歓迎会


「ここの村はね、本当に心温かい村なんだ。赴くたびに情熱的な歓迎をしてくれる」


 村の名物『シラヌ鳥の親子鍋』を眺めながら、アシュは地酒をクイッと口に運ぶ。両脇にシルミ3姉妹の長女ベネスと次女パールパティが座る


「はい、アシュ様。あーん」

「あっパールパティ、抜け駆けずるーい。アシュ様、こっち向いて。あーん」

「こらこら。慌てない慌てない。僕の口は一人だけなんだから」


 イチャイチャ。


 いわゆる、ハーレム状態である。


「……アシュ様。本当はこんなこと言いたくないのですが、一つよろしいでしょうか?」

「君の言いたいことはわかるよ、ミラ。彼女たちと仲良くし過ぎて、生徒たちが、疎かになっていないかという心配だろう? やっぱり、真面目な性格の人形だな君は?」

「一文字も違います」

「そうか。だったら、後にしてくれ」

「……かしこまりました」


 秒で消滅してくれ、と有能執事はいつも通り主人の死を願った。その後、ミラはかなり端の方にいる生徒たちの前まで来た。出された料理はアシュのそれと同じである。


「ミラさん。見てー、これ美味しそうでしょう? 一緒に食べない?」

「ありがとうございます、シス様。しかし、残念ながら仕事がありますので。それよりも、これは少し食材が傷んでいるようですね。皆様、食べないでいただけると」

「……っ」


 皿を並べていたレースリィ=シルミの動きが一瞬止まる。


「申し訳ありませんが、変えて頂けますか? 大事な方々ですので、万が一でもお腹を壊されたら私はお詫びのしようがございません」

「あ、あのでも。もったいないですし」

「でしたら、あなた方でお召し上がりください」

「……っ、わかりました。すぐに、下げます」


 褐色肌の美少女は慌てて、鍋を引っ込めて逃げるように去って行く。


「えーっ、少しぐらいいいのに。お腹減ったよー」


 食いしん坊男子のダンがミラに甘える。


「申し訳ありません。ですが、すぐに来ると思いますので」

「ちぇ。ミラさんの料理の腕は超一流だからな。さすがに、片田舎の料理だと多少の悪さはご愛敬だと思うけど」

「私はご主人様からあなた方の体調管理を任されておりますので」

「真面目ー!」


 ドッと笑いが弾け、生徒たちはワイワイと楽しげな声をあげる。


「そーんなミラさんに比べて、あのバカ教師は、なーにを鼻の下伸ばしているのかしら」

「……そうですね」


 リリーはアシュを眺めながらプリプリと顔を林檎のように膨らませる。一方で、ミラはアーンされているエロ主人を眺めながら相槌をうつ。


 ちなみに彼がアーンされているのは猛毒である。


 ミラの見立てでは、シラヌ鳥の親子鍋には無味無臭の即死性毒が36種類ほど入っている。食材の半分が、毒。肉も、毒を食らって育てられた特殊な鳥で、舐めるだけでも即死するほどの猛毒である。


 ただし、その効果は30分後に効くようになっている。


 当然、不本意ながらミラはアシュを守るような指示に縛られている。しかし、その進言をしようとした時に、アホ主人がそれを制止した。


 もう、知らん。いや、むしろ頼むから死んでくれ。


 そんな事とはつゆ知らず、頭の中がめでたい彼は、アーンされて猛毒を積極的摂取中である。


「これは……美味いな。この肉はドサンタルコ産のマニュ鳥じゃないかな?」

「……っ、そーでーす!」

「……」


 嘘である。


 シラヌ鳥と言ってるのだから、シラヌ鳥だろう。


 そして、30分が経過した。























「っと。少し、酔っ払ってきたみたいだね」

「……っ」

 


 

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