致命的


 ナルシーという魔法使いにしてやられたことで、リリーたちは戦略の見直しを迫られる。ジスパとダンは左右に散らばって、ミランダが後ろへ下がった。


<<氷刃よ 烈風で舞い 雷嵐と化せ>> ーー三精霊の暴虐トライデント・ヴァロス


 そして、リリーが三属性魔法を放つ。それぞれが全く別々の動きをして、なんのチームワークもない。しかし、予測できない状況の反応に関しては彼らはすこぶる早かった。


<<絶氷よ 幾重にも重り 味方を護れ>>ーー氷陣の護りレイド・タリスマン


<<土塊よ 幾重にも重り 味方を護れ>>ーー土陣の護りサンド・タリスマン


 対し、ナルシー率いるセザール王国のメンバーは上位互換の魔法壁を二人のメンバーで張って防ぐ。そして、残りのメンバーたちは動くナルシャ国メンバーに合わせて追随するほかない。


 個別同士の戦いに、戦闘はシフトされた。


 ジスパ、ダンがそれぞれ一人のメンバーを。


 ミランダがナルシーを。


 そして、リリーが残りの二人を。


「……ってなんで私がナルシーなのよ!」「なんで私が二人相手なのよ!」


「「……」」


 一糸乱れぬ戦闘運びではあったが、チームワークは皆無……いや、むしろ最悪。不平等を訴える二人に、無視する二人。底意地が悪く計算高いジスパとダンが我先にと積極的に誘導し、残りの貧乏くじを分け合った形だ。


「ふっ、ナメられたもんだ。小国の魔法使いの分際で、俺たち二人を相手にできるとでも思ってるのか?」


 これ見よがしに勝ち誇った笑みをうかべるセザール王国の生徒は、ギザース=ドレイ。


「なっ……なんですってぇ?」


 超負けず嫌いリリーが如実に反応する。


「だってそうだろう? 俺たちはお前たちより何十倍厳しい競争を制してここに来ている。必然的に俺たちの方が実力が上なことは間違いない」


 輪をかけてギザースの隣に立っているのは、ドルイド=ザスー。


「……内向的な自己顕示欲型ね」


「「なっ」」


「大国という巨大なグループに属していることで、人より優越的立場にいると思っている典型的勘違い野郎。それを証拠に自己評価が曖昧でなんの個性もない。『大国云々』とごく一般的な指標で相手を自分より下だと見下すその性根は悪い意味で腐りきっている。そもそも、二対一という数的有利を作られた立場で勝ち誇るなんて下種のような行為がよくできるわね? 私なら恥ずかし過ぎて自殺してるわ。だって、そうでしょう? 底意地の悪い私のチームメイトであるジスパとダンは、私ならあなたたち二人にも勝てると思ってこの状況をあえてリードしたんだから。そんなあなたたちが、自分たちの強さ自慢? エースを一人では対処できないから二人でマークしておいて『いや俺たちの方が強いんだぜ』って言ってるようなもんでしょう。ちゃんちゃらおかし過ぎて笑っちゃうわよ。そんなこと言うんなら、一対一で私と戦って見なさいよ。できないわよね知ってます最初から答えはもうわかっていますからあなたたちの答えは省くけどできないんならそんな発言は二度としないでできれば今後一生人を下に見るのはやめておいた方がいいと思いますだって私たちナルシャ国メンバーの評価ではあんたはこのメンバーの中で一番弱いんだから!」


 論理的であるかどうかはともかくとして。


 とにかく反論をまくしたてまくる。


「な、なっ……」


「そして言っておきますけど私、リリー=シュバルツは全国模試で2年連続首位の成績であんたたちいったい何位なのよ!?」


 ビシッ!


 超自己顕示欲型のリリーはバシッといい放ち。


 その間に魔力の溜めも完了する。


<<業火よ 愚者を 煉獄へと滅せよ 雹雪よ 嵐となりて 大地と 鋼鉄の力となれ>>ーー蒼天の誓いセナード・ストライク


 まくしたて美少女は四属性魔法を放った。


 あらゆる属性の魔法が入り乱れた至極の一撃は、問答無用とばかりに二人に迫る。


「なっ……くっ……ぐわあああああああああ」


<<絶氷よ 幾重にも重り 味方を護れ>>氷陣の護りレイド・タリスマン


<<土塊よ 幾重にも重り 味方を護れ>>ーー土陣の護りサンド・タリスマン


 破れるとわかっていながらも。


 全国模試158位のギザースと365位のドルイドは魔法壁を張らざるを得なかった。


 この一撃を耐えられる魔法を所有していない。


 いや、この一撃は確実に致命的な一撃だ。


 この舞台はある程度、魔法の威力が緩和される特殊な魔法陣が施されている。しかし、その効果をもってしても間違いなく完全に徹底的に致命的な威力。


 負けないためでなく、死なないための魔法壁。


 それは紙のように無残に破れ。


 見事に彼らは吹き飛ばされ。


 なんとか一命だけは取り留めることができた。


「はぁ……はぁ……よし!」


 グッと。


 躊躇なく致命的な魔法を放ったリリーのガッツポーズに。


「「「「……」」」」


 残った敵も、味方も、会場の観客も、全員ドン引きした。

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