城二階エントランス】へ到着していた。

重く大きな扉は門番らしき二人の兵士によって、ゆっくりと開かれる。

中には広めの部屋でもあるのだろうと思っていたが、そこは騎士団専用となる、別塔へと繋がる通路口となっていた。


床以外、全面ガラス張りで出来ていたその通路は、まるで向こう岸へと掛かる虹の架け橋のように長く続いていた。



「まるで空の上でも飛んでいるみたいな造りねぇ~、優雅だわぁ~!!」



両手を広げ、子供のように駆け出していくシルヴィーを追う形でサツキ達も通路へと足を踏み入れる。



「騎士団専用なんて、流石大都市セムナターン国だお~」


「………そうだな。」




セムナターン国の中央に構える王城は、入口からの見た目よりも遥かに広く構築されていた。

別塔となる場所も、本塔に負けず劣らずの広さだ。


騎士団員の要となる拠点の規模は、まさにセムナターン国の国土の広さを象徴していた。一番栄え発展している中央エリアを警備するだけでも、莫大な数を有するということなのだろう。


また、このエリアを起点として、様々な方面へと騎士を送り込んでいる。


そう、中央エリアの騎士塔は国を守る騎士にとって、いわば心臓とも言える場所だった。



「おっ先ぃ~、いっちばぁ~ん!!!」



シルヴィーは勢いよく飛び跳ね、両足を着地させてから、サツキ達を振り返る。だが、サツキはシルヴィーの行動にはまるで興味はなく、ガラス板を指でなぞりながら、ゆっくりと騎士塔へ足を踏み入れた。


迎え入れてくれたのは、青い軍服らしきものを着た女の子だった。



「ようこそ、騎士塔へ!リムトゥからご紹介のお二人………と一匹さんで間違いないっすかぁ?」



まだ小学生だと言われても頷ける幼い容姿だが、その腰にはしっかりと騎士らしく剣が下げられていた。



「うん、間違いないよ?」



シルヴィーの返答に頷きながら、手に持っている用紙にチェックを入れ、サツキ達たちに記入用紙を差し出す。



「こちらに必要事項を記入して欲しいっす。書き終わったら、そこの机に置いて、この通路をずーーーっと奥に進むとアルトロの部屋があるっす。そこに行ってほしいっす。」


「あらあら、ミミルちゃん、そんなんじゃ、皆さん迷子になって永久に帰ってこれなくなってしまいますわよぉ~」



見かねてか、奥から別の女性が姿を現す。

恰好はもう一人と同じ青い軍服姿だが、腰に剣は下げられていない。



「ごめんなさいねぇ~、あ、わたくしはリリスと申します。騎士塔のガイド役を務めております。こちらの小さいのは妹のミミルちゃんよ。以後お見知りおきを~」



リリスはミミルの頭を笑顔で押さえつけ、新しく来た騎士であるサツキ達に軽い会釈をさせる。



「い、痛いっす………」


「記入しましたら、ご案内いたしますので、私の後についてきて頂けますか~?」


「わ、分かったわ………」



記入用紙を手に、サツキは必要事項だけを簡潔に素早く記入し終わると、指定された机の上へと置き、リリスの元へと歩を詰める。



「あらあら、いい男ぉ~、お歳はおいくつなのかしら?」


「………17だけど?」



リリスは少しだけ舌を覗かせながら、舐めるような視線でサツキを観察し、ニコリと微笑む。



「脂が乗るには、あと10年は必要ねぇ~」


「は?」


「でも、貴方、いい香りがするわ、血のねぇ………」



リリスの言葉に、サツキは反射的に素早く一歩後ろへと下がる。



「あら、大丈夫よ。 取って食べたりしないわぁ。だって、今そんなことしたら………」



_____面白くないじゃない。じっくり、ゆっくり、手間暇をかけないとネッ!



紫の長い髪をかき上げ、うっとりとした表情を浮かべるリリスの姿に一番反応を見せたのはロロだった。



「………サツキ、あの人なんか怖い。」


「………病気患ってんだな、きっと。」


「え?」



ロロは思った。


あの奇妙な視線を理解出来ない、サツキの方が何かの病なのではないかと。



「お待たせ」



やっと記入し終えたシルヴィーも合流し、終りの見えない通路をひたすら真っすぐ歩き続ける。


どう考えても土地の広さと一致しない通路の長さに、ロロはため息を漏らす。



「………広すぎ」


「確かに、そうね。見た目よりは広いと言っても限度があるわ。」



ロロとシルヴィーの言葉にクスリと微笑み、リリスは一度咳ばらいをしてからゆっくりと口を開いた。



「ここは魔力で構成されている建物なの。あの空橋を渡り、騎士塔に足を踏み入れた時点で、ここはもうセムナターン国であって、セムナターン国ではないのよ。空間を拡張するコードが張られているってわけ。それぞれの空間エリアに高難易度拡張コードが張り巡らせてあって、そのエリアに足を踏み入れた時点で次の拡張エリアへと移動しているの。まぁ、要するに別空間だと認識もらっていいわねぇ~」


「そんなハイコードを張れる人間がセムナターン騎士にいるの?!」


「あら、別に意外なことではないでしょう?こんなに大きな国だもの、それなりの術者が存在している、そう考えるのが普通じゃないかしら~?」


「まぁ………そうよね。」


「ウフフ、あ、着きましたわよ、ココがアルトロ様のお部屋。貴方達のチームのリーダーさんのお部屋って言ったが分かり良いかしら?」



リリスの言葉が正しいのであれば、おそらくサツキ達はリリスの案内がなければ、この部屋には確実にたどり着けなかっただろう。


幾つものエリアを不確定に区切り、それぞれにコードを展開しているなら道を一回でも誤れば、二度と表に出ることは出来ない。


ただ真っすぐ進んでいるようでも、踏むエリアをリリスが選別して進んでいるのなら、この騎士塔と呼ばれる城は無限に道がある迷宮ラビリンスと呼んでいいレベルのものだった。個別にコードを展開することで一つの拡張世界より、より複雑に構成されていることになる。


道は一つに見えて、一つでは決してないということだ。



(めんどくさそ………)



リリスが開けた扉の奥には、アルトロと呼ばれる男らしき者が椅子に腰かけ、周りには軽装鎧に身を纏う女性二人が立っている。



「では、ごゆっくり~~~」



大きな音を立て閉まったはずの扉は、跡形もなくその痕跡を消し、もはやただの壁と化す。



「ようこそ、セムナターン国騎士団28番隊へ。俺はアルトロだ。よろしく。」



椅子から立ち上がり手を差し伸べる男は、見るからに筋肉質な身体で、鎧の隙間から覗く肉体は、鋼のように硬く鍛え上げられていた。



「私は、アイリーンよ。」


「アタシ、イツカ!」



アルトロに並ぶように手を出してきた女性二人は、軽装鎧に身を固め、力強く握手を求める。



「シルヴィーよ、そこの黒いのはサツキ。肩の生き物はロロよ、よろしくね。」



シルヴィーの言葉にサツキへと一斉に視線が流れる。だが、見られていたのはサツキではなく、ロロの方だった。



「なに、このモコモコした生き物、ちょー可愛いんだけど!!!!!」



一番興奮して反応を見せたのはイツカと呼ばれる女性だった。肩に少し触れる程の長さの蜜柑色の髪を靡かせ、前髪はよく分からないキャラクター物のピンで、丁寧に止められていた。



「ねね、抱っこしていい?」


「いいお~~~」


「わぁ~~!!? 喋るの!この子!めっちゃ可愛い!!!!」



ロロに頬を摺り寄せ、嬉しそうに抱きかかえる姿は、騎士というよりただの女の子のように見えた。

ロロの重みから解き放たれたサツキは、アルトロに手招きをされるがまま、近くへと足を進める。



「君がサツキだね?ラムトゥでは最終面接を受けずに合格した出来る男だと聞いている。よろしく。」


「……どうも。」



素っ気ないサツキの態度に、アルトロは少し怪訝そうな表情を見せ、アイリーンを呼ぶ。



「君たちはしばらくアイリーンの指示に従って任務を遂行してほしい。俺は別件の任務がある。」


「別件の任務ってなに?」



アルトロの言葉にすぐシルヴィーが疑問を返したが、「今は言えない」と流され、「一週間後の定例会議で明かす」とだけ告げると、近くにある呼び鈴を一度鳴らし、何もない壁へと歩いていく。


すると、壁から先程サツキ達が見た扉が姿を現し、吸い込まれるようにアルトロは消えていった。



「じゃ、そういうことだから、新人さん達もよろしく。」





*********


一週間が過ぎる頃ロロは一人、サツキのベッドに埋もれ、クルクルと布団を巻きつけながら暇を潰していた。今までずっとサツキの肩の上で生活をしてきたが、ここに来るなりそれを拒否されたからだ。


とはいっても、別にサツキに拒絶されたわけではなく、アルトロの指示によるものだった。

今回サツキに与えられる任務にはロロは向かないと、それだけ告げられたのだ。


拗ねるような態度に、サツキは優しく頭を撫で上げたが、一人仲間外れのような状況を前にしては、やはり拗ねずにはいられなかった。



「ちぇっ~」





************


同時刻、サツキは騎士の定例報告会に出席していた。そこで与えられた任務は「テロリストの調査」だった。


新しく入りたてのサツキ達をメンバーにいれるのは、異例の出来事だったが、元帥と呼ばれるお偉いさん直々の命令だったようで、従う他なかったという様子だった。


サツキはまためんどくさいことを押し付けられたと思っていたが、一緒に任務を遂行するイツカの表情は爛々と輝きを放っていた。


定例報告会が終了すると、すぐにサツキの傍まで駆け寄り、私語が禁止されていた報告会終了と同時に、怒涛のように話しかけてくる。



「ねね、サツキ、一緒だねぇ!!一緒に任務だねぇ!!!やっとだねぇ!!!今度は言うこと聞いてよねぇ!!」


「あ、ねね、お昼ご飯どうしようか?美味しいバスタ店あるんだけど、一緒に行く?」


「あ、そうだ!でも夜からどんちゃん騒ぎしなきゃいけないから、あんまり食べ過ぎると良くないよね!」



どこで息をしているのかも分からないほど、まくし立てるように言葉を切らさないイツカに、サツキは大きくため息を漏らす。


一週間共に行動して分かったことだ。


イツカは人懐っこい性格のようで、誰に対しても分け隔てなく明るい性格だったが、関わると非常に鬱陶しい。



「……煩い。」


「んもぅ、サツキは!相変わらず素っ気ないな!!」


「言う通り付き合うから、もう黙れ。」



定例報告会終了と同時に、入口に押し寄せる人の波の隙間を縫うように、前へ進んでいくサツキに対して、力づくで押し切るように歩むイツカは当たり前だが、すぐに距離が離れてしまう。



「ちょっと待ってってばぁああああああ」



大声を上げて人波に乗り、サツキの後ろ姿を捉えたイツカは、いつものようにサツキへと腕を伸ばし、絡めるように身を寄せる。



「今日はアタシが指示した場所に行ってもらいますからねぇ~」


「はいはい。」



サツキから返事をもらうと、嬉しそうにイツカは笑みを浮かべ、行きたいお店のピックアップを部屋に着くまで永遠と挙げ続けていた。





****



任遂行時刻。


任務を任された3人は、ひっそりと街灯の少ない裏路地に、身を潜めるように待機していた。



「確か、皇子様と一緒に任務やるんだよね?」


「そう聞いてる。アタシ実は皇子様に会うの初めてなんだよねぇ!!」



シルヴィーとイツカが盛り上がる中、サツキは一人、つまらそうにコイン遊びをしている。

そんな中、自分たちに近寄ってくる足音を聞き分け、皇子の足音である可能性が高いとイツカが判断し、駆け寄る。



「あ、クラウス様!!!!」



クラウスを発見し、深々と頭を下げ、自己紹介を告げている後ろをシルヴィーとサツキがゆっくりと合流すべく、歩を進める。



「皇子のクラウス様ねぇ~………。」



シルヴィーの意味深な視線を追うと、あの時の酒場にいた金髪の男が見え、サツキは興味深そうに口元を緩めた。



「どうも、初めましてシルヴィーです♪どうぞよろしくぅ~。チビだとか思わないでくださいね!ヒール履くと165㎝にはなるんですからねぇ~」


「履いてもチビだという事実は揺るがないけどな。」


「なっ!!」



どんな自己紹介だよと呆れていると、クラウスの刺さるような視線がサツキを射抜く。

大きな緑瞳を更に広げ、一瞬もサツキから目を離すことなく見つめ続けていた。


その熱視線にどう応えるべきかと、サツキは舌なめずり、薄っすら笑みを浮かべると、突然イツカに腕を引き寄せられ、ピタリと横に立たされる。



「クラウス様、この子はサツキ。今日はこの3人でクラウス様のお供をさせて頂きます!」



イツカの言葉が終わると同時に、クラウスの表情はみるみる険しく変化していく。

ふと、何かに気づいたのか、再度確認するようにサツキへ視線を流し、薄く口を開いた。



「クラウス様………?どうされましたか?」



先程まで険しく歪んでいた表情は、いつしか重く鋭いものへと変化し、サツキをきつく睨み続けていた。



「クスッ、よろしく………金髪皇子様。」



その様子を見たサツキは満足気に笑みを浮かべ、ペロリと唇をなぞった。




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最後までご拝読ありがとうございましたm(__)m



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