玉座の前(2)


      *


 午前2時。城の裏へと潜りこんだミランダ、ダン、ジスパ。他の部隊は、それぞれ別のルートで向かっている。狙うは、ダリオ王の寝室。この襲撃は彼らにとって予測できない事態のはずだ。必然的に警備は薄いはず――


「ミランダ……警備が滅茶苦茶厳重」

「な、なんで!?」


 元々、この城はかなり堅固に建築されていて、攻めるのが難しい。それにも、加えて、警備が厳重だとすると、そもそも攻めること自体が難しい。


「ど、どうする?」

「……」


 ミランダは一度ゆっくりと考える。まだ、今なら引き返せる。自分が他国の就職をあきらめて、自国の堅実なところにでも仕えればいい。


 でも……


 アシュ=ダールという教師を見ながら、その自由さに憧れを抱いた。他国に行ったことのない彼女は、自分の力を1人で確かめて見たかった。

 彼が嬉々として自分の冒険譚を語るのを、本気で羨ましいと思った。


 平民だったミランダにとって、ナルシャ国の気質は息苦しい以外の何者でもなかった。隣国のギュスター共和国は、いい意味でも悪い意味でも弱肉強食の国家である。身分の垣根を越えて、自分1人の力で何ができるかを試してみたい。


「行きましょう。でも、もう5分待って」

「えっ……なんで? 行くなら……」

「恐らく、爆弾娘が、待てない」


 自分が感じるような躊躇を、恐らくリリー=シュバルツは感じない。厳重な警備を目の当たりにして、『燃えてきたー』とでも心の中で叫んでいることだろう。


          *


「燃えてきたー!」

「ちょ、ちょっと姉さん! そんなに大きな声で叫んじゃ、聞こえちゃいますよ!」


 城の上空から。翼を羽ばたかせた悪魔ベルセリウスがリリーの背中をもって飛翔していた。もちろん、その警備体制の穴を伺っていたが、これほどまでに厳重ならば、そんな繊細な対応を求められることはない。


「い、一旦撤退して――」

「撤退? なんで?」

「……っ」


 キョトン。本来あるまじき悪魔の忠告を、キョトンとしながら耳を傾ける金髪美少女。求められていることは、派手な行動。それならば、


「ちょ、ちょっと落ち着いて見手くださいよ。こんな上空で――」

「玉座の間には、今誰もいないわよね!?」


 これは、あくまで試験だ。人殺しは駄目だ。だからこそ、最も目立つ方法は何か。相手の国の象徴的な場所を攻撃する。それ以上に目立つ手段が他にあるだろうか。


 いや、ない。


<<聖獣よ 闇獣よ 双壁をなし 万物を滅せ>>ーー理の崩壊オド・カタストロフィ


 聖闇魔法。交わるはずのないの理を合わせることで超崩壊を起こす極大魔法。主城の中心に張られた幾重もの結界を無効化しながら、光と闇が入り混じった超攻撃は、玉座の間へと一直線に向かう。


 ドッカーン!


 盛大に開けられた大穴は、玉座の間の中心に突き刺さった。


「よし!」

「……っ」


 恐ろしい。もはや、悪魔ですら恐れるほどの行動力と大胆さ。人が本来感じるであるはずの倫理感がまったくと言っていいほど持ち合わせていない。自分を目立たせるためならば、もはやどんな手段でも講じるのではないかと思わされるほどのキチガイモンスター美少女。


          *


「……」

「……」

「……」


         ・・・













 3人は、もう、ドン引きだった。




 

 



 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る