決裂
「……なぜ、あなたがここにいる?」
まず、言葉を吐いたのはテスラを幽閉した張本人、ランスロットだった。自力では脱出できるはずのない牢獄に軟禁したはずだった。
しかし、彼女の隣に立つ男を見て、その謎が解けた。元13使徒の裏切り者、サモン大司教の側近であったセナである。
「彼が私をここまで導いてくれました」
「……」
数日前のセナは酷く痩せこけ、虚ろな瞳をしていた。正気かどうかすら疑わしいその様子から打って変わって、その瞳は輝きを取り戻し、生気に溢れている。
打って変わった様子に、ランスロットは一種の不気味さを感じる。
「テスラ先生……無事だったんですね。よかった」
そんな中、シスが心の底から安堵の表情を浮かべる。金髪美女は、蒼髪美少女の髪を優しくなで、アシュの方に視線を向かわせる。
闇魔法使いは、彼女が突然出現したことに驚いた様子は見せない。テスラはそんな彼に向かって真っ直ぐな瞳を向ける。
「戦いを終わらせてくれませんか?」
「それは……随分勝手な話だね」
「彼女たちは私を助けに来てくれたと聞きました。この通り無事です。そうであれば、戦う必要などはないでしょう?」
そう言いながら、テスラはシスの肩を後ろから抱きしめる。青髪の美少女は、アシュに向かって全力で首を縦に振る。シスとしては、争うことを好まない。テスラが無事だとわかった時点で、これ以上の争いをする気にはなれなかった。
「ククク……それが勝手な物言いだというのだよ。シス君に、『永劫命を狙われ続けなさい』とでも言うつもりかね。彼女の身の安全の保証。最低限、今回はそれを確約してもらう」
アシュはそう答えて首を横に振った。交渉ごとはあくまで自分が主導権を握らなければ気が済まない。と言うより、アシュはテスラが無事なことはわかっていた。彼の本来的な目的は、シスの保護である。
「……ランスロット。身を引きなさい。ここで、全滅するのは本意じゃないでしょう」
「まだ……私は負けていない」
「往生際の悪い。私が助けなければ、あなたはシスの攻撃を受け、確実に倒されていましたよ。あなたはまだ若い。この経験を糧に、より成長なさい」
テスラは厳しい表情でランスロットをたしなめる。ひととおり思うところがあったのだろうか。彼はしばらくの沈黙を経て、やがて首を縦に振る。
「……わかりました」
「その発言を信用しろとでも? 生粋の嘘つきである君の発言に、なんの効力があると言うのだい?」
「……神に誓おう。嘘はつかない」
アシュの追求に対し、ランスロットはそう答える。
しばらく、彼の瞳を除いていたが、その瞳には一瞬たりともブレはない。やがて、フッと大きくため息をついた。
「……仕方がないな。では、僕も神にでも誓おうとするかな」
「信用できないな。貴様は、息を吐くように嘘をつく」
「嘘にまみれた君に言われたら、流石に僕も恥ずかしい。では、悪魔にでも誓おうか? ククク……」
そんな2人のやりとりを経て。
「では、アシュ先生、ランスロット。互いに私と契約魔法を結びなさい。『決して危害を加えないこと』『未来永劫、シスを狙わないこと」
「「……」」
そう提案するテスラに、2人は同意も否定もしない。ただ、沈黙を保ち、互いに瞳をぶつけている。
「どうしましたか?」
「契約魔法は結べない」「僕も同じだよ」
「……やはり、嘘なのですね」
テスラの悲しい瞳に、ランスロットは複雑な表情を浮かべ、逆にアシュは歪んだ笑顔を浮かべる。
「聖櫃はアリスト教にとって絶対に必要なものだ。どれほどの犠牲が出ようと、どれだけ卑怯だ卑屈だと罵られても、私は手に入れてみせる」
「ククク……僕も譲れないね。一時的に和解するフリをして、後で1人づつ捕らえるのもありかと思ってたんだがね。そんなに甘くはない」
闇魔法使いは、額を抑えて笑う。
「殺すに決まっているだろう? 仮に、僕がここから逃れたら、未来永劫一人ずつ、捕らえていくよ。目には目を。
「……」
アシュの物言いを、テスラは当然のように受け止めた。
やはり、この男が許すはずがないと。
「僕はね、神とは違って平等だから。僕に危害を加えようとした彼らを監禁する。解剖もするよ。もちろん、意識などは持たせたまま。爪も、手も腕も足も首も皮膚も。一つずつ彼らから剥ぎ取っていく。指を一本一本切り刻んで、煮込んで、どれだけわめいたとしても、どれだけ許しをこいたとしても、絶対に許すことはない。ただ、僕に刃を向けたことを未来永劫後悔して、嘆きながら死んでいくのさ。ククク……ハハハハ、ハハハハハハハハハハ、ハハハハハハハハハハハハハハッハハハハハハハハハハハハ」
その高高しい笑い声に。
目まぐるしいほどの狂気に。
「……ならば、仕方ありませんね」
テスラは戦闘の構えをとった。
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