第6話 予感



「ん~っ……。」



薄っすらと瞳を開けると、午前10時過ぎを指した時計が見える。いつもなら「遅刻だ」と大騒ぎする時刻だが、今のユキには関係ない。


30畳もあるだろう部屋を与えられ、何不自由なくお城での生活を満喫していているからだ。呼び鈴を鳴らせば、メイドがすぐにテレポートしてくる。事実上、部屋から出ることなく、すべての事が再現出来てしまう、そんな世界にユキはいた。


最初のうちは、どれも刺激的で興味深い出来事ばかりだったが、慣れてしまえば、それはただの退屈と化してしまう。


なんでも出来るが、実際は何も出来ない。

そんな状況が一週間続いていた。



「ユキ、起きてる?今日の散策はどうする?」



ノック音と共に聞こえてきたのは、クラウスの声だった。ユキが来てからというもの、毎日午前11時にはクラウスが迎えにくる。


それが日課となっていた。

クラウスなりに、ユキが退屈しないように気遣っているのだろう。



「今日はどこへ行こうか?」



ドアを開けるとニコリと微笑みかけ、大きな地図を広げてみせる。



「ここは昨日行ったし……、あ!ココは?!」



クラウスが指した場所は、馬で1時間はかかるであろう場所だった。ユキは首を横に振り、広げられた地図をそっと閉じる。



「今日はお城の中を探索してみたいんだけど、いい?」



強請ねだるように手のひらを合わせ見つめてくるユキを、クラウスが断れるはずもなかった。


時刻がお昼を回った頃、ユキとクラウスは待ち合わせ場所である、入口前のエントランスにいた。

寝起き同然の恰好だったユキの準備時間を兼ねて、クラウスが指定してきたものだ。



「城のどこを見て回りたいの?」


「とりあえず、階段登らない?」



そう告げるとユキは足早に階段を登り、半分は登ったであろうか場所で足を止める。


クラウスはその理由を知っていた。


ユキはある少年を探している。


その少年は一週間前この場所に立ち、確かに「そこ」に存在していた。それを追い、ユキは足に怪我を負った。


治療のため自室へと運び入れたが、ユキはずっと譫言うわごとのように少年を呼び続けていた。



【………どこに行くの?行かないで___そこにいて。】


【………お願い、コッチを見て、あの時のように___。】



繰り返されるセリフは、どれも意味が分からないものばかりだったが、ただ一つ言えることがあった。


ユキは、その少年を求めるということ。


それも刹那的に。


この事実を知るにあたりクラウスは以前、ユキに囁かれた言葉を思い返した。

それもまた「自分」にではなく、「少年」に対しての言葉であったと。


ずっと、その少年を探していたのだと知る。


クラウスは自分の気持ちを押し殺し、ユキの探し人である少年を、共に探そうと決心する。ユキのためだけではない、これは自分のためでもあったからだ。だが、常にクラウスは心のどこかで想っている。



____少年などいなければいい、と……。



だが、クラウスの思いは、この後すぐに打ち砕かれることとなる。






*****



______ガチャ。



二階の騎士団専用通路扉が開閉され、沢山の団員達が、流れるようにエントランスへと押し寄せてくる。定例報告会があっていることを忘れていたクラウスは、慌てて人混みに流されていたユキの腕を掴み、引き寄せる。



「ユキ、大丈夫? ごめん、二階のエントランス今日混み合うの忘れてた。」


「大丈夫だよ」


ニッコリとクラウスに笑みを返すユキの目に、真っ黒な着物に身を包んだ少年の姿が飛び込んできた。



「ちょっと、待ってってばぁぁああああ」



その後ろを、追いかけるように走るオレンジ色の髪をした可愛らしい女性の姿。少年の腕に絡みつくように身を寄せ歩く姿は、誰が見ても恋人のように見えた。



「今日は、あたしが指示した場所に行ってもらいますからねぇ~」



念願の少年を見つけたかもしれないというのに、ユキの足はその場から一歩も動くことが出来なかった。


少年に恋人がいたからではない。それを見た自分に怒りが込み上げてきたという、事実を知ってしまったからだった。



「………あの男がそうなの?」



クラウスはユキの目線を追い、少年を見据えて告げる。するとユキは頬に涙を伝わせ、俯くように頷いた。



___そうか、あの男か。



クラウスはその姿を目に焼き付けた。







その日の夜、クラウスはイザエルに呼び出され王室に出向く。



「父上、クラウスです。失礼します。」



部屋へ足を踏み入れると、イザエルと数名の団員が何やら深刻そうな面持ちで迎えた。



「クラウス、この男を知っているか?」



見せられた写真には、いつも情報収集に利用している居酒屋の常連客が写っていた。



「ええ、知ってますけど、こいつが何か?」


「テロリストの可能性があるという報告を受けています。」



クラウスの言葉に一人の団員が答える。



「こいつにそんな度胸……ないと思いますが。」



クラウスが知るこの男は、気弱でいつも若い連中にたかられている、そういう男だった。


脅され、震えながら金を渡している姿をクラウスは、幾度も見かけている。



「だが、ファルス国と強く敵対していたローレン国の従者と密に連絡を取り合っている。」



イザエルの言葉に耳を疑う。



「そういうわけですので、クラウス様のお力を少しお借り出来ないかと思いまして。」


「どういうことです?」



クラウスの言葉に、団員は資料を取り出し、目の前にあった机の上へと広げる。



「クラウス様はいつも通り酒場でお酒を楽しんでくださって結構です。ただ、コイツらを一緒に連れていって欲しいんです。」



ページをめくりながら告げる団員の指先を追っていると、あるページで手が止まる。



「この3人と共に酒場に行って欲しいんですが、よろしいですか?」



そのページには、団員の名前だけが記されていた。

特に拒否する理由もなかったクラウスは快く承諾し、王室を後にする。





「テロリストね………」



部屋を出てからもクラウスは、どうしてもあの男がテロリストだとは思えないでいた。確かに酒癖は悪い男であったが、基本的には物腰柔らかで、そこら辺のゴロツキとは違って、しっかりとした身分も持ち合わせていた。


だからこそ、たかられる的になっていたのだから………。


だが、疑いがかけられている以上、協力を惜しむ理由もなかった。調べればおのずと分かることだろうと、クラウスは自室の扉を開け、ベッドへと身体を倒す。柔らかな背中の感触が疲れを癒すようにクラウスは眠りについた。



****



任務遂行の日、クラウスはいつもより早く目が覚めた。窓を開け、朝の冷たい風に髪を揺らしながら、眠気の残る顔を冷ます。


すると、中庭を駆ける一人の少女の姿が目に入る。淡いピンク色の髪を一つに束ね、ユラユラとリズムを刻みながら、どこかへ走り去っていく。



(あの奥は倉庫があるだけのはずだけど………)



その少女の事が気になり、クラウスは薄い上着だけを手に取り、足早に部屋を出た。少女がいた中庭へと到着すると、走り去っていった倉庫方面へと、少女と同じ足取りで向かう。すると、廃材の中に紛れるように少女の後ろ姿が確認出来た。



「だーかーらー、知らないってば!そんなこと聞けるわけないじゃない!」



誰かと話しているようだったが、クラウスの位置からは確認出来ない。



「無理よ!嫌われちゃったらどうすんの!あんた責任とれんの?」



誰かと揉めているのか、激昂している様子が見て取れた。



「もういいわ!!お話にならない。」



すぐに少女は会話を打ち切り、その場から立ち去ろうとする様子に気づいたクラウスは身を屈め、近くの廃材へとその身をねじ込む。


強引に廃材の中に入ったせいで、視界は足元しか捉えることが出来ず、少女の顔は確認出来なかったが、幼声の割には色っぽいハイヒールを履いているという事だけは分かった。


少女の足音が消えるのを確認してから、クラウスは身体を引き出した。


話している内容は殆ど分からないものだったが、あえて人気ひとけのない場所で、しかも明朝にする話ではないことだけは理解出来た。


何かやましい事を話していたのではないだろうか……。

だが、それらしい重要な言葉は何も発してなかった。


考えても答えなど、出てこない。


ならば悩んでいても仕方ないと、クラウスは自室に戻り、いつものように11時には、ユキを迎えに自室を出た。



*****




「今日も案内してくれてありがとう。おやすみなさい。」



ユキを部屋に送り届けると、その足で酒場へと向かう。資料には名前が記されていただけで、顔までは載せられていなかった。


酒場に行ったところで合流できるのかと、悩んでいる内に、クラウスは目的の場所へと到着する。酒場のすぐ横にある路地裏にて集合と記載されてあった通り、薄暗い路地の奥へと足を進めた。



「あ、クラウス様!!!」



真っ暗な路地奥から一人の女性が駆けてくる。

太陽を地に引きずりおろしたような、燦々としたオレンジの髪をした女性だった。肩に触れるくらいの髪を耳へと掛けながら、女性はクラウスへ深く一礼する。



「お初にお目にかかります。騎士団28番隊所属イツカと申します。よろしくお願いいたします。」


「あ、こちらこそ、よろしく。」



イツカに釣られるように軽く会釈すると、残りの二人も暗闇の路地から姿を現す。初めに出てきたのは薄い桃色の髪の、まだ幼さ残る小さな少女だった。



「どうも、初めましてシルヴィーです♪どうぞよろしくぅ~、チビだとか思わないでくださいね!ヒール履くと165㎝にはなるんですからねぇ~~」



騎士団員になるには、まだ幼すぎる見た目に驚いていると、もう一人の少年がシルヴィーの横へと姿を見せた。



「履いてもチビだという事実は揺るがないけどな。」


「なっ!!!!」



現れた少年の姿にクラウスは息を呑む。

ユキがあの時見つめていた少年の特徴と一致していたからだ。

フードを被っていたため、顔は確認出来なかったが、体格、身長、服装、どれも全部当てはまっていた。


なによりそれを決定つけたのは、右手の中指にはまっている独特の形のシルバーリングだった。


間違いなく、この少年だ。


そうクラウスは確信する。


舐めるように少年を見ているクラウスに気づいたのか、イツカがすかさず少年の腕を引き寄せる。



「クラウス様、この子はサツキ。今日はこの3人でクラウス様のお供をさせて頂きます!」



_____サツキ、それが少年の名か。



深い闇のような漆黒着物に、目を奪われるほどの濃いブルーの瞳…………。


そう、まるで人形のような…………。



「クラウス様………?どうされましたか?」



そうだ、この少年どこかで見たことがある。


すると、クラウスは気付く。


バロスの酒場にいた少年だと。


あの時の美しくも妖しい……まるで絵画の中からそのまま抜け出てきたような容姿。


_____間違いない。



「クスッ、よろしく……金髪皇子様。」



少年もその事に気づいているのか、愉快そうに口角を上げ、こちらをを見ていた____。




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最後までご拝読頂きありがとうございますm(__)m


お目に止めて頂きありがとうございました!!



良かったら、お手間かもしれませんが、☆やコメントなど頂けると大変嬉しいです!!!

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わたくしごとですが、本日未明洗濯物の一つである、ぱんちゅが空中に舞い、隣の隣接されているアパートの二階通路に落下致しました。


「やっべぇえええええええええええええええ」


不幸中の幸いとでも言うべきなのでしょうか、偶然空中を優雅に舞うぱんちゅを発見でき、すぐに対処出来たのです!!!


通路に誰もいないことを確認すると、猛ダッシュでぱんちゅを拾い、屈んだら………


ジャストフィットで目の前に設置されてあった部屋のドアが開き、3秒ほど互いに沈黙の時間を過ごしました。


分かります、そうでしょう。


玄関を開けたら、ぱんちゅを手に屈んでいる人がいるのですから………


いあ、はい、わかります。


どうしたものかと、一応そのままの態勢でお辞儀をしましたら、相手側も無表情で返してくださり、そのままお出かけになられたのですが……


ほんと、まじで3秒が30分に感じられるレベルで恥ずかしかったです。


しかも、その時のぱんちゅがセクシーダイナマイトなものならいざ知らず……


ミスマの安売り時に購入した中学生っぽい…ぱんちゅだったんです!!!!


ほんと、色々はずかしったです。




















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