出発
闇魔法使いの無邪気な微笑みを見て。
バルガは思わず戦慄を覚える。アシュの恐ろしいところは、人間の本質を善悪の概念なしに受け入れること。
数は力であるという至極まっとうな理屈。そんな卑怯を許容する。すでに、ギュスター連合国の大臣たちは、今後アシュに逆らうことはないだろう。
弱き者が強き者に媚びることを、本質的に見抜いている。
必然的に、ダリオ王と大臣たちの戦力は拮抗することになる。利を得たのは、アシュ=ダール。今後、彼の気に入らぬことがあれば、大臣たちの不正を抱えた彼は堂々と内政干渉をしてくるだろう。
そしてもう一人。
ギュスター共和国との架け橋となって。
ギュスター共和国との同盟を得て。
ギュスター共和国との均衡を保った人物がいる。
ライオール=セルゲイ。意図していたのかしなかったのか、様々な事象を経て、彼はほとんどなにをすることもなく、自身の目的を手に入れた。左に偏ることも、右に偏ることもなく、ただバランスを整えること。それが彼のイズムだとすれば、彼は労することなくそれをなし得たことになる。
ただ、そこに立ち。風を読むかの如く、そこにいるかのように、そこにいないかのように。善悪をある意味で操りながら。それは、まるで道化のように不気味だ。
白髪の老人はそんな心根を見せぬまま、困ったように笑いかける。
「さて……同盟の手土産としては些か刺激的な贈り物ではあったと思いますが、どうやらお気に召して頂けたでしょうか?」
「同盟?」
「ああ、アシュ先生には言っておられませんでしたね。今後、隣同士の国なので目に見える形で絆を作った方が良いかと思いまして」
「……確かに、文化祭もあることだし」
「……っ」
納得の仕方が意味不明。相変わらず、わけのわからないつぶやきを、ライオールは全てを見通したような瞳で頷く。どうやら、互いに認識は共有できているようだ。恐らく、なにかの隠語であることは間違いないとバルガは確信する。
元々は、ダリオ王派閥が、どう大臣たちを説き伏せるかが問題の焦点であったが、今ではまったく逆転してしまった。同盟に異を唱えるよりも、どうやってアシュ=ダールの機嫌を損ねないか。それだけに関心があるような者たちで溢れている。
「完敗ですよ。こうなれば、両国が一丸となり、他国にどう対抗するかを考えねばなりません」
少なくとも3年は。その間に、腐敗した大臣たちを駆逐し、政権の主導権を取り戻さなければ、汚濁を孕む政治はこの国が滅ぶまで続いていく。
「……バルガ総長、それは、違いますよ」
そんな中、ライオールの瞳がバルガの心の中を見据えるように囁く。
「どういうことですか?」
「彼らを駆逐することは正解ではない。アシュ先生が言っていることは残念ですが、真実です。汚濁を好むのは、むしろ多数。国民の方なのです。彼らは自らの利益のため、徒党を組み、政治家を応援し続ける。民主主義の代表である彼らは自らの鏡。彼らの選択は、彼ら民衆たちが望んだ結果であり、甘んじて受ける結末でもあるのです」
「……」
「仮に、国民が義を重んじる性格ならば、あなたのような政治家が生まれたでしょう。仮に、国民が卑怯が嫌いな性格ならば、ダリオ王のような王が不遇を囲ったりもしないはずだ。仮に、国民が怠惰でなければ、少なくとも彼らのような大臣をのさばらせておくこともない。民主主義の本質は、全て国民にある。都合の悪いことを政治家たちのせいにして、彼らを断罪するのはエゴです。むしろ、彼らと向き合い、自らのこととして捉え、1人1人が自らを変えていく努力をすること。その意識の改革こそが、この国には求められているのではないですか?」
「……まったく。あなたという人は、私には厳しい」
バルガは大きくため息をついた。
「ほっほっほっ。老い先短い私にはできませんでしたから。それは、承知していますよ。しかし、私はできない宿題を生徒には課さない。アシュ先生と同じように」
イタズラっぽい笑みを浮かべ、好奇心旺盛な老人の瞳は闇魔法使いの下へと向けられる。
「おっと。では、そろそろ失礼しようかな。ダリオ王、また文化祭で」
「……っ」
華麗に身を翻し、アシュは颯爽と玉座の間を後にした。
【お詫び+投稿ペース変更のお知らせ】
こんにちは。はなです。
急に毎日更新を途絶えてしまい、本当に申し訳ありません。ちょっと、首をやってしまいまして、痛すぎて、なかなかパソコンに向き合いませんでした。
ストックも1本もなかったので、いかんともしようがなく……反省です。
カクヨムの読者選考期間の今日まではなんとかと思っていましたが、残念無念です。
当分は毎週木曜日の投稿に戻させて頂きます。
こんなダメ作者ですが、懲りずにまた覗いてくだされば幸いです
今後とも何卒よろしくお願いします。
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