三つ巴


 テスラ、ランスロット、アシュの三つ巴の戦い。金髪の大聖女は『守る』ためにならば、戦うことを自らに許可している。ランスロット、アシュに対し、争わせぬことを誓わせ、聖櫃であるシスを守る。


 一方で、シスとリリー自身も揺れていた。めまぐるしく変わる状況。今までは、ランスロットという敵だけだったが、テスラが来たことで、敵と味方がわからなくなった。


「二人とも、こちらへ来なさい」

「で、でも……」


 テスラの提案に、リリーとシスは戸惑いの表情を浮かべる。2人がアシュよりはテスラ側に近い倫理感を持ち合わせているのは確かである。


 生徒の前で、アシュがここまでの狂気を見せることはなかった。極端で、残酷で、おぞましい。彼女たちの戸惑いもかなり大きい。

 しかし、心情としては違う。あまりにも勝手なランスロットの主張に怒りと憎悪が湧いているのも事実である。


「なにもアシュ先生と『戦え』と言っているのではありません。このような不毛な争いに、あなたたちは参加すべきではありません」

「「……」」


 シスもリリーも先ほどの発言はブラフであると見なしているが、アシュのそのような行動を取るならば、見過ごす訳にはいかない。


「リリー君、起きているかね?」

「は、はい!」


 優雅に地面に座っているアシュはリリーの方に視線を向かわせる。彼女は彼がいったいなにを言うのか、全力で耳を傾ける。


「テスラ君に向かって聖闇魔法をぶっ放せ」

「……」

「……」


          ・・・


「……はい?」


 リリーは思わず聞き返した。決して聞こえなかったわけじゃなく、脳が拒絶した。それは、至ってシンプルな言葉だったが、到底受け入れられぬゲス発言だった。


「聞こえなかったのかね? 僕に反逆する者は、誰であろうと許さない。君は僕の教え子だ。言わば、僕の道具である君は、彼女を滅殺する義務がある。僕の意志を持って尖兵となり、戦うのだ」

「ふ、ふざけないでくださ――――――――――――――い!」


 サン・リザベス大聖堂中に元気満々な声が響き渡った。


「き、君の肺活量はどうなっているのかな!?」

「最低! 最低! 最低! 最低! 最低! 最低! 最低! 最低! 最低! 最低! 最低! 最低――――――――――! 教師って、普通は生徒を守る者じゃないの!? しかも、よりによって殺せだなんて……できるわけないじゃない!」

「……それは、初耳だね。教師とは生徒の生殺与奪を全て自由に決められる権利を持つ者だという認識だが」

「そんなわけ訳ないでしょ! バカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカ――――――――――――!」


 そうわななきながら。リリーは全力で走りシスと合流。敵対するアリスト教守護騎士も手を出さず、彼女たちの様子を見守った。

 この時この瞬間、倫理的にも、心情的にも、テスラに完全同意することとなった金髪美少女である。むしろ、今この瞬間にでもアシュに聖闇魔法をぶっ放す気満々である。


「シス! 絶対に確定的に完全不可逆的にテスラ先生の味方よ!」

「で、でも……」

「でもじゃない! あのバカ教師の言うことを忠実に守ってたら、テスラ先生を攻撃しなくちゃいけないの! そんなことできる?」

「……できない」


 常にアシュ側にシスは戸惑いながらも同意する。倫理的、心情的にテスラに分があったとしても、恋情的にはアシュの方に寄っている蒼髪色の美少女。

 しかし、テスラに牙を向けることは違う。


「……アシュ先生。本気でテスラ先生を殺す気なんですか? 嘘ですよね?」

「ふっ……シス。僕は、冗談ジョークは好きだが、嘘は嫌いでね。テスラ君が僕の邪魔をしようと言うのだから仕方がないだろう?」

「……」


 ミラは嘘つけ、と思った。お前、嘘しかつかないじゃん。と言うより、存在そのものが嘘みたいな男だ。


 決して埋まらない溝。80年以上もともに過ごしたミラでさえ、理解できないのだ。

 アシュ=ダールが生きてきた300年は20年も生きていない彼女たちが許容するには膨大すぎる時間だった。


 しかし、ランスロットという男は、アシュの思考を読み、テスラという女はアシュの心を理解する。三つ巴の戦いとは、単純に強さだけでは勝てない。


 誰と組み、誰を排除するかが最も重要な要素である。この時、戦闘能力が一番優れているのはアシュ陣営。

 しかし、闇と光で切り離してみれば、テスラを要する彼女がいるあちらが有利だ。


「……複雑な戦いになるね」


 アシュはボソリとつぶやいた。





 

 

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