人形


 朝陽が昇り小鳥は元気に囀る中、ロドリゴとナイツはボロボロになりながら村に帰ってきた。


 八方を取り囲む一斉に襲いかかる死兵たちから、たった二人でよくぞ生きのびられたと思う。


 たった二人で。


 たった三人でなく、二人で。


『よし、行くぞ! ナイツ、アーー』の『シ』を言い終わる前には、すでにいなかった。ロドリゴは、キョロキョロした。ナイツも、めっちゃキョロキョロした。


 だって、決めたじゃん。


 三人で戦うって決めたんじゃん。


 死兵の頭を、ロドリゴはアシュの頭に見たてて戦槌で砕き、ナイツはアシュに見立てて極大魔法をぶっ放す。もし次に生き残れたら、必ずアシュを殺すという固い意志を持って。むしろ、その目的のために、なんとしても生き残ろうと二人の士気は最高潮になった。


            ・・・


「随分とかかったね……腕が落ちたんじゃないか?」


 ガタン。


 思わずロドリゴは、戦槌を落とした。ナイツは、その杖を落とした。アシュの言い草に、一瞬殺意すら忘れて、そしてまたとめどない殺意が湧いてくる。


「アシューーーーーーーーーーー、てめえええええええええええええええええええええええええええっ!」


「シッ……静かにしたまえ。淑女レディの前で失礼じゃないか」


 闇魔法使いはそう言いながら、豪奢な椅子に座っている美女の前で手を動かす。


「お、女連れこみやがったな……」


 もはや、開いた口が塞がらないとはこのことだ。


「失礼な……まあ、君は標準が失礼だから、この際大目に見るよ。彼女はマリアさんというお名前だ」


「初めまして……マリアと言います」


「……っ」


 この喧騒がまるで聞こえないかのように、深く透き通るような青色の瞳で彼らを見つめる。そのあまりの美しさに、無骨な戦士は振り上げた拳をさげる。


「まったく騒々しい。いっそあのままのたれ死んでくれれば……っとできた」


 そう言ってアシュが手をかざすと彼女の周りから闇が発生して霧散する。


「で、貴様はなにをしている?」


 ナイツが不機嫌そうに尋ねる。


「まったく……これを見てわからないかね? 彼女の周りにかけられていた闇魔法を解除したんだよ。全く……この僕に一晩を費やさせるとは」


 あの夜、実はマリアの周りにかけられた闇魔法を解除できなかった。苦し紛れに闇夜に紛れさせ、姿を眩ませる小細工程度の魔法。なんとかこれでやり過ごせるかと内心ヒヤヒヤしていた。


「パーシバルとレイアは?」


「前者は確か教会の神父が運び出してたな……まあ、興味がないからそこから先は知らないが。後者は残念ながらさらわれた」


「さ、さらわれた!?」


死者の王ハイ・キング……彼は噂に違わぬ魔法使いだね。やっとのところで引き分けだったよ」


 そのまま戦闘することも考えたが、恐らく相手には勝てないと踏んだ。威力が衰えているとはいえ、感じたのは底知れない狂気。


「……そんな奴にレイアがさらわれたって言うのか!?」


「まあ、最低限の安全は確保したよ。なんせ、マリアさんとの身代わりだからね……このままにしておくという手もあるが」


 闇魔法使いは、至極物騒なことを言った。


「彼女は、死者の王ハイ・キングにとって……それほどの存在だというのか?」


「ああ……彼女は奇貨さ。マリアさん、差し支えなければでいいのだが、君の身体を調べさせてもらえるかい?」


「はい……」


 変態魔法使いの変態発言に、即答の美女に、即座に現れる艶美な裸体に、思わず立ち上がるナイツ。


「バッ……お前なにをしようとーー」


「落ち着きたまえエロ魔法使い。ふしだらな想像をするな。今日に限っては医学的見地からの診察と捉えてくれたまえ」


「……っ」


 エロ魔法使いに図星をかかれたムッツリエロ魔法使い。


「……やはり、君の身体は造られたものだね」


 アシュは静かにつぶやく。


「はい……」


 そして、マリアは静かに答えた。













「私はゼノス様に造られた人形です」



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る