シルミの三姉妹(2)


 すぐさま、長女のベネスは、妹のレースリィの腕を強く掴みながら、村の中心にある大きな家に入った。そこには、かなりの歳を経た老婆が座っていた。


 ジルコム=シルミ。彼女はシルミ一族の長老である。しかし、若かりし頃、暗殺者として慣らした彼女の面影はそこにはない。顔はシワだらけ。細い足であぐらをかいて、膝の上に小さな孫たちを乗せて、ボードゲームに勤しんでいる。


 レースリィにしてみれば、彼女はいつも穏やかな表情で、自分たちを見守っていてくれている、孫に優しいただのおばあちゃんだった。


「おやおや……そんなに慌ててどうしたんじゃ?」

「長老! アシュ=ダールが来るそうです!」

「……っ、なんじゃと!? あの最厄がなにをしに?」

「ひっ……おばあちゃん」


 クワッと瞳をガン開きにして、ジルコムは老人とは思えない速度で立ち上がる。果ては、膝に乗っていた孫たちはゴロゴロと転がり、泣き出し、「うるさい! 黙っておれ!」と一括する始末。

 怒気というのでは、生ぬるい。殺気……いや、怨念、妄執に近い感情をしわくちゃな顔全面に表していた。

 

「ほら、レースリィ。話すんだ!」

「い、痛い痛いベネス姉様。わかったわよ」


 褐色肌の美少女は、腕を抑えながら手紙の内容を伝える。もうすぐアシュがここに来ること。幻術を教わりに来ることなどを、一言一句違わずに報告した。


「幻術を教わりに? いったい、どの面下げて……」

「安心してください。私が今度こそアシュ=ダールを殺してみせます。すでに、パールパティも準備しているでしょう。必ず……必ず……」

「ちょ、ちょっと待ってよ、お姉様。おばあちゃん。そのアシュ=ダールという魔法使いがいったいなんだって言うの?」


 彼女たちのあまりの取り乱しように、レースリィは思わず聞き返す。

 長老のジルコムは、若干落ち着きを取り戻し、震える手を抑えながら、息を小さく吐きながら語り始める。


「……もう、今から100年以上になるか。儂が20代の若き乙女であった頃、アシュ=ダールと言う魔法使いは、突然ここに来た」

「えっ……てことは、その人は、もうおじいちゃんなの?」

「ヤツは不老じゃ。残念ながらな。この前も、ヤツはまったく同じ外見で姿を現した。まったく、忌々しい」

「……」


 不老。誰もが一度は憧れる能力だが、それを保有しているとは。恐らく、魔法の類なのだろうが、優秀な魔法使いであることは確かなようだ。


「……それで、そのアシュと言う魔法使いはなんのためにこの村に来たの?」


 レースリィはゴクリと喉を鳴らす。ここは代々優秀な暗殺者を輩出する村。しかし、誰の依頼でも受ける訳ではない。もちろん、報酬の面では桁違いに高いし、それなりのステータスも考慮に入れている。


 直接ここまで来たと言うことは、なにかとてつもない暗殺を依頼されたのだろうか。闇社会の要人抹殺の依頼……いや、各国王族の抹殺? それとも、歴史に名を刻まれている偉人。


 いや、しかし。暗殺者というのは依頼を受ける側で、交渉については常に別の場所で行われる。本拠地にまでわざわざ乗り込んでくると言うことは、何か他の理由があると言うことか。


 このシルミ一族の暗殺? いや、しかし一人の魔法使いが単独で乗り込んでくるなど、あまりにも無謀過ぎる。このアシュ=ダールという魔法使いにはそれほどの戦闘力が備わっているという……

















「女性だけが暮らす村があると聞いて、ぜひ立ち寄ってみたくなった……ヤツはそうほざいたよ」

「ほぇ?」


 

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