到着
*
『アシュ=ダール様御一行』。『我らのアシュ様。こっちです→』『はやく会いたーい! 待ち遠しいです』シルミ一族の村へと向かう道すがら、至る箇所にそんな横断幕が掲げられていた。
「ああ、いつ来てもここの歓迎は素晴らしいね」
白髪の魔法使いは誇らし気に語る。どっからどう見ても典型的な詐欺的手口であるが、まったくと言っていいほど、手放しで褒め称える危険察知能力マイナス魔法使い。
そして、もう一人。意外にも、超世間知らずのお嬢様育ちであるが故に、物事を素直に捉え、目の前の事象に頭を悩ませる女子がいた。
リリー=シュバルツである。
「な、なんで……信じられない」
この闇魔法使いが手厚く歓迎されることなどあり得るだろうか。このおしゃべりクソ野郎が。キチガイ魔法使いが。性格破綻者が。
いや、あり得るわけがない。
「そ、そうだ……幻術。みんな、気をつけて! 私たちは幻術にかかってるわ!」
「ククク……君はまだ、おこちゃまで、世間知らずも甚だしいから到底理解に及ばないかもしれないが、大人の紳士というのはいついかなる時も需要はあるのだよ。そもそも、容姿、財産、才能、この3つが完璧に備わった僕がモテない道理など、ある訳がないのだよ」
「そ、そんなバカな……いや、幻術よ。幻術だわ」
「り、リリー! 何やってるの!?」
「離してー! このおかしい目をくり抜くの! 邪魔しないでー!」
シスが慌てて、両目に指を突き刺そうとしていたリリーを止める。そんな中、いつものように有能執事がスッと前に出る。
「不詳ながら、私には幻術が効きません。この光景がおかしいかおかしくはないかで言うと、甚だおかしいと言わざるを得ませんが、少なくとも幻術ではないと断言ができます」
「はぁ……はぁ……それじゃあ」
「まったく。現実を直視できないほど、なにも見えてないとはね。いい加減に気づきなさい。目の前の僕は、女性からモテモテのモテ紳士であることを」
「そ、そんなわけない……嘘だ……嘘よ」
金髪美少女は勝手に頭を抱えて悩みだす。そして、隅っこに寄って膝を抱えて現実逃避を試みた。
「フッ、事実をありのままに捉えられないことは悲しいね」
「……」
一方で、ダンマリ執事は事の真相を知っている。
そんなわけ、ねーじゃん。
もはや、
毎年毎年懲りもせずに、罠に引っかかりに行くのは、なんだかんだでなんとかしてしまう異常な生存能力のせいだろう。このキチガイ主人の無駄な有能さが、その能天気さに拍車をかけている。
「「「「……」」」」
一方で生徒たち(リリー=シュバルツ以外)もバカではない。エリートと言えど、それなりに世間の荒波に揉まれている彼女たちは、だいたいそんなことだろーなーと想像している。
だが、同時にリリーの言う通り、幻術であるかもしれないと言う可能性も疑っている。執事のミラは幻術にかからないと言うが、その光景すら幻術であったなら。
先ほどのアシュの話もあって、生徒たちはみな慎重に静観する。
そんな中、シルミ一族の村に馬車が到着した。
「アシュ=ダール様ー! よく来てくださいました!」「10年ぶりですよね、片時も忘れてなかったー」「私のことを覚えてます? 忘れちゃ嫌ですよ」「は、は、は初めまして! 私はレースリィと申します」「この子も、アシュ様のこと好きなんですって」
わいわい。
イチャイチャ。
「ククク……こらこら、君たち。僕は一人しかいないのだから。まあ、僕の身体を切り刻んで、バラバラにしたら分けあえるかもしれないが」
「「「「「……」」」」」
ドッ。
数秒の沈黙の後、一斉に笑い声が木霊する。
「さ、さすがは面白い冗談ですわね」「ほ、本当にバラバラにして持って帰りたい」「わ、私も少しでもアシュ様の髪の毛でもいいから」「ほ、本当に……うぷっ」
「……大丈夫かい? その子は気分が悪そうだが」
「あっ、大丈夫です。この子……レースリィは初めてアシュ様に会って緊張して吐き気を催しているだけなので」
「だったらいいが。そうだ、紹介するよ。これが、僕たちの教え子ーー」
そうアシュが振り返った時。
<<聖獣よ 闇獣よ 双壁をなし 万物を滅せ>>ーー
村長の家が、聖闇魔法で、吹き飛んだ。
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