チーム編成
人間チェス。通常のそれとは違い、互いの手駒(生徒たち)を使って
「と言うことなのだが理解して頂けたかな?」
キチガイ魔法使いは、即興で勝手なルールを提案する。
「……生徒はどうやって選ぶんです?」
「まあ、公平なのはそれぞれ一人ずつ選抜していくことだろうな」
「わかりました。ただ、選抜は生徒たちに聞こえぬようにやりましょう。順位づけなどしたら彼らの心を傷ついてしまいます」
「「「「テ、テスラ先生」」」」
生徒たちは、慈愛に溢れた教師の気遣いに感動を覚える。
「まあ、僕がルールを提案したんだ。君の修正案を受け入れることには依存はないが、理解はし難いね。人間というものは常に競争にさらされている。彼らには自分たちに対する評価を聞かせてやる方が今後のためだと思うがね。人というのは、自分の立ち位置を思い知ることで向上心というものが芽生える」
「そんな競争だけの社会が幸福を生みだしますか?」
「ククク……君の言う『幸福』がどんな定義なのは置いておいて、歴史上、社会なんて得体の知れないものが幸せだった試しはないね。誰もが個人の欲望を追求していった先に満足感というものは訪れる」
「今、ここにないからと言ってそれを追い求めない理由はありません」
「誰がそんなもの追い求めるんだい? 求めるのは社会というものの中で幸福を享受する者か、脳内にお花畑が咲き乱れている君くらいなものだろうよ」
「……残念です。なかなかわかり合うことは難しいようですね」
「そんなことはないさ。首都ジーゼマクシリアの高級レストランの席は、毎日君のために空けている。煌びやかに輝く無数の魔街灯を最上階から眺めながら、ブシュシャリアン牛のローストとボリュゴーニュス地方のワインを飲めば、互いの理解はより深まると思うがね」
さりげなく口説きにかかることも、アシュという男は決して忘れない。
「それは、先日お断りしたはずなので行きませんが、ここであなたと議論しているのも、生徒たちの時間を無駄にしてしまいます。そろそろ始めましょうか?」
「使われるだけの手駒などに気づかいする必要はまったくないと思うが。むしろ、彼らには僕の高尚な考えを聞くことでこそ成長が促せると考えているからね」
「「「「……」」」」
このキチガイ野郎、と生徒たちは心の中で罵倒した。
やがて、アシュとテスラは生徒たちから離れて選抜作業に入る。そんな中、闇魔法使いは有能執事に耳打ちする。
「どうかな?」
「なにがですか?」
「生徒たちだよ。ひさびさの僕にウットリとしていなかったかい? 僕の説得力がある意見に、ウットリとしていなかったかい?」
「……」
ああ、こいつの脳内お花畑咲き乱れてるわと、ミラは思った。
「意外ですね。リリー=シュバルツではなくシス=クローゼですか」
そんな勘違い耳打ちが繰り広げられていることなど知る由もなく、先行であるアシュの選抜に、テスラがつぶやく。あの金髪美少女は大陸一、二を争うほどの若手魔法使いである。国別魔法対抗戦も、彼女の功績がなくば優勝は叶わなかっただろう。
「シンプルに扱いづらいんだよ。アレはこの競技には絶対的に向いていない
「……なるほど。生徒たちの個性を見る能力はあるということですね」
テスラがボソッとつぶやく。
「で、君はどうする?」
「もちろん、リリー=シュバルツでいきます」
「ククク……君にアレを御しきれるか、お手並み拝見と行こうか」
・・・
生徒たちの選抜作業も終わり、アシュとテスラはそれぞれ校庭の端へと陣取った。あとは正午の鐘がなれば、
「私、テスラ先生のために頑張ります」「アシュ先生なんかには絶対に負けません」「みんな、頑張ろうね」「私、テスラ先生の授業を受けたいです」「絶対に、テスラ先生のために勝とうね!」
「みなさん、どうか、勝利することにこだわらないでください。私のことなどどうでもいいですから、どうか怪我をしないように。危ない場面があれば、必ずギブアップしてください。約束ですよ?」
「「「「……テスラ先生」」」」
チーム一同の思いは決まった。
一方。
「いいか、必ず勝つんだ。どんな卑怯なことをしようと、最悪不慮の事故が起きたとしても、勝つためならすべて許可する。僕が絶対の権力者であり、法律だ。僕の命令は絶対だ。異論反論は受けて立つが、叛逆や、反抗は許さない。僕が死ねと言えば死ね。裸踊りでも、窃盗でも強盗でも殺人でもなんでもやれ。僕のために奉仕し、僕のために生きて、僕のために死んでいけ」
生徒たちは、アシュのチームである身を激しく呪った。
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