第5話 再来
______ガチャ。
「次の方どうぞ。」
サツキは、ロロから半強制的に受けさせられた「セムナターン国騎士団員募集」の面接会場にいた。
参加人数が多いのだろう、既に3時間も待たされている。
「こんなに応募者がいたとは、意外すぎるお!!しかもこんなエレガントな場所が面接会場とは………セムナターン国はお金持ちじゃのぅ~~~」
ロロの言う通り、面接をするだけの会場にしては、やけに豪勢な気がしていた。
天井を見上げれば、いかにも高級そうなシャンデリアが幾つも陳列され、床には細かく織り上げられた最高級のペルシャ絨毯がびっしりと敷き詰められていた。
騎士を募集すると書かれていたからには、腕に自信があるヤツらを募集しているのだろう。だが、この場所はそういった輩が集まるには、あまりにも不釣り合いな場所に思えた。
「おい!! いつまで待たせんだよ?!! こちとら6時間もここでジッとしてんだぞ!!」
一人の男が痺れを切らす。
まぁ、それも当然の反応だとサツキは思った。
見渡す限り男ばかりの寿司詰め状態の中、椅子に無言で、しかも長時間座らせられているのだから。
どう考えても、この状況の方が異常に思えてならなかった。
一人の男が騒ぎ出すと、それに便乗し、我慢も限界に達した男達が一斉にヤジを飛ばし始める。
「サツキは、怒らないの?」
一緒になってヤジを飛ばせとでも言うのか、ロロの瞳は何故か好奇心の色で満ち溢れていた。
「興味ないし、疲れる………。」
正直な感想だった。
ヤジを飛ばせるだけまだ体力が有り余っているいい証拠だとロロの言葉を吐き捨て、腕を組みなおし、順番が回ってくるまで睡眠を補おうと目を閉じる。
だが、予想よりも早い段階でその時はやってきた。
「5232番の方、どうぞ~」
ロロは呼ばれた番号と、手元にある紙の数字を照らし合わせ、急いでサツキの肩を揺らす。
「サツキ!! おきて!! 順番きたお!!!!」
ロロの声に目を開け、大きな欠伸をしてから席を立つと、近くにいた男がサツキの目の前に立ち、行く手を阻む。
「おいおいおい、こんな呑気に寝ているようなヤツを先に呼ぶってどういうことだ? テメェどーせ弱ぇーんだろ? 順番譲れや!」
大声を上げ威嚇するように告げる男は、血管を浮き上がらせ、今に食ってかかりそうな勢いだ。
だが、そんな様子に目もくれず、サツキは男の横をスルリとすり抜け、呼ばれた部屋のドアノブに手をかける。
「なに無視してくれんだぁ? あぁ?!!」
勢いよくサツキの肩を握り、ミシミシと音を立てながら指を力強くねじ込ませる。
するとサツキは面倒くさそうに、自分の右肩に乗せてあった男の手をはぎ取って見せると、そのまま曲がるはずのない方向へと折り曲げ、ついでにと言わんばかりに、男の膝を正面から砕くように蹴り折ってみせた。
ガクンと片膝をつき、強烈な痛さに唸り苦しむ男を前に、ニッコリと口角を上げ、サツキは恍惚の笑みを向ける。
「…………一生跪いていられるように、粉砕してあげたから、言葉通り這いつくばって生きるといいよ」
___きっとそれがあんたには、一番似合う。
ボソリと呟き、サツキはそのままドアを開け消えていった。
男はその背中を、ただ見上げる事しか出来なかった___。
****
室内に入ると長い机とその後ろに、人の面接官らしき者達がズラリと一列に座り、部屋の中央には椅子が一つだけポツンと置いてあった。20畳はありそうな広い部屋にも関わらず、それ以外の余分なものは一切置いてない奇妙な空間がそこには在った。
「お待たせしてすまなかったね。まぁ、座りたまえ」
「最初に幾つか質問をするから、答えてもらえるかな?」
促されるまま椅子に腰かけ、面接官の問いに頷いて答える。
「君、歳はいくつかな?」
「17。」
「どうして騎士団に?」
「生活費の為かな。」
予想外の答えだったのだろうか、面接官は顔を見合わせてから、サツキへと視線を戻す。
「何故ここで試験が行われたか分かるかな?」
「さぁ?」
「君は、待たされている間、席を一切立たず、寝ていたそうだね。」
「長いからね。」
「どちらかというと、君よりもそちらのペット君の方が真剣に起きていたように見えたけど?」
「そうかもね。」
「生活費に困っているなら、何故装飾品を盗んだりしなかったのかな?見張りなんて誰もいなかっただろう?君なら、誰にも見つからずに大量の装飾品を盗み出すことなど容易いのではないかな?」
ロロがいなければそうしただろう。
実際騎士団でバイトするより、早く確実に大金が手に入ったことは間違いない。
ただ、ロロがそれを許すとは思えず、動物を虐待してまで金に拘りがあるわけでもなかった。
「実際、盗みを働いた人間は大勢いたし、あんな綺麗な絨毯にツバまで吐く輩もいた。」
まぁ、そうだろうなとサツキは思った。
こんな縁遠い小奇麗な場所で見張りもなく、周りには煌びやか装飾品の山だ。
しかも、長時間待たされているときている。誰だって盗みたくもなるだろう。
「私たちが探しているのはね、殺し屋ではないんだよ?「待て」と言われたら待つ。「捕らえろ」と言われたら捕える。「殺せ」と言ったら殺せる。そんな人間なんだ。痺れを切らして動き回るなんてあってはならない。ましてや、盗みなど言語道断だ。この街はそんな輩が多すぎる。」
要するに逆らわず、ただ無心で任務を遂行できるドMを探しているというわけだ。
「そして君は見事微動だにせず、ただ「待つ」ことに専念できた。それは稀有な事だ。もうこの部屋に足を踏み入れた時点で第一面接は終了しているんだよ、それで最終面接なんだけどね、この場所ではなく………、」
「その男は、最終面接は不要だ。」
面接官の言葉を遮り、奥の部屋から出てきた男は「元帥」と呼ばれ、面接官は一同に深々と頭を下げる。
「この男には、セムナターン国行きの切符をやっておけ。」
指示通り、面接官は急ぎサツキの元へ一枚の封筒と切符を差し出す。
「それを持ってすぐにセムナターン国へ向かえ。」
その男の顔を確認したサツキの口元に笑みが零れ、背中を押されるように部屋を出ると舌をチラリと出し、不敵な笑みを覗かせた。
「元帥殿、本当に最終面接をさせなくても良かったのですか?」
恐る恐る面接官達は、男へ問いかける。
「ああ、させなくても分かる。全身から血生臭さがビンビン漂ってきていたしな。それに、おそらくここ数日で大量の血液を浴びている。」
「そ、そんな……じゃ、あの少年は危険人物じゃないですか?! セムナターンに入国させて本当によろしいのですか?」
「構わぬさ。モノは使いようだ。」
男はそれだけ告げると、再び奥の部屋へと姿を消した。
******
切符を受け取り会場を後にしたサツキは、出発時刻を確認する。
「………午前1時発。」
「なんでわざわざそんな真夜中に出発するんだお?」
「さぁ?」と首を傾げながらも、どこか笑ってみえる表情にロロは酷く違和感を覚えた。
「サツキ、その封筒の中身は何が入ってるんだ?」
手紙の内容はファルス国が攻め入られ壊滅した旨と、姉妹国であるセムナターン国にも危機が訪れるかもしれないという可能性についての話が主だった。
法を守り、取り締まりの強化と共に、違反者の早急な確保と不審人物の捜索などと言った依頼内容が、紙3枚分びっしりと書き記されていた。
「なんて書いたあったのだ?」
「要するに、自分たちも滅ぼされそうで怖いから、罪人を始めに怪しいヤツは問答無用で牢へとぶち込んでくれって話。」
「………おぉ、セムナターン国は、大きいし警備大変そうだもんね。」
ロロの言う通り、セムナターン国は大都市な故に、常に警備隊は不足している状態が続いていた。
人口と土地に見合う人数を確保出来ていなかったのだ。土地がやたら広いわりにはそこまで人口がおらず、商業国ということもあり他国の人間が駐在し、商売していることも多い。
結果、人はいるが他所者が多く、警備が足りていないという現状のようだ。
「ファルス国が亡くなっちゃったから、警備を強化しているんだよね?」
「そうみたいだね。」
「………なら、サツキが行くのはどうかな、って思っちゃうね。」
「行けって言ったの、誰だったっけ?」
「ボ、ボクだけど。でもさ、まさかその破壊した本人を自国の騎士団として招き入れてしまうって、どう考えてもマズイと思うの!」
「詐欺っぽいよな。」
「さ、詐欺って………。やっぱ詐欺なのかな………?首謀者を捕えようとしているのに、その首謀者が取締る側にいるって………もうカオスだよ。」
頭をブルブルと振り回し悩みぬくロロの姿に、クスクスと笑い声をあげ、頭を優しく撫でる。
「大丈夫、ロロのせいじゃない。」
「………むぅ。笑い堪えながら言われても説得力ないよ!!!!!」
*****
時刻は午前1時。船の出発時刻だ。
乗客はサツキを入れ、5人。
全員合格者だろうか、同じ封筒を手にしていた。念のためサツキはフードを深く被り、足早に船内へと移動する。
「………ねぇ、そこの真っ黒さん。ワタシ、シルヴィーよろしくね。」
突然声をかけられた事実よりも、話しかけてきた女性の奇抜すぎる服装にサツキの目は奪われていた。
桃色の髪を一つにくくり上げ、20㎝はありそうな程の高いヒールに、スッカスカの胸を見せつけるような小さな布だけを装着し、下半身は………、もはや下着だけだと言っていいほどの状態だった。
遠慮気味に短い腰巻きが備え付けてあるが、意味を成していないと言える。
「な、なに………、そんな目で見ないでよ……ね……」
何かを激しく勘違いしているように、シルヴィーと名乗る女は頬を赤らめ、サツキに不審な視線を送る。
「サツキ、この子女性なの? 胸ないお?」
「なっ………!」
ロロの言葉に一切悪気はなかったが、当然の如く女は激昂しロロの尻尾を掴むと、激しく振り回し始める。
「あるの!あるの!あるの!あるの!あるのぉ~~~!そんな失礼な奴は極刑にするぅ~!」
シルヴィーはロロをそのまま床に叩きつけ、太ももに備え付けていた短剣を取り出し体重を乗せ、一気に突き立てた。ロロに刺さる寸でのところで、シルヴィーの手首はサツキに強く掴まれ、ピクリとも前に動かせないでいた。
「………離して。」
「たかだか………、事実を指摘されたくらいで我を忘れるほど怒り狂うなら、そんな服装やめたら?」
地雷を踏んでしまったのか、シルヴィーは俯き無言のまま生気が抜けてしまったようにその場へ崩れ落ちた。
「分かってるわよ………、でも、でも………なかったら見せつけたらいけないってゆーの…………」
「いや、誰もそんな事言ってない……が?」
「胸がなかったら、女じゃないってゆーのぉぉぉぉぉおおおお!!」
「…………別になくてもいいんじゃ?」
目が周りフラフラと船の上を彷徨っているロロを抱きかかえサツキが呟くと、シルヴィーの表情に生気が戻る。
「そうよね!なくても女の子は、女の子!!!」
一人で納得し深く頷くシルヴィーをよそに、サツキはロロの看病に手を焼いていた。
「ちょっと、聞いてるの?!」
同意を求めていたにも関わらず、まるで返答を告げないサツキを振り向かせようとフードを引っ張り、強引に自分方へと振り向かせる。深くフードを被っていた為、素顔を見ることが叶わなかったシルヴィーは、今初めてサツキの顔を知る。
「ぽか~ん」
全身黒尽くめの見るからに怪しい恰好からは、想像も付かないほどの容姿にシルヴィーは思わず呼吸を忘れ、舐めるように観察し始める。
少し長めの漆黒髪は耳が隠れるほどの長さで、揺れる髪の奥には血のように赤いメッシュが見え隠れしている。陶器のように白い雪肌の上には、宝石を交えたような真っ青な濃いブルーの瞳がシルヴィーを捉え、見れば見るほど作りモノのじみたその容姿に、ただただ息を呑む他なかった。
熱視線に耐えかねてか、サツキは再度フードを深く被り直し、未だ呆然と口を開け立ち尽くしているシルヴィーを背に、船内の用意された部屋へと向かった。
「………サツキ、あの人大丈夫かな?」
「さぁ?お前と同じ反応していたな。」
********
長い船旅を終えたのは、乗船してから3日経った昼頃だった。
「長い旅だったわねぇー」
大きく背伸びし、久しぶりの大地を踏みしながらシルヴィーはサツキの後ろを追っていた。
「サツキも、王城に行くんでしょ?どんなところなのかなぁー。ワタシ、セムナターン初めてなのよねぇ~~~」
「シルヴィー、何故ついてくるのぉ?」
「なに、ロロ、一緒に行っちゃダメって言うの?」
「いや、そういう訳じゃなく、距離が…………。」
サツキの背中にピタリと張り付くように歩くシルヴィーに、ロロは困惑しながらも横へと視線を移す。
ロロの心配など気にも止めていないサツキは、シルヴィーの行動にも一切興味なく「害がないなら別にいい」と言った宣言通り、空気のように扱っていた。
「ロロ、ここか?」
到着した王城を指さし尋ねると、ロロは飛び跳ねるようにサツキの肩から降り、案内すると言わんばかりに先頭を歩く。
「ねね、サツキ、後ろにいる金髪、皇子様っぽくない?」
シルヴィーの言葉に振り返り確認すると、そこにはバロスの酒場で会った金髪の男がいた。その隣には婚約者なのだろうか、一人の少女がクラウスにエスコートされ歩いている。
サツキは「へぇ~」と、口元を微かに緩ませてからすぐに視界を戻し、城の中へと足を進める。
「サツキ、手紙によると、どうやら二階っぽいお」
螺旋状に広がる階段を上ると、そこには大きなエントランスがあり、様々な恰好をした者達が
_____ガヤガヤ。
「ユキ!怪我してるから、それ以上動かないで!」
下の階から突然、クラウスの声が響く。
サツキはその場からは動かず、視線だけ騒ぎのあった場所へ落とすと、派手に転んでいる少女の姿が目に入る。
「痛そうだったね………、足から血が出ちゃってたよ………」
心配そうに呟くロロに、すかさずサツキが一言付け加える。
「………鼻からもな。」
手紙に記載されていた部屋の前へと到着すると、扉の横で待機していた兵士が二人がかりで重い扉を開け、中へと促す。
___ようこそ、セムナターン国へ。
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最後までご拝読頂きありがとうございました。
初めてコメントなど頂き嬉しく思います。
本当にありがとうございます。
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なろうでも同じ名前で書いています。
そちらの方が結構進んでいます。
合わせるためにも、夜にでも一気に転載していけたらなと思っております。
読んでくださった方々、本当にありがとうございますm(__)m
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