作戦会議


 アシュが行方不明になって5日目の夜。ナルシャ国代表のメンバーたちが泊まっている部屋は、至極活気に満ち満ちていた。


「次の対戦相手セザール王国の情報は?」「大陸有数の大国だけあってチームの総合力は一番だと言われてるわ」「バランスもチームワークも問題なし。接近戦も遠隔戦も弱点はない」「属性的な弱点は?」「なし。苦手な属性もない。全員二属性魔法以上を扱える」「あー、死角が全くないな」


 メンバーは全員頭を抱えた。国家の規模ではセザール王国はナルシャ国の三十倍の人口を誇る。そして、人口と人材の有能さが多くの場合比例することは言うまでもない事実だろう。


「ちょっと待って……リーダーのナルシー=メリンダは強力な闇魔法使いよ」


 リリーが対戦相手の資料を見ながらつぶやく。


「闇魔法使いか」


「闇魔法使い……」


「……」


「……」


 い、いて欲しいときに限っていないと、全員が思った。


 ナルシャ国はアリスト教発祥の地であるので、ほとんどが聖魔法を得意としている。彼らと関係のある闇魔法使いは唯一アシュ=ダールのみ。


 ということで、彼らの闇魔法使いの印象は最悪である。


「やっぱり卑怯な手を使うかな?」「そんなの決まってるじゃない。警戒しておきましょう」「いや、やられる前にやるという手もあるぞ」「そ、それはいくらなんでも卑怯なんじゃ……」「そんなこと言ってると、即座に毒を飲まされるぞ」


 警戒につぐ警戒。いや、むしろ警戒し過ぎて『やられる前にやる』理論を本気で議論するメンバーたち。


「しかし、アシュ先生なにやってるんだろうね?」


 オレンジジュースをストローで飲みながらシスがつぶやく。


「ふんっ! どうせロクでもないことしてるに決まってるのよ」


 リリーがプリプリと怒りながら、乱暴に資料をめくる。


「でも……心配じゃない? なにか事件に巻き込まれてたりしないかな」


「……どちらかと言うと、事件に巻き込んで無関係な人に迷惑をかけている可能性が高いと思うけど」


「そんなことないよ。アシュ先生って、無闇に人を傷つける人じゃないよ」


「……そうかな」


「そうよ」


「……」


 激しく誤解というより、もはや被害妄想ではないかと疑問に思う金髪美少女。


「実はアシュ先生って優しいんだよ。みんなには、そのこと知っておいてもらいたいんだけどな」


「「「「……」」」」


 絶対に騙されていると、他メンバーの意見は一致した。


「でも、本当にどこをほっつき歩いてるのかしら……まったく」


 なんだかんだ、ことあるごとに愚痴るリリー。アシュがいなくなってから、せわしなくキョロキョロとあたりを見渡す回数が増えていることをシスだけは気づいていた。


「心配だね」


「そ、そんなわけないじゃない!」


「……本当に?」


「当たり前でしょ!」


 顔を真っ赤にしながら反論する金髪美少女。


「……本当に?」


「なっ、なんでそんなに疑うのよ!?」


「リリーはアシュ先生みたいに言葉と想いが違う場合があるから」


「……っ」


 いたずらっぽい微笑みを浮かべるシスに、ますます林檎のように頬を赤らめる天邪鬼美少女だった。









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