刺客
*
<<光なる徴よ 聖なる刃となりて 悪しき者を 断罪せよ>>ーー
「ぐあああああああああっ!」
「はぁ……はぁ……次から次へと」
無数の光の矢を放ったリリーは、忌々しげにつぶやく。ダルーダ連合国の国門をかいくぐった後、アシュ一行を乗せた馬車は、幾多の刺客に襲われた。当然、超攻撃的金髪美少女が撃退に出るが、間髪なく戦力が投入され、次第に押され始める。
他の生徒たちも代わる代わる戦闘に出るが、彼らも相当疲弊している。特に唯一の近接格闘の専門家であるシスは、守りの要となっているので、彼らの倍ほど疲れている。
「「「「……」」」」
生徒たちは全員、馬車内の役立たず闇魔法使いを見る。数時間の間、なにもしていないこの男は、たまにニヤけたり、小刻みに震えたり、読書をしたり、とにかく役立たずなのである。
「はぁ……はぁ……ちょっとくらい手伝ってくれたって!」
「なにを言っているんだね、リリー君。前も話したが、これはダルーダ連合国の試験だよ。君たちが試されているのに、なぜ僕が助け船を出さなければいけないのだね?」
「ぐっ……」
金髪美少女は思わず黙るが、同時に疑念も湧いてくる。刺客たちは圧倒的な殺意をもって襲いかかってくる。それこそ、殺傷能力の高い極大魔法など何度放たれたかわからない。明らかに自分たちを亡き者にしようとしているように思える。
もちろん、リリーや他の生徒たちよりも有能な魔法使いではない。しかし、彼らは刺客を殺さないように気遣いをする必要がある。特に、リリーは聖闇魔法を封印せざるを得ないことから、かなりのフラストレーションが溜まっていく。
「んもー―――――――――!」
「はぁ……まったく。うるさいな。思考の邪魔になるだろう?」
「……っ」
<<聖獣よ 闇獣よ 双壁をなし――「ちょ、リリー! 落ち着きなさい!」「離してー! あいつを殺すのー! 消滅させるのー!」
馬車の中でくつろいでいるアシュに向かって聖闇魔法を放とうとするリリーを、満身創痍のシスが羽交い締めする。そんな彼女たちを見ながら、闇魔法使いはフッとため息をついてせせら笑う。
「まったく……自分の実力の未熟さを棚上げにして、八つ当たりするなんて、君は情緒不安定な異常者だな。いい精神病院を紹介するから通院しなさい。そうすれば、君も少しはマシな人間性になるだろう」
「……っ」
リリーは、あまりの怒りに怒りを忘れた。怒りの頂点に達しすぎて、逆に怒りが抑えられて冷静になる作用がある。ある意味で
「し、仕方がないじゃないですか! 私たちは手加減して戦ってるんですから! せめて、聖闇魔法を使う許可をいただけたら、私はすぐにでもこの場を支配して差し上げますが!?」
「好きにするといい」
「……えっ?」
「使いたまえ。聖闇魔法でも中位悪魔召喚でも。君の好きにするがいいさ」
「……で、でも」
闇魔法使いがあまりにもこともなげに許可を出したことについて、戸惑う金髪美少女。
「どうしたんだね? 僕は、殺さない方がいいとは言ったが、殺してはダメだとは伝えていない」
「……」
「君は人を殺す時に、人に許可を求めるのか?」
「……」
「覚えておきなさい。許可を求めているうちは半人前だ。自分の意志で、自らの責任で行動することができる者は一人前だ。せめて、人の命を奪うのならば一人前でありなさい」
「……」
「ねえ、リリー。頑張ろう?」
シュンとする金髪美少女に、シスが満面の笑顔を浮かべた。
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