夜明け


 夜が明けて。


 砦の扉を5人が開ける。


「……やあ、脇役諸君」


 開口一番、アシュの減らず口が炸裂。


「「「「「……」」」」」


 若干負けていて欲しかったと、即座に全員が思い描いた。


「ゼノスは?」


 レイアが一歩出て、尋ねる。


「死んだよ」


「……よく勝てたわね」


 素直にレイアは賞賛する。敵対したり、ともに戦うことでゼノスの強さがわかった。到底、自分では及ばないし、たとえアシュ以外の全員がかりでも無理だろう。


「むしろ、いくつもの偶然と幸運が重なって勝てたと言うべきだろうな。本来であれば勝てない相手だった」


「……」


「……いや、というより彼は負けたがっていたんじゃないかな」


「まさか」


「人の心はわからないものさ。世では敗北や死を否定的に捉える意見が多いがね。それを解放と捉える者もいる。彼も心の底では永久とこしえの生に疲れ果てていたのかもしれない」


「……」


「……彼は強かった……しかし、それ以上に哀しい男だった」


 まあ、僕にはどうでもいいことだがね。


 そうしめくくり、


「死体も回収した。マリアも、残った地下の死兵も財も研究材料も全てね。予想以上の成果でビックリしたよ」


 アシュは満足気な表情を浮かべる。


「おい、冗談じゃねえよ! 報酬は山分けだろう?」


 ロドリゴが今にも殴りかからんと詰め寄る。


「はぁ……脳筋戦士には詳細まで説明しなくてもいけないからダルいな」


「な、なんだと!?」


「君たちはゼノス討伐の報奨金を受け取ればいいだろう? 僕は気前のいい紳士だから、そんなはした金はくれてやるさ。僕の取り分はいらない」


「なっ……お前がそんな勝手に……」


「まったく。強欲極まりないね。君たちは言うなれば脇役さ。活躍度からしても、本来で言えば僕の取り分が99,9パーセントで君たちが0,1パーセント。もし、物語を書く作者がいればきっと扱いに困っただろうさ。『君たちの活躍を書くほどの場面シーンがない』ってね」


「ぐぎぎぎぎぎぎぎっ」


 な、なんて嫌な奴なんだと歯ぎしりをするロドリゴ。


「他ならぬ慈悲でこの僕が君たちに報奨金を譲ってあげると言っているのだ。感謝して、涙を浮かびこそすれ、自分勝手呼ばわりとは……まったく、知性がないということは悲しいね」


「「「「「……」」」」」


 まったくもっていつも通りフル稼働の性悪魔法使いに。


 死ねばよかったのにと、全員が思った。


「さて……もちろんサラ君には協力してくれたお礼はするよ。よく、勇気をだしてくれたね」


 ゼノスの隷属魔法を解いたあと、サラには再び彼の元に言ってもらう必要があった。もちろん、あの死者の王ハイ・キングに対峙するのは相当な覚悟が必要だったはずだ。


「……いえ。私の生まれた村ですから」


 少し誇らしげに。


 その豊満な胸を張る平民美少女を。


 撫で回すように観察するゲス魔法使い。


「僕は当分、ここの砦に籠って研究するから、たまに高級ワインでも持っていくよ。そのときには、満点の星空を見ながら夜のピクニックと洒落込もうじゃないか」


「……それは断ったはずですが」


「……」


「……」


「「「「……」」」」


           ・・・


「さっ……ということで、そろそろ僕は失礼するよ」


 公然と公式に徹底的にフラれたことを完全になかったことにして、闇魔法使いは背を向けて歩きだす。


「……アシュ!」


 レイアが大きな声で叫ぶ。


「なんだい?」


「あの……神導病の研究をするの?」


「まあね」


「……なんで?」


「なんで? 愚問だな。僕の狙うものは大陸魔法協会最優秀賞。全ての魔法使いの栄誉の頂点じゃないか」


「……嘘」


「嘘じゃないよ。君がどんな答えを求めてるか知らんが、それ以外に理由はないよ」


「……」


「それだけかね?」


「……あの」


 聞きたいことがいっぱいあったはずなのに。


 いざ、対峙すると言葉が出てこない。


「……君の父親であるシャールは」


「……」


「忌々しい男だったよ。彼と一緒に働いた期間は短いものだったが、それでも憎たらしかった。理想主義者で、意見を曲げない。ただ、真っ直ぐに迷わずに前だけを突き進む。しかし、弱き者には寄り添い、ともに涙を流す……そんな……男だった。確か、君のような眼差しをしていて、少しだけ懐かしさに駆られたよ」


 アシュは、フッと微笑んだ。


「……」


「そうさな……いつか……僕に時間ができて、気でも向いたら、君にその話をしてもいい」


「……うん」


「じゃあ……ごきげんよう」




















 闇魔法使いはそう言い残して、他の部屋へと消えて行った。


             第6章 END

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る