分析
まず、ミランダが考えたことはリリー=シュバルツの扱いである。彼女の戦闘能力は他の群を抜いている。メンバーの中で唯一聖闇魔法を放つことができ、悪魔召喚、天使召喚の両方を行うことができる。指に魔力を込め、極大魔法を相殺できる新技術を編み出し、最近では中位悪魔の召喚すら可能になった。
ただ、チームワークとして組み込むには不安がある。
彼女の自己顕示欲の高さは異常だ。その優秀な能力は捨てがたいが、このような隠密行動には圧倒的に向いていない。やはり、彼女は単騎で戦場に送り込むのが最善の策だ。
しかし、敵は近接格闘をもこなす魔法戦士隊。そして、戦闘経験も百戦錬磨をこなす強者たち。果たして、彼女が生き残って帰れるのか、疑問である。
「……」
どんな最悪な事態になっても、リリーが死ぬという光景が思い浮かばない。とてつもない逆境でも、地の底でも、奈落の底でも、確実に生き延びて生けるだろうと、ミランダは思い直す。
「やっぱり……リリーには単独で戦列をかき乱して欲しいんだけど」
「わかった!」
「……っ」
ニパーっと満面の笑みを浮かべる金髪美少女に、ミランダの罪悪感が止まらない。
しかし、最悪、彼女ならば斬り捨てても、なんらかの手段で這い上がってくるに違いない。
「いい、リリー。一つだけ約束して。彼らは私の同僚になるかもしれないから。絶対に、殺しは駄目だからね。絶対に、殺さないで」
「……わかったけど、なんで私だけに言うの?」
リリーは幾分納得できていない表情だったが、全員は心の底から同意した。
彼女がやり過ぎるのは、平常運転である。どちらかと言うと、死ぬ心配と言うよりは、殺す心配の方が大きい。
「さて……」
不確定要素(リリー)の排除が終わったところで、ミランダは戦力分析に取りかかる。まずは、なんと言ってもシス=クローゼがこの誘拐作戦の肝となるのは間違いない。近接格闘において、唯一彼ら魔法戦士隊と渡り合える人材だと言っていい。
そして、ナルシー。彼女も、元セザール王国のエースである。闇魔法の腕と多彩な魔法はリリーすらも凌ぐと言っても過言ではない。
アシュの
「……戦力を3つに分散しましょう。リリーは単独。ナルシーとシスはペア。私とジスパとダン。この組み合わせで3ルートを攻略する」
「さ、更にわけるの? 力がかなり分散されない?」
「能力の均衡を保てば、どこの駒からでも狙うことができるわ」
相手はこちらの戦力を知らないという前提で戦術を組み立てる。本命がわからないとすれば、どこかに本命が隠されていると疑うのが、優れた軍略家だと言える。
その中でも若干リリーが悪目立ちするだろうことを差し引いて、残りの二つで突破可能かを模索する。
「ふむ……いい感じだね」
そんな中、アシュが部屋の中に入ってきた。
「リデール君とシス君は以前の戦いでもコンビネーションが特に光ったし、残りの3人は元々チームワークがある。なによりもリリー君を単独に敷くことによって、彼女の力を最大限活かそうという細やかな気遣いもいい」
「そ、そうですか……エヘヘ」
嬉しい。
これから、国家敵大犯罪チームを編成する美少女は、褒められて非常に得意げである。
「軍略家というのは、机上での戦いになりがちなところがある。しかし、本当に重要なのは戦力分析だ。バルガ君はもちろん優れた軍略家だが、正確な情報を把握できなければ、誤った判断をすることもある。その点、君の情報把握能力は素晴らしい。あとは、現場での戦術的柔軟性を発揮すれば、必ずミッションは成功する。みんな、頑張りたまえ」
「「「「「はい!」」」」」
全員の声が一丸となった。
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