画策
*
当然であるが、アシュが画策したことは、超国家的な犯罪である。企てることすら血縁すべてにおいて死刑になるほどの大罪。
彼らのようなトップエリートがなぜそのような思考に至らなかったのか。
「ククク……人は本質的に行動を決めてもらいたいという願望がある。パニックに陥った彼らを導くための道さえ作ってやれば、救いを求めるかのように歩くものさ」
宿泊しているホテルの一室で、アシュはワインを口にしながら笑う。
「もはや、私にとってアシュ様を見損なうことは非常に難しいことだと思っていましたが、それはどうやら誤りであったようです」
「フッ……それほどでも」
「……」
褒めてねーよ、とは有能執事の想いである。
これ以上下がることのない評価がまた下がってしまった。地面を掘って掘って、掘りまくって、溶岩が出るほどの低評価だったが、今では冥界へと届かんばかりの超低評価と成り下がった。
別の部屋で生徒たちはワイワイ、ガヤガヤと絶賛超犯罪ミッションを遂行中である。
テンションとしては、まるで旅行中のイベント気分。
「まあ、旅の資金はこちらが抑えてるから、彼らはそう言った意味でも従わざるを得ないだろうね。金というものは、時に便利な道具となりうる」
「……私、今日ほど人形で良かったと思った日はありません。でなければ、存在する全ての臓物を、吐き出してしまいそうなほど嗚咽していたでしょうから」
ミラは心の底から侮蔑を評したが、キチガイ魔法使いはそんなことはおかまいなしに話を進める。
「ところで、バルガ君はどうしてるかね? さすがに、彼ほどの優秀な軍略家がこのまま引き下がるとは思えないのだがね」
「ダリオ王の無事は確認したようです。十中八九、こちらの思惑には気づいていたようですが、王の警備が万全になるまでこちらを襲ってくることはないでしょう」
要するにミラは、選択肢を示すだけでよかった。ダリオ王という弱点が疎かになっていることを。当然、バルガもそれは把握していた。
しかし、アシュ一行がギュスター連合国に入国することなど予想外の出来事であったので、対策を講じる時間が絶対的に足りていなかった。
「……万全の警備が完成するまで、どれくらいの時間がかかると思う?」
「3日……いや、バルガ様ならば、1日もあれば十分でしょう」
「ククク……ならば、万全の警備体制を敷いたバルガ君を出し抜いて、僕の生徒たちはダリオ王を誘拐する訳だね?」
「……はい。そうなります」
このような謀略となると、アシュという男は無類の強さを発揮する。ミラの渡した情報を確認した時に、即断でミランダを焚き付け、彼女を協力するという名目で、生徒たちを自らの手駒とした。
彼ら若者にとって、友情というものは極上のスパイスだ。
もちろん、百戦錬磨のバルガに対し、生徒たちが勝てるはずはない。
しかし、彼らは極上の餌となる。あの歳で兵となる子どもも多くいるこの国では、バルガはアシュの放った刺客と見るだろう。
本命はロイドとミラで攻め込む。
捕縛された生徒たちは、当然すぐには殺されない。ある程度の尋問は受けるだろうが、彼らはそもそも試験だと思っているから真実は吐かない。どんな魔法をかけられたとしても、真実を知らない生徒たちにアシュの思惑が抜き取られることはない。バルガはますます混乱するだろう。
「でも……彼らが暴力を受けないか心配です」
「ああ、それはないよ。その間に、生徒想いのライオールが事実を突き止めるだろうから。当然、彼らを見捨てられぬ彼は、バルガ君を必死に説得するよ」
「……」
ミラは自分の渡した紙をその場で破り捨てたかった。
しかし、有能執事は主人に対して有益な情報を隠すことはできない。
『ダリオ王はボードゲームが趣味』と書かれた、その紙を。
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