第4話 奇妙な出会い

**今回は時間軸が少し戻り、クラウスと遭遇した時のサツキくんバージョンになります。ダークでしかなかったサツキくんの日常になるので、ダークな描写はほぼないです。

クラウスの時とはまた違う、サツキくん視点での物語を愉しんで頂けたら嬉しいです。頭がどっかおかしいサツキくんを、期待してくださっていた皆様、すいません。


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瓦礫と化したファルス国を背に、サツキはデニスが書いたと思われる、一通の手紙をその手に握りしめていた。


封蝋すらされていない手紙を取り出し、興味深そうに読み進めていく。

目を通し終わった頃には、まるで血に飢えた獣のように真っ赤に瞳を染め、鋭く抉る殺気だけをその場に残して、ゆっくりとその場から姿を消した。



*********


サツキは、近接していた街であるバロスに到着すると、その足で酒場へ向かい、酒……ではなく、イチゴミルクをカウンター席で静かに一人、飲みふけっていた。ガヤガヤと騒がしい店内も、サツキにはいいツマミになり、既にイチゴミルクは3杯目に達していた。


それもそのはずだ。

サツキが居るすぐ後ろの席で、何やら面白い密談が行われていたからだ。


内容はこうだ。


【ファルス国の滅亡について】


数時間で破壊された事がどうやらお気に召さない、そういった様子に見えた。最初に話を持ち出したのは、同じカウンター席へと腰を下ろしていた、見るからに金を持ってそうな金髪のお坊ちゃん。たかだか、一晩の酒の奢りを条件に、近くにいた他の客がベラベラとお喋りをしだした、というわけだ。


グラスを傾け、ゆっくりと口へと運びながら、サツキは可笑しくて仕方なかった。何時間で壊滅されようが、何日で破滅しようが、亡くなってしまった事実は、決して揺らぐことはない。だが「そいつら」は、壊滅された時間ばかり気にしていた。


重要なのは「そこ」ではない。


時間ではなく、破滅したという事実そのものだ。


「誰」が「なんのため」に破壊したのか、この一点に尽きる。


戦争をする素振りも、実際にしていた記録すらないにも関わらず、そんなくだらない事で頭を悩ませられる事自体が、サツキには滑稽に思えてならなかった。



「だが、数時間でファルス国を壊滅出来るとは思えない。」



結局、金髪の少年はそう結論付けたのだ。

それを聞いたサツキは笑わずにはいられなかった。もし、数日単位でファルス国を潰したとしても、絶対的に戦争記録が残る。例え1日だとしても、大人数で押しかけて戦をすれば、近接にあるバロスは確実にその事実を知り得ただろう。


だが、バロスでそんな情報はない。

ならば、答えなど明白だ。



___アホらしいな。



サツキは、つまらなさそうに残ったイチゴミルクを一気に飲み干すと、後ろから妙な視線を向けられている事に気づく。


あの金髪のものだ。口元を微かに緩め、席を立つと、男も同時に席を立ち、こちらの様子を伺っている。



「あの………」



呼び止めるような声をわざと無視し、サツキは金をカウンターへ置くと、そのまま出口へと向かう。すると、男は何が気になったのか、サツキの後を追いかけ声を張り上げた。



「ちょっと、まって!!」



このままだと、どこまでも追ってきそうな予感がしたサツキは、静かに足を止め、ゆっくりと振り返り、男と視線を絡ませる。だが、男は何かを発する様子もなく、ただ呆然とサツキを観察しているだけだった。


あまりにも鬱陶しい視線に、サツキは踵を返し、男の視線を背中に感じながらも、街灯一つ備わっていない暗闇の中、振り返ることもせず歩き続けた。


宿に着いたサツキは、羽織を脱ぎ捨て、返り血で汚れていた服を着替える。白かった着物は、色鮮やかな赤にその色を変え、見事な模様を描いていた。



「やっぱ、白は目立つな………」



吐き捨ているように呟くと、今度は黒着物へと身を染める。



「これで汚れが落ちなくてもいいだろ………」



そう、黒はもう………、何色にも染まることのない色なのだから_____。






******


宿で一夜を過ごしたサツキは、バロスの船着き場に来ていた。少し寝すぎたせいで、時刻はお昼を回ってしまっている。眠気で閉じそうになる瞼を必死に堪え、【イルガンド大陸】にある【ラムトゥ】行きのチケットを購入する。


時間に余裕があることを確認してから、船着き場から少し距離のある噴水広場へと足を向けた。

肌に纏わりつくような暑さを、冷たい噴水の霧が和らげてくれる絶好のスポットだったからだ。


目的の場所に到着すると、設置されていたベンチへと腰かける。いい具合に木が濃い影を造りだし、昼寝するには最適な場所といえた。大きな欠伸と共に、睡魔が襲ってくるのを感じ、横になろうと身体を倒すと____。



「ぶぎゃ!!」



突然、自分の下から聞こえてくる謎の声。


慌てて身体を引き上げると、そこには奇妙な生き物らしき何かがいた。見た目はキツネのようだが、かなり小さい。


手のひらに乗りそうな大きさで、真っ白な毛色の先からフワフワとした尻尾が、ユラユラと風に乗り動いている。光の加減だろうか、尻尾に美しいクリアブルーが透けて見えた。



「……あんた、何してんの?」



目の前で尻尾をブラブラさせている生物に、サツキが目を細め問いかける。睨みつけるように黄金こがね色の瞳を、サツキに向けたその生き物はベンチに仁王立ち、頼んでもいない自己紹介を始める。



「初めまして、サツキ。ボクはロロ。君が喰らってしまった精霊のマブのダチだぉ~~」


「……は?」


「だから、君が喰らった精霊の仲間だってば!」



【喰らった精霊】ということは、あの幼女の知り合いということか。


サツキは怪訝そうにロロを見つめてから、「用件は?」と興味なさそうに呟く。



「……ねぇ、普通自分が喰らった精霊の友人だって言ったら、あれ、オレちん殺されちゃうのかな?!とか、思ったりしないの?」



想像もしていなかった質問に、サツキは少し頭を悩ませる。



「いや、別に。」


「ふぅ~ん、じゃ、殺しちゃうぉ?」



ロロの真っ白だった毛並みは、いつの間にか金色へと変化し、地を割るほどの覇気を身に宿し、更に精気を滾らせていく。


うなるように全身の毛を天へと向け、ビリビリとした電撃は嵐のようにロロの周りを囲い、その口元には鋭い牙が見え隠れしていた。


サツキはその光景を、まるで他人事のように黙って見つめ、ソッと笑みを浮かべる。

次の瞬間、ロロの周りを循環していた電流は瞬きする間もない速さで、サツキに降り注いでいった。



「あれ?死んだかにゃ?」



自身の攻撃がサツキに届いたのを確認し、ロロは頭を捻る。



「いや、死なないでしょう。アレじゃ。」



目の前にいたはずのサツキの声を後ろから感じ、勢いよく振り返ろうとしたが、尻尾を掴まれる方が早く、すぐに視界は反転する。



「あぁ~、尻尾握ったらダメ~」



逆さ吊り状態でブラブラと左右へリズムを刻んでいるロロに、サツキはニコリと微笑み、告げる。



「で、喰われたいの?喰われたくないの?」


「喰われたいわけあるか~~~~い!!!」



それ以外になんの目的があるのかと、サツキは首を傾げると、ロロは一度咳払いをし、ひとまず降ろしてくださいと頭を下げる。



「あ、改めまして……その……ロロと言います。よろしくお願いします!!君が喰らってしまった精霊の仲間で、君をずっと見続けていた守護霊でもあります!!!!」



ストーカー宣言をした生き物に、どう言葉をかけていいものかサツキが悩んでいると、ロロは急に真面目な雰囲気を醸し出してから短い足を限界まで伸ばし、ベンチの上で正座する事に成功すると、そのまま体を前へと倒したのだ。



「………土下座?」


「そう、THE・土下座です!これからキミと一緒にいる許可を貰いたいのです!」


「………は?」


「ボクはキミを見守るという義務がある!これはキミの中の精霊との盟約なのですよ!」


「いや、遠慮します。」



サツキは深く土下座をしながら頼むロロから、クルリと方向を変え「時間だ…」と、船着き場へと急ぎ向おうとするが、右肩にズッシリとした重みを感じ、視線を移す。


そこには案の定ロロの姿があり、どんなにサツキが強く引き剥がそうと力を入れても、必死にしがみつき全く離れる気配がない。ロロが他に何か目的があり、肝心な事を隠していることは明白だった。


だが、力の限り抵抗する表情があまりにも必死で可愛く見えたため、サツキはわざと大きなため息をついてみせ、同行を許可した。


船着き場まで到着すると、ちょうどラムトゥ行きの船が出発前の確認作業を行っていた。


足早に乗船し、サツキ達は船の出発を待った。





**********


3日かけて、船はイルガンド大陸東に位置するラムトゥという街へ到着する。船着き場を出ると、そこはハイス大陸とはまるで違う別世界が展開していた。


天まで届きそうなほど高くそびえ立つ高層ビルの数々に、魔導力を利用した摩訶不思議な乗り物が空中を優雅に走り抜けていた。



「ぽかぁ~~~ん」



ハイス大陸から一度も出たことのなかったロロには、あまりにも衝撃的な景色だった。


イルガンド大陸は独自に発展を遂げた工業都市で、その中でもラムトゥは、よりマニアックな発展を遂げており、世界中から最先端の専門技術者が一同に集う魔学国でもあった。


その影響で、街並みは近未来的な空間を演出し、科学を捨てた他国とは違い、その技術を魔法で生み出す「魔学研究」に全てをかけているレアな都市としても有名だった。



「初めてなのか?」



サツキの問いに、瞳を爛々らんらんと輝かせたロロが深く頷いた。興奮しているのか、尻尾がバタバタと動いている。



「ところで……お前何食うの?」


「??? なんでも?」



ロロの返答を聞くと、顎に手をやり、何やら考え込んでから切り返す。



「ネズミの死骸でも?」



サツキの言葉に、頭から湯気を出したように怒り出すロロを見て、なんでも食べるわけではないことを認識し、ひとまず動物ショップへと足を向けた。ズラリと動物が飼育されているゲージを横目に、サツキはドックフードを眺め、選定していた。



「え?まさかと思うんだけど……ボクにドックフードを食べさせようとか………思ってたりする……?」



当たり前だと言わんばかりのサツキの表情にロロの顔色は、みるみる青ざめていく。



「大変申し上げにくいのですが……ボク、ドックフード嫌です。というか、サツキと同じモノを分けてくれたらそれでいいのです!」


「雑食なのか?」



予想以上に、心配そうに聞いてくるサツキに、ロロは少し困惑し、激しく頭を縦に振る。



「はい、なんでもいいのですよ!」



その言葉に「ふぅ~ん」とだけ残し、吟味していたドックフードコーナーを名残惜しそうに離れてから、ペットショップを後にした。


次にその足で向かったのは、見上げるのが辛いほどの高層ビルの中。どこに行くのかと尋ねるロロに、「251階」とだけ告げ、直径3mほどの正方形型の枠へと入ると、青い光が足元から全身を包み込むように上昇し、飲み込まれたと思った時には既に目的の階層へと到着していた。



「ぽかぁ~ん」



すっかり見慣れたリアクションに口元を緩め、訪れた先は武器屋と看板が出された店だった。



「いらっしゃ……よぉ、サツキ! おかえり!!」



気軽に声をかけてくる様子から、ただの店員というより友人と言ったほうがしっくりきた。



「あぁ……、で、早速で悪いんだが、コレ………」



サツキは、腰にかけてあった一本の刀を差しだす。真っすぐと汚れ一つない白銀の刀は、穢れを知らない幼女のように無垢で神秘的に見えた。



「まさかとは思うが……壊したのか?」


「………欠けた。」



ボソリと申し訳なさそうに呟くサツキに、店員の肩はがっくりと落ちる。



「どんな使い方したら、この白銀刀が欠けるって言うんだよぉおおおおおお!!!」


「………案外脆いな。」


「脆いわけねぇーーーだろがっ!!この俺様が丹精込めてお前のために三月みつきも寝る間を惜しんで魔力を込め続けた逸品なんだぞ!!!」



涙目で訴えてくる店員に苦笑するサツキだが、刀の出来には満足していた。



「あんだけやってもまだ足りないとなると、少々時間かかるかもな……。


「どれくらいだ?」



刀を鞘から抜き、刃先をライトに当て確認する。



「一ヶ月………、で完璧に直してやっから、それまで待ってろ。」


「………分かった。それでロウ、頼んでたのは?」


「あぁ、出来てる。」



ロウと呼ばれた店員が店の奥から取り出してきたのは、先程の白銀刀とは対照的な漆黒の刀だった。


白銀刀とはついで造られた刀で、黒光りする鞘から抜き出すと赤黒い独特の輝きを放つ、魔刀と呼ばれる武器だ。



「黒死刀が出来上がった途端、コレだもんなぁ~~~」



呆れ顔で、そう言い放つロウは、チラリとロロへと視線を投げ、気になっていたことを問いかけてみる。



「で、コレなに?」


「………ロロ。」


「………名前じゃなくて、種類。」


「さぁ………?精霊?」


「精霊が巫女以外に見えんのかよ?!」


「さぁ?」



精霊や妖精といった類のものは、限られた血族にしか見えないと言われており、その一族は代々巫女族として保護されており、指定された地域以外に出ることは禁忌とされている為、一般人は会うことすら叶わないほどの高貴な立場とされている。


よって、ロロが精霊であるはずがないとロウは言う。だが、サツキは内に精霊を飼っているからか、ロロから「ソレ」と似た匂いがすることを知っていた。



「ボク、精霊だよ?」



突然喋りだした動物に、まさか言葉を話すとは予想もしていなかったロウの好奇心は一気に高まりを見せる。



「おい。サツキ!コイツ喋るの?」



ロウの問いに頷いて答えると、マジマジとロロを観察し、「へぇ~」とだけ呟き、深く追及することはせずにすんなりと喋る奇妙な動物を受け入れた。



「で、料金なんだが、そもそも俺の生み出す武器は、ここいらでも相当根が張る代物ばかりで…………」


「じゃ、頼んだ。」



ロウの話を初めから聞く気など毛頭なかったサツキは、そのままヒラヒラと手を振りながら店を出る。



「ちょっと待てえええええええええええ」



ロウにいちいち金を払っていたら破産することを承知しているサツキは、いつもサラリと金額の話を交わし、店を出る。


ロウはとても有名な武器職人で、魔力も1級品ときている。世界中からロウの打った武器を購入すべく、店を訪れる人が後を絶たない。


要するに金持ちだ。



「なんでお金払わないのだ?」



ロロの問いに、シニカルな笑みで返答を告げる。



「………もしかしてお金ない………とか?」



鋭い指摘に目を反らしながらビルを出ると、ロロが横髪を引っ張り「残高見せろ」と騒ぎ立てるせいで、仕方なく左手の人差し指をクイッと上に向け、魔法コードを展開させる。

目の前に現れた透明のディスプレイに、一気に数字が記入されていき、最後に記載された金額を目にした瞬間、ロロの表情が変わる。



「…………24,030ガルド。」


「だな。」


「…………仕事しろおおおおおおおおお」



このままでは生活出来ないとロロに諭され、仕方なく依頼を受けるために紹介所へと足を運ぶ。サツキは最低限のキャッシュさえ手元にあれば、あとはその辺の奴から金を奪取すればいいという精神の持ち主だっため、今まで労働という労働をした経験がなかった。


初めて訪れた紹介所は、予想以上に混みあっており、その日暮らしの労働者が所狭しと受付に並んでいた。



「ほら、サツキも並んで!」



ロロに案内されるがまま、受付に並ぶと近くの看板に「急募」と書かれた依頼が張り出さている事に気づく。受付に並んでいる間に依頼内容を熟読したロロは、髪は引っ張りサツキに目を通すよう促した。


張り出された紙には、セムナターン国の臨時騎士団の募集と書かれていた。



「セムナターン国に用ない。」



サツキが切って捨てようとすると、ロロがそれを止める。



「報酬額が$$$$$$」



瞳を$マークに輝かせ、「コレにしてええええ」と耳元で喚き散らすロロの気合は凄まじく、拒絶するだけの元気を持ち合わせていなかったサツキは「分かった、分かった」と、ロロのお願いを受諾する他なかった。




____依頼人はイザエルか。



ロロはボソリと頭の中で呟いた____。





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最後までご拝読頂き、ありがとうございました。


お手間かもしれませんが、コメントなど頂けると嬉しいです!!!



良かったらまた、次話にもお付き合いくださいませm(__)m




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