第二部 私とキミ

01

 リンッ――


 今日もキミがやってくる。

 キミが歩くたびに鳴る鈴の音がキミの接近を知らせる。背中に背負うかばんに結ばれたストラップについている鈴の音――それは私の指にあるものと同じ音色を奏でる。

「モモ? どこにいるの?」

 キミはどうしてきもせずに私のことを探すのだろうか? もう私のことは見えてないというのに――。

 社の前で立ちすくむキミの隣に私は立っている。それでもキミは私には気付かない。

 私はキミに気付いて欲しくて――だから、私はキミが来るたびに小さな悪戯いたずらをすることにした。


 キミの正面に立ち、目の下を指で引き下げしたを出してみる。しかし、キミは気付かない。

 今度は飛びっきり変な顔をしてみせる。それでもキミは気付かない。

 キミが境内けいだいの中で私を探すために歩き回るすぐ後ろをぴったりと付いていく。やっぱりキミは気付かない。

 社に上がる階段に座るキミの耳のそばで「ミチ。私はここよ」と、声を掛ける。そこまでしてもキミは気付かない。

 結局何をやってもキミは私に気付くことはなかった。

 私はキミの隣に並ぶように座り、左の指にあるものを貰ったときのように空にかざして見つめる。それは光にかざすととても綺麗で私は好きだった。キミが立ち上がり移動し始めたので、あわててかかげた手を下ろす。そのときの振動で、リンッ――と鈴が鳴った。

「モモ?」

 キミは音に気付いたのか私の方に振り向く。私とキミは目が合い、それが嬉しくて声を掛ける。

「ミチ、やっと気付いたんだ。私はいつも――」

「気のせいか。鈴の音が聞こえたんだと思ったんだけどな……」

 私の言葉はキミには届かず、途中でキミの声にさえぎられる。目が合ったと思ったのは私だけで、キミはやはり見えてなかった。

「私はいつもここにいるんだよ――」

 私の言葉は誰に届くわけもなくむなしく彷徨さまよい、消えていく――。

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