退出
珍しく真面目に話を聞いてると思ったら、全力で背後に集中していたモテた過ぎ魔法使い。眼前には、アシュにとって極めて重要人物。師匠ヘーゼン=ハイムの後継者と呼ばれ、その実力は疑いようもない。にも関わらず、そんなことは歯牙にもかけずに女性の目ばかり気にする主人に、有能執事は読唇術でこう答えた。
『いえ、まったく』
そんなくやり取りが発生してることなど、知るよしもないローランは、挑戦的な瞳をアシュに向ける。
「しかし、史上最強魔法使いと言われるヘーゼン=ハイム。彼の一族として言わせてもらえれば、そんなに偉大な人物であったのか甚だ疑問ですね」
「……」
後ろの女性が全然注目してないことがわかり、急に会話する気がなくなった非モテ魔法使い。
「彼が編み出した聖闇魔法。確かに、絶大な威力を発揮するがそれ自体は難しいものではない。まあ、僕にとってはですがね」
「……ククク」
「おかしいですか? もしくは、僕の言っていることが
「ヘーゼン先生……あなた、馬鹿にされてますよ。自分の一族にめちゃくちゃ。もし、ここに彼がいれば全力で聞かせてやりたかったね」
心地よさ気にカクテルを口にするアシュに、黒髪の青年は密かに舌打ちをする。
「それに……彼は聖魔法を使えぬ魔法使いすら捕らえることができずに、その生涯を終えました。僕ならば、そんなミスは侵さない」
「……君はアレだな」
アシュは静かにカクテルを置く。
「なんですか?」
「ヘーゼン先生がそんなに嫌いなんだな。まぁ、あの人は実力がどうのと言うよりは性格が最悪だったからな。人格的には最低で周りから嫌われまくってたから、その辺がよくわかってるね。まあ、君も性格が悪くて嫌われてそうだから、その辺は遺伝かな」
「……っ」
全然挑発に乗らないどころか、『性格が悪い』と至極真っ当な指摘を受け、黒髪の青年は舌を噛む。
「ローラン様」
そんな中、ミラが横から口を挟む。
「……なんですか?」
「アシュ様は非常に鈍いお方です。遠回しの皮肉では、その鋼のような心には一ミリたりとも響かないでしょう。そして、それに気づいたとしても皮肉には皮肉で。この方を表すとすればそんなお方なのです」
「おいおい、ミラ。そんなに褒めるんじゃないよ。まあ、身内が褒めると言うのだから本当なんだろうな。僕は本当に素晴らしい男なんだろうな」
チラッ、チラッと。
再び背後の視線を気にし始めたエロ魔法使い。
もちろん、そんな妄言など一言も聞いていない美女は、カクテルを飲み干して席を立つ。
アシュもまた存在し得ない手ごたえを感じ、カクテルを一気に飲み干して席を立つ。
「では僕も失礼しようかな。ご機嫌よう、ゼーソン君」
「ローラン様です、アシュ様」
「ふむ……覚えにくい名だね。変えた方がいいんじゃないかい?」
「恐ろしく大きなお世話かと思います」
そんなやり取りをしながら、バーの扉を開けて去っていくキチガイ主人と有能執事。
「……」
しばらく、その場に立ち尽くしていたローランにバーテンダーはスッとカクテルを出す。
「……ここで、捕らえるはずでは?」
「あの執事が邪魔だった。恐らく気づいていたよ」
何度も仕掛けようとしたが、そのたびに彼女の瞳がローランを捉えていた。
それに、アシュ=ダール……思った以上に喰えない男だ。
黒髪の青年は、大きく舌打ちをする。
「どうする?」
「……いくつか、罠は施した。うまく、引っかかってくれればいいのだが」
目的は正々堂々勝つことではない。いや、まともにやれば勝つことはわかりきっている。だが、相手は不老不死。そんな男を永遠近く封じるためには、いくつかの策は当然必要だ。
ローランは静かに笑い、血のように赤いカクテルを飲み干した。
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